二酸化炭素など温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させ、排出量を実質ゼロに抑えるという概念。もともとは生化学や環境生物学の用語で、人類が生きていくには温室効果ガス排出は避けられないので、排出を吸収で相殺し、地球温暖化への影響を軽微にしようとの考え方に基づいている。「カーボンゼロ」「カーボンオフセット」「排出量実質ゼロ」「炭素中立」なども似たような意味で用いられる。気候変動など温暖化問題が地球規模で深刻になるなか、カーボンニュートラルは脱炭素化社会の実現やグリーン成長戦略のキーワードとなっている。カーボンニュートラルの達成年次として、日本、ヨーロッパ連合(EU)、韓国などの政府は2050年を、中国政府は2060年を目標としている。
カーボンニュートラルの実現には、(1)排出分の吸収、(2)排出量の削減、(3)排出量取引、の三つの手法がとられる。吸収策では、植林などで直接吸収量を増やすほか、熱帯雨林の開発抑制、森林伐採や森林火災の防止が有効とされる。二酸化炭素を地下に貯蔵したり再利用したりするCCUS(二酸化炭素の回収・利用・貯留)技術の実用化や、海水による吸収・化学吸収・物理吸着技術の研究も進んでいる。排出量の削減では、発電、製鉄などの工場、自動車、運輸・輸送分野で化石燃料の利用を抑制・禁止し、太陽光や風力などの再生可能エネルギー、水素エネルギー、植物由来の物質(バイオエタノール、木質ペレット、農業廃棄物など)活用へ転換する。二酸化炭素排出量の多い石炭から少ない液化天然ガス(LNG)などへの転換のほか、次世代原子力発電炉の開発、温暖化効果の高いフロンガスの使用禁止、家畜・水田・ゴミ埋設処理場でのメタン排出抑制、化石燃料の利用に応じて課税する炭素税(環境税)導入などがある。排出量取引は、国、自治体、企業などの経済主体ごとに排出許容限度を定め、限度を超えて排出する経済主体が限度未満の経済主体から排出量(排出枠)を買い取る仕組みで、低炭素技術の開発・導入や排出抑制のインセンティブになるとされる。炭素税や排出量取引などのカーボンプライシング(炭素の価格付け)は排出・吸収過程を見える化(数値化)できるほか、投資や雇用を生む経済効果も期待される。なお二酸化炭素の排出量を吸収量が上回る場合はカーボンネガティブcarbon negative(カーボンポジティブcarbon positiveも同じ意味で使われることが多い)といわれる。
[矢野 武 2021年4月16日]
(槌屋治紀 システム技術研究所所長 / 2007年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
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