ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「カーボンオフセット」の意味・わかりやすい解説
カーボンオフセット
carbon offset
二酸化炭素排出量の削減には,みずから削減行為を行なう以外にも方法がある。世界各地の炭素市場では省エネルギー機器の導入や森林経営などの取り組みによる排出削減量や吸収量が「クレジット」と呼ばれる証明書として取り引きされており,炭素市場でこれらