日本大百科全書(ニッポニカ) 「オコゼ」の意味・わかりやすい解説
オコゼ
おこぜ / 虎魚
鰧
devilfish
goblinfish
stonefish
velvetfish
硬骨魚綱スズキ目に属するオコゼ類の総称であるが、一般にオコゼとよばれているのはオニオコゼのことである。オコゼ類の頭は一般に凹凸が激しく、顔つきがよくないので、名は「醜い」という古語に由来するといわれている。オコゼ類はメバル類やカサゴ類と近縁で、背びれが頭部の直後から始まる群と、目の上から始まる群に大別される。前群はさらに、体に鱗(うろこ)がないオニオコゼ、ダルマオコゼ、ヒメオコゼ、オニダルマオコゼなどを含むオニオコゼ科と、体が細かい多数の棘(とげ)で覆われているダンゴオコゼ、ワタゲダンゴオコゼなどを含むフサカサゴ科に分けられる。後群は、体に多数の細かい棘をもつイボオコゼ、アブオコゼ、カゴシマオコゼなどが属するイボオコゼ科と、体に棘がないハオコゼ、ハチオコゼ、ヤマヒメなどが属するハオコゼ科に分けられる。
大部分は本州中部以南に分布し、砂地、岩礁、藻場(もば)、サンゴ礁などに生息するが、なかには北海道南部でもまれに見られるものもある。体は側扁(そくへん)して細長いもの、高い卵形のもの、やや縦扁したものまで変化に富む。一般にこの類は背びれの棘が強大で、付け根に毒腺(どくせん)をもつものが多く、刺されると激しい痛みに襲われる。オニオコゼを除いて、食用とされているものはほとんどないが、姿が奇異なので水族館では人気がありよく飼育されている。
[尼岡邦夫]
オニオコゼ
オニオコゼInimicus japonicusは北海道南部以南、朝鮮半島南部、台湾、南シナ海北部に広く分布する。体は前部で上下に扁平、後部では左右に扁平である。頭の背面は上あごの中央部と目が突出し、目の前方に深いくぼみがあり、著しく凹凸が激しい。口は大きくて上を向き、頭部の側面と下あごに多くの皮弁がある。この面構えはさながら醜い鬼の面を連想させる。背びれの膜は深く切れ込むが、とくに第3棘(きょく)と第4棘の間で深い。背びれの毒性は強く、英名をデビルスティンガーdevil stinger(悪魔の棘(とげ))といい、ヨーロッパでは恐れられている。体色はすむ場所によって変化し、藻場では赤紫色、砂泥地では暗灰色、深所では赤色または黄色が強い。東京地方では黄赤色のものをとくにアカオコゼとよんで、ほかの色のものと区別している。
水深200メートル以浅の砂泥底や藻場にすみ、昼間は砂に潜り、藻に隠れ、夜に活動する。近づいてくる魚や甲殻類などの小動物をすばやくまる飲みにする。産卵期は6月下旬から8月中旬で、直径1.3~1.4ミリメートルの分離浮性卵を産む。水温20~24℃では41時間で孵化(ふか)する。8ミリメートル前後になった仔魚(しぎょ)は、頭部に多数の棘があること、胸びれが著しく長く、背びれや臀(しり)びれの後端近くまで達すること、胸びれの後縁と下方の基部が黒いこと、尾部の前方と中央部にそれぞれ1個の大きい黒斑(こくはん)があることなどの特徴をもつ。この期の仔魚は7~9月にかけて沿岸の中底層にかなり出現する。成魚は全長25センチメートルに達する。
定置網、底延縄(そこはえなわ)、底刺網(そこさしあみ)などで漁獲され、活魚で市場に出ることが多い。肉は白身で脂肪が少なく、刺身、から揚げ、てんぷら、吸い物、ちり鍋(なべ)などにするとおいしい。背びれの棘には猛毒があり、刺されると激しく痛み、腫れて赤くなり、ひどい場合にはけいれんや呼吸困難がともなう。
[尼岡邦夫]
民俗
「山の神にオコゼ」とは、好物を見て喜ぶさまをいうが、山の神信仰とオコゼの関係は古く、室町時代の『御伽草子(おとぎぞうし)』にもみえる。それは、山の神が醜女(しこめ)なので、オコゼを見ると、自分よりも醜いものがあったと喜ぶとか、またオコゼの棘が魔除(まよ)けや、病気を治したり失(う)せ物を発見するのに呪力(じゅりょく)があるとか、子供の食い初(ぞ)めの膳(ぜん)につければ一生涯、魚の骨がのどにささらないとか、美味な魚なので山の神の神饌(しんせん)に用いられたなどと、さまざまに伝えられているが、その理由ははっきりしない。また山の神の祭りにオコゼを必要とする地方は多く、三重県尾鷲(おわせ)市などでは、懐(ふところ)に入れたオコゼを、神さまにちらりと見せて氏子一同で大笑いしたり、猟師がオコゼを懐中にして猟に出て「獲物を授けて下さればみんな見せます」と出すまねをして山の神に祈願する。
なお、山の神が好むオコゼには山オコゼと海オコゼがあり、山オコゼとは、陸産のキセルガイやイタチ、マムシ、毛虫など気味の悪い動物をさす場合もある。
[矢野憲一]