翻訳|biomass
生物体量または生物量ともいう。ある時点に任意の空間内に存在する特定の生物群の量を,重量やエネルギー量で表したもの。乾燥重量を用いることが多いが,湿重量や,ときには生物体の主要な構成成分である炭素や窒素量で表すこともある。現存量と同義に用いることも多く,植物についてはとくにその傾向が強い。日本で〈バイオマス〉と表現する場合は,石油エネルギーに代わる生物エネルギー資源としての生物量の意味が強くなり,1973年秋以降の石油危機問題と関連して広く一般的に使われるようになった。
生物量は生物生産により増加するが,群集の呼吸量,枯死脱落量,被食量などを差し引いたものが蓄積量となる。生態系においては,栄養段階の低い生物群の生物量が多く,それを食う高次の生物群の生物量は少ない。これらの間の関係は生態学的効率として表される。
地球上の生物量についての関心は,資源問題がクローズアップされるに伴い強くなり,多くの研究者が生物量の推定を試みている。しかし,推定値にはかなりの幅がある。現在,比較的広く採用されているのはR.H.ホイッタカーらによる推定値(1973)である。これによると,単位面積当りの生物量の最大は森林であり,なかでも熱帯多雨林は平均約45kg/m2(6~80kg/m2)と際だって多く,これに熱帯季節林,温帯常緑樹林が次ぐ。草本や水中のプランクトン群集などは生産力は高いが,生産した有機物を維持,蓄積する手段がないため,生物量は少ない。
地球全体としての生物量も,熱帯多雨林が765×109tとひじょうに多く,地球上の全生物量の41.6%を占める。これに次いで熱帯季節林,北方針葉樹林,温帯落葉樹林などが続くが,占有面積が地球の10%前後の森林が,地球上の生物量の90%以上を占めることは驚異的ですらある。しかしながら,東南アジアなどの大規模な森林伐採や開発などにより,地球上の生物量は年々変化しつつあり,これと地球規模の環境変化とのかかわりも指摘されている。
執筆者:林 秀剛
地球上の生物圏においては,動植物遺体を微生物が分解して,無機物に還元するという物質循環サイクルがあるが,この微生物(分解者)に代わって,人間が有効にエネルギーや有機原料に利用しようというのがバイオマス変換(利用技術)である。
枯葉やわらで飯を炊いたり,薪で蒸気機関車や自動車を走らせたり,松明で明りをとるなどはバイオマスの直接的利用であり,木材を蒸焼きにして木炭を得,微生物を使ってアルコールに変えたり,メタンガスを発生させたり,また,わらなどを腐らせて堆肥にするなどはバイオマスの変換利用である。
現在のエネルギー源で大きなウェイトを占める石油は,そう遠くない将来,枯渇することが予想されており,それに代わるエネルギー源の必要性が叫ばれて久しい。光合成の研究で1961年にノーベル化学賞を受賞したアメリカの化学者メルビン・カルビンは〈石油枯渇時代に備え,植物を仲介して太陽エネルギーを利用する技術を蓄積しよう〉と提唱し,76年9月に開かれたアメリカ化学会では〈石油のなる木(ホルトソウ,アオサンゴ)を発見した〉と発表している。
その後78年末からの第2次石油ショックを契機に,世界各国でバイオマス利用に関する研究が盛んに行われ,日本でもコアラの食樹として知られるユーカリの葉から採った油が,ガソリンの代替物として自動車の燃料となることが立証された(1979-80)。
酒造りと同じ発酵法で,サトウキビやキャッサバからアルコールを得,ガソリンに混合するガソホールgasohol(ガスホール,ガスコール,ガソールともいう)の研究も盛んで,ブラジルやアメリカではすでに一部実用化されており,アルコールだけで走る自動車もある。
とくにバイオマス利用に関心が深いのは,東南アジアやアフリカの非産油開発途上国で,石油購入の外貨が不足するために,バイオマス利用のエネルギー開発が急務となっている。
執筆者:杉藤 和夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
ある時点にある空間に存在している生きた生物体の量をいい、生物体量、生物量、現存量ともいう。普通、バイオマスは重量あるいはカロリー量で表され、個体群や生物群集について用いられる。
バイオマスは、あくまである時間断面における生物の量を表したもので、それまでの生物生産の結果として存在する量である。生物は、一方で繁殖や成長などによって絶えず生産され、他方では死亡や捕食などを通じて絶えず失われていく。バイオマスはこれら背反する二つの過程のなかで表されるある時点における量で、生産性あるいは生産速度と混同してはならない。海の藻場やサンゴ礁での純一次生産速度は、熱帯降雨林に匹敵するほど大きいが、バイオマスは20分の1以下である。
