改訂新版 世界大百科事典 「ノウムオルガヌム」の意味・わかりやすい解説
ノウム・オルガヌム
Novum organum
F.ベーコンの著作。最初1620年に《大革新》の第2部として刊行され,著者死後の45年にオランダで再刊されたとき,この名が付けられた。ノウムはラテン語で〈新〉,オルガヌムは〈論理学〉〈道具〉〈方法〉の意であるから,《新論理学》ないし《新方法》と訳すのが適切であるが,日本では明治以来誤って《新機関》と訳してきている。原文はラテン語で,アフォリズムの形で〈自然を解明し,知性をいっそう確かに働かせる技術そのもの〉を記している。その第1巻は〈破壊の部門〉で人間の理性や論証や既成の学説の批判にあてられ,有名なイドラの論もここに出てくる。イドラは人間の知性を占領しゆがめるものとして批判されるが,そのことを自覚することの重要性を主張したのであって除去せよといったのではない。〈知と力は一つに合する〉という言葉や帰納と演繹の二つの道,実験の重視もここに出てくる。第2巻は〈建設の部門〉で学問の目標,制作や認識の規則,自然の解明の順序を具体的な熱の例をあげて展開している。〈自然の探究は数学で終わるとき最良のものになる〉とか,事例表の作成,否定的事例や程度の表,特権的事例の重視などの重要な指摘もここに出てくる。主著の一つではあるが,この書物がこの題名で普及したため,ベーコンの意義を矮小化する結果をも招いた。この書はどこまでも《大革新》の一部にすぎない。
執筆者:坂本 賢三
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報