カジカ(読み)かじか(英語表記)sculpins

日本大百科全書(ニッポニカ) 「カジカ」の意味・わかりやすい解説

カジカ
かじか / 杜父魚

河鹿
sculpins

硬骨魚綱スズキ目カジカ科と、近縁のトリカジカ科、クチバシカジカ科、ケムシカジカ科およびウラナイカジカ科をふくむ魚類の総称、またはその1種。カジカ科Cottidaeの大部分北方冷水域にすみ、日本からは約90種ほど知られている。生息域は、潮だまりから1000メートル以深まで著しく広範囲に及ぶ。また、淡水域にもすむ。

 トリカジカ科とウラナイカジカ科のほとんどの種は深海にすむ。体の大きさも全長3センチメートルたらずから70センチメートルを超えるものまで、さまざまである。体は一般にやや縦扁(じゅうへん)し、腹面が扁平のものが多い。背びれは多くは2基(ウラナイカジカ科では1基)で、後部の軟条部は臀(しり)びれと対在する。普通、前鰓蓋骨(ぜんさいがいこつ)に硬くて鋭い棘(とげ)をもつ。腹びれは小さくて退化的である。カジカ類のなかで、とくに食用として重要なものは、北日本の沿岸にすみ、全長30センチメートルに達するトゲカジカMyoxocephalus polyacanthocephalus/great sculpinやケムシカジカHemitripterus villosus/sea ravenなどで、両種ともトロールや刺網(さしあみ)などで漁獲される。

 和名カジカCottus polluxは、鹿肉(しかにく)のようにうまい魚という意味で「河鹿」とも書く。北海道南部から本州、四国、九州の河川に広く分布する日本固有種であるが、後述するように、型によって分布は多少異なる。頭がやや縦扁し、胸びれ条がすべて分枝せず、前鰓蓋骨棘(きょく)が1本であるのが特徴。おもにトビゲラ類やカワゲラ類などの昆虫の幼虫を食べる。全長15センチメートルぐらいになる。産卵期は早春~初夏。雄は体が黒っぽくなり、背びれが鮮やかな黄色で縁どられる。平たい石の下のすきまに次々と雌を誘い込み、石の天井に産卵させる。一夫多妻的な産卵形態をとる。産卵後、雌は立ち去るが、雄は卵を保護する。本種には、生活型と遺伝型が異なる3型が存在する。生涯淡水で生活するものは大形の卵(卵径2.6~3.7ミリメートル)を、海に下るものは小卵(卵径1.8~3.1ミリメートル)または中卵(卵径2.2~3.2ミリメートル)を産む。大形卵は、大きな卵黄嚢(らんおうのう)をもち、体の発生がかなり進んだ段階で孵化(ふか)し、近くの小石の間で底生生活をする。小形卵と中形卵から孵化した仔魚(しぎょ)は、小・中の卵黄嚢をもち、卵黄を上にして川を下り、海に入る。前者は1か月ほど、後者では2~3週間ほど浮遊生活をしてから底生生活に移り、川を遡上(そじょう)する。おもに下流域の流れのゆるやかな砂礫底(されきてい)の浅瀬を好む。それぞれは、形態的にも差があり、生殖的にも隔離されていることから、別種であると考えられている。3型の分布域は多少異なる。大卵型は本州のほとんど全域、四国、九州の北西部に、中卵型は本州の日本海側と瀬戸内海、九州の一部に、小卵型は本州と四国の太平洋側に分布する。

 石川県金沢名物のゴリ料理は大部分ハゼを用いるが、かわりにカジカを用いてマゴリと称して珍重する。そのほか、淡水産のカジカ類としては、ヤマノカミカマキリハナカジカ、カンキョウカジカ、エゾハナカジカなどが知られている。琵琶湖(びわこ)にのみすむウツセミカジカはカジカの小卵型にきわめて近いが、卵はいっそう小さい。

[尼岡邦夫]


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改訂新版 世界大百科事典 「カジカ」の意味・わかりやすい解説

カジカ (鰍)

カサゴ目カジカ科Cottidaeに属する魚類の総称,またはその1種を指す。カジカ科は種分化が著しく,日本近海にも110種以上が記録されている。淡水域から沿岸の潮だまりや1000mを超す深海まで生息域はきわめて多様である。ふつう体には2基の背びれがあり,しりびれは第2背びれと向かい合う位置にあり,大きな胸びれをもち,その前方の前鰓蓋骨(ぜんさいがいこつ)には後方に向くとげがあることなどが多くの種に共通した特徴としてあげられる。大きさも成体でわずか3cmにも満たないカワリアナハゼから50cmに達するヤリカジカまでさまざまである。カジカ類のうち淡水産のものは食用とされることが多いが,海産種はほとんど食用にならない。

 カジカCottus japonicusは北海道南部から本州,四国,九州に分布する。一生を淡水で終える淡水型と孵化(ふか)後海に下る降海型の二つの生活型がある。うろこがなく,皮膚が滑らかなのが特徴。体の背方は灰色または褐色で,腹方は白っぽい。背面には5条の暗色横帯がある。全長15cmになる。産卵期は2~5月ころで,雄はこの時期体色が黒っぽくなり体の斑紋が不明りょうとなる。産卵は瀬の下の石の隙間で行われ,1回に数千粒の卵塊が産みつけられる。下流に面したところにだけ出入口がある石の隙間で,雄は胸びれを動かして卵塊に酸素を供給し保護する。産卵適温は7~9℃。卵径は淡水型で2.5~3.5mmであり,降海型では2mm前後とやや小さい。孵化直後の体長は7~7.8mmである。肉食性でトビケラ類やカワゲラ類などの水生昆虫の幼虫を食べる。本種を北陸地方ではゴリ,とくに金沢ではマゴリと呼び,これを素材にした〈ゴリ料理〉は名物として有名である。また,つくだ煮などにもされる。漁法としては下流に網を置き,上流の石を棒でもんでカジカを脅かし,下流の網に追い込む〈カジカ押し〉が有名である。

 カマキリC.kazikaは山形県以南の河川に分布する。淡水産のカジカとしてはもっとも大型になり,全長35cmに達する。成魚の胸びれの軟条の先端が分叉することおよび前鰓蓋骨に4本のとげがあり,もっとも上のとげが大きくて上方に曲がることが特徴である。このとげを利用してアユを引っかけるという説があり,アユカケの別名をもつ。春や秋には実際に腹の中から大きなアユが出てくることがある。体長10cmを超すともっぱら魚食性となる。夏の日中は石の下に潜み,腹側に手を触れても逃げないので,手づかみでつかまえることができる。春先に河口で産卵し,親は産卵後海に下って死ぬが,子どもはいったん海に下ってから川に上る。福井県の九頭竜川はカマキリの特産地で〈アラレガコ料理〉は名物になっている。アラレガコは毎冬川を下るころ,あられが降ることが多く,真っ白な腹に白いあられがあたるという意でついた名である。

 ヤマノカミTrachidermus fasciatusは同じく淡水産で,日本では有明海に注ぐ福岡,佐賀両県の河川にだけ分布する種類である。カジカに似てほおの骨が盛り上がる様が角を出した山の神を連想させることからついた名といわれる。全長15cmあまりになる。11~12月ころ川を下り海に入って,1~3月ころに有明海の湾奥部の干潟で貝殻などに産卵する。産卵期には雌雄ともに鰓膜(さいまく)やしりびれの基部が赤くなる。稚魚は4~5月ころになると川を上る。このほか,ヤリカジカは別名ナベコワシとも呼ばれ,たいへんおいしい魚だとされる。他のカジカ類はせいぜい練製品に利用されるくらいである。
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百科事典マイペディア 「カジカ」の意味・わかりやすい解説

カジカ

カジカ科に属する魚類の総称,またはその1種。日本では110種以上が記録され,淡水域から沿岸の潮だまりや1000mを超す深海まで生息域は多様。食用とされるもののほとんどは淡水産である。代表種カジカは背面が灰色または褐色で,暗褐色の斑紋がある。北海道南部から本州,四国および九州北西部に分布。水の澄んだ瀬の底にすみ,おもに昆虫の幼虫を食べる。全長15cmになる。産卵期2〜5月。美味。金沢の〈ゴリ料理〉の素材は,本種である。近縁種にヤマノカミ,ヤリカジカ(別名ナベコワシ),カマキリなど。また地方によってはハゼ科のヨシノボリなどもカジカと呼ばれる。
→関連項目おこぜゴリ

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「カジカ」の意味・わかりやすい解説

カジカ
Cottus pollux

カサゴ目カジカ科の淡水魚。全長 15cm内外。頭は大きく,幅広い。背部は褐色で,腹部は淡く,体側には 4~5個の暗色の斑紋がある。河川の石礫底に多くすむ。肉食性で,昆虫や小魚などを食べる。3~6月に雌が石の下などに卵塊を産み,雄がこれを保護する。食用に供される。本州,四国,九州北西部の河川に分布する。

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栄養・生化学辞典 「カジカ」の解説

カジカ

 [Cottus pollux].カジカ目の淡水魚で,佃煮などにして好まれる.

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世界大百科事典(旧版)内のカジカの言及

【カジカガエル(河鹿蛙)】より

…美声で知られる渓流性のアオガエル科の1種(イラスト)。一般にカジカの名で親しまれ,初夏の渓流をさわやかに流れる雄の歌声が,昔からめでられてきた。日本の固有種で,本州,四国,九州に分布し,山間の比較的川幅が広く転石の多い清流にすむ。…

【ゴリ】より

…霞ヶ浦付近ではゴロと呼ぶ。金沢名物のゴリ料理にはハゼ類のほかにカジカも使われるが,カジカは最上品とされハゼ類と区別してマゴリと称される。【羽生 功】。…

【琵琶湖】より

…ニゴロブナとゲンゴロウブナ,ホンモロコ,ビワコオオナマズとイワトコナマズ,イサザがそれで,それぞれ日本各地に広く分布するキンブナ,タモロコ,マナマズ,ウキゴリから,琵琶湖の広い沖帯を利用すべく進化したものである。またビワマスはアマゴとはすでにかなり異なっているし,アユ,カジカ,ヨシノボリも琵琶湖にすむものと他水域のものとはいくらか違っている。これらは現在種分化の途中にあるものであろう。…

※「カジカ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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