[牧 岩男]
従来、農業においては目的とする生産物の収量にのみ重点が置かれ、しかも貨幣経済のなかでの収支を問題とし、それらを基調として農業技術の開発が行われて近代農業が確立された。しかし、1978年(昭和53)末からの第二次石油ショックが契機となって、植物体に有機物として蓄えられた太陽エネルギーを積極的に利用することが考えられるようになり、バイオマスとかバイオマスエネルギーという用語がしばしば用いられるようになった。そして広くは植物性廃棄物などのエネルギー化や、生物生産の目的となっている以外の未利用部分のエネルギーとしての活用を含めての意味で用いられている。農学関係でバイオマスという場合には、一定面積からの最大のカロリー生産量を期待して、どのような植物がよいかの広範囲な探索調査が進められ、生産量とエネルギー化の両面から研究が行われている。話題となっているものには、アルコール生産原料としてのサトウキビ、サツマイモ、キャッサバなどや、含有精油成分を考えてのユーカリノキ、コパイフェラなどがある。
また、植物全体としての収量のもっとも高い植物はないかという面から探索研究が進められ、ネピアグラスは1ヘクタール当り60~80トンが見込みうるということで注目を浴びている。しかし種類によって、それぞれ発酵によるアルコールとかメタンガス生産の原料としてエネルギー化をするとか、精油成分蒸留とか溶剤による抽出を行わなければならない。したがって、原料生産とエネルギー化の過程における消費エネルギーと生産エネルギーの収支と、貨幣経済のなかでの収支がどのようになるかを、十分に検討する必要がある。また、このような場合エネルギー化のみを考えるのではなく、付加価値の高い抗菌性物質とか医薬として利用できる成分などの探索を行い、複合的にみての評価を行う必要がある。
さらに農学上、生態学的用語を取り入れるとすれば、バイオマスという用語のもつ基本的な意味を理解し、エネルギー化のみにこだわらず、その考え方のもとに複合的な組合せによる総合的な最大生産量をあげうる生産体系を考えるべきであろう。
[近藤典生]
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
(飯田哲也 環境エネルギー政策研究所所長 / 2007年)
(槌屋治紀 システム技術研究所所長 / 2007年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
生物,とくに植物を資源の面からみたときの名称.石油,石炭,ウランなどの有限資源に対して,自然界で再生可能な資源の一つと位置づけられる.植物は死滅したり,燃料,化学工業原料などとして用いられても,最終的には水,二酸化炭素,窒素,リン,カリウム,その他を含む有機または無機質へ転化され,これらは自然界の光合成循環系に組み込まれ,植物群として再生される.このように,大気中の二酸化炭素から再生できるバイオマスは,燃焼しても大気中の二酸化炭素濃度を増やさないエネルギー資源と考えられ,重要視されている.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
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【オイルシェール,タールサンド】
オイルシェール,タールサンド(オイルサンド)は,液状のエネルギー,すなわち石油資源が不足するとの見通しから,強い関心が払われた。エネルギー一般としては,原子力,地熱,水力資源が大きな役割を果たすことができるが,内燃機関用燃料として石油に代わりうるのは,石炭液化燃料か,もしくはオイルシェール,タールサンド,ないしはバイオマス利用によるアルコールくらいしか考えられないからである。 このオイルシェールの確認可採埋蔵量については世界エネルギー会議は石油に換算して142億t,タールサンドについては36億tと推計している。…
…潮流,濃度差はいずれもまだ実験室段階である。 このほか海洋バイオマスを利用したエネルギー化システムが開発されつつある。これは海藻のうち大型になり,単位面積当りの収量の多い(たとえば10kg/m2以上)生産性の高いものを選び,多量に栽培し,収穫したうえ,発酵システムによってメタンガスを得る方法である。…
※「バイオマス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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