惑星大気の存在によって、その表面が保温される場合の効果をいう。すなわち、大気自身は太陽からの可視部の短波放射に対しては透明であり、大気を通り抜けたこの放射は地表に吸収される。これに対して、地表から放出される長波放射(赤外線)の一部は大気に吸収され、その大気自身も長波を放出し、この放出されたものの一部は地表に戻ってくる。大気にはこのような働きがあるため、地表の平均気温はおよそ15℃になっているが、これは大気がまったくないときに比べると33℃も高い気温である。このような働きを温室のガラスに例えた場合、ガラスは光線を通すが、内部の熱を逃がさないために保温効果があるということと似ているので、この現象を温室効果という。
大気中の成分でもっとも温室効果の大きいのは水蒸気と二酸化炭素である。化石燃料の消費や農耕地の拡大などが原因で二酸化炭素は年を追って増大しつつあり、そのための温室効果によって地球全体の気温上昇が観測されている。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)第四次評価報告書(2007)によると、今後約100年の間に気温が上昇する範囲は1.8~4.0℃と予想されている。人間が大気という自然に与えている影響として、二酸化炭素の増加による温室効果の増大は無視できない問題となってきている。そのため温室効果をもたらす二酸化炭素の排出量削減に関する問題が、1992年に「環境と開発に関する国連会議」(地球サミット)で討議され、気候変動枠組み条約(気候変動に関する国際連合枠組み条約)が成立した。1997年には京都で、地球温暖化防止京都会議が開催され、地球温暖化防止対策と措置を定めた京都議定書が採択された。しかしその後も、温室効果の増大は、懸案の重要問題であり、さらに効果的な地球温暖化対策のための国際的枠組み合意に向けて国際交渉が進められている。
[根本順吉・青木 孝]
『生田豊朗ほか著『温室効果ガスと地球温暖化――影響と対策、展望』(1989・アグネ承風社)』▽『A・ブディコほか著、内嶋善兵衛訳『地球大気の歴史――その進化と未来を探る』(1989・朝倉書店)』▽『ジョン・グリビン著、加藤珪訳『オゾン層が消えた』(1989・地人書館)』▽『根本順吉著『熱くなる地球――温暖化が意味する異常気象の不安』(1989・ネスコ)』▽『気象庁編『温室効果気体の増加に伴う気候変化2』(1990・大蔵省印刷局)』▽『霞が関地球温暖化問題研究会編訳『IPCC地球温暖化レポート――「気候変動に関する政府間パネル」報告書サマリー』(1991・中央法規出版)』▽『ジョン・グリビン著、山越幸江訳『地球が熱くなる――人為的温室効果の脅威』(1992・地人書館)』▽『慶応義塾大学理工学部エネルギー・環境研究グループ編『二酸化炭素問題を考える――問題の実態と対策に関する諸見解をめぐって』(1994・日本工業新聞社)』▽『地球環境と大気汚染を考える全国市民会議編『しのびよる地球温暖化』(1996・かもがわ出版)』▽『環境庁地球環境部編『京都議定書と私たちの挑戦――「気候変動に関する国際連合枠組条約」に基づく第2回日本報告書』(1998・大蔵省印刷局)』▽『ジョン・ベイン著、高野尚好日本語版監修『大気と地球温暖化』(1999・小峰書店)』▽『安成哲三ほか編、中沢高清ほか著『岩波講座 地球環境学3 大気環境の変化』(1999・岩波書店)』▽『住明正著『地球温暖化の真実』(1999・ウェッジ)』▽『水谷洋一著『2010年地球温暖化防止シナリオ』(2000・実教出版)』▽『西岡秀三編、環境省地球環境局『温室効果ガス削減技術――京都議定書の目標達成のために』(2001・エネルギーフォーラム)』▽『気候ネットワーク編『よくわかる地球温暖化問題』(2002・中央法規出版)』▽『伊藤公紀著『地球温暖化――埋まってきたジグソーパズル』(2003・日本評論社)』▽『原沢英夫・西岡秀三編著『地球温暖化と日本――自然・人への影響予測 第3次報告』(2003・古今書院)』▽『近藤洋輝著『地球温暖化予測がわかる本』(2003・成山堂書店)』▽『気象庁編『地球温暖化予測情報第5巻』(2003・気象業務支援センター)』▽『住明正著『エルニーニョと地球温暖化』(2003・オーム社)』▽『住明正著『さらに進む地球温暖化』(2007・ウェッジ)』▽『江守正多著『地球温暖化の予測は「正しい」か?』(2008・化学同人)』▽『小西雅子著『地球温暖化の最前線』(2009・岩波書店)』▽『IPCC編、文部科学省・経済産業省・気象庁・環境省訳『IPCC地球温暖化第四次レポート――気候変動2007』(2009・中央法規)』▽『根本順吉著『超異常気象――30年の記録から』(中公新書)』▽『浅井冨雄著『異常気象はこう進む』(小学館文庫)』
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大気中の水蒸気や二酸化炭素などが放出する赤外放射によって,下層大気が温められる効果。温室のガラスは風を防ぐ以外に日射を素通りさせるが,温室内から放出される赤外放射を吸収して,温室内を温める。同様に,大気中の二酸化炭素などは日射を素通りさせるが,地表からの赤外放射を吸収する。吸収された放射の大部分は地球に向かって放射され,下層大気を温める。この効果は温室の機能に似ているので温室効果という。
執筆者:朝倉 正
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大気中の水蒸気や二酸化炭素などには,可視光線は通過するが赤外線の一部を吸収する性質がある.紫外線や可視光線を含む太陽光は地表面で吸収され,加熱された地表面から宇宙空間に放出される赤外線の一部がこれらのガスによって吸収され,地表に向かってふたたび放出される.このため,二酸化炭素などの大気中の濃度が増加すると,地球から放出されるエネルギーのうち大気にとらえられる割合が増加して,地球全体の平均気温を上昇させることになる.このような現象を温室効果とよび,二酸化炭素,メタン,亜酸化窒素などの温室効果を生じさせる気体を温室効果ガスという.化石燃料の大量消費による大気中の温室効果ガスの増加が,地球温暖化の有力な原因である.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
(饒村曜 和歌山気象台長 / 宮澤清治 NHK放送用語委員会専門委員 / 2007年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
… 大気中の気体は日射を素通りさせるが,二酸化炭素,水蒸気などの気体や雲は地表からの赤外放射を吸収し,その大部分を地表に戻し,大気をあたためる。日射は通すが赤外線を吸収して室内をあたためる温室のガラスに似ているので,この効果を温室効果という。
[大気中の熱収支]
大気は日射をわずか吸収するだけで,放出する赤外放射のほうが多い。…
…人類の生活空間が拡大し,自然の山野が開かれ海や河川が埋め立てられ,都市が発展してコンクリートやアスファルトで地表面がおおわれることによる気候の変化は,ヒートアイランドを出現させたり,蒸発散率を著しく変え,砂漠化現象や異常気象の原因をつくる。また,大気汚染物質,とくに炭酸ガスの増加は,地表面から大気中への放熱を妨げ,気温を上昇させることになる(温室効果)。都心部の密集住居群にあっては,風通しの悪さに加えてコンクリートやアスファルトなどの熱容量の大きな人工構築物が夜間の冷却を妨げ,熱が何日も累積した地表面では露点温度以上の日が続き,地中温度をも異常な高温状態にして地中の生物を死滅させる。…
※「温室効果」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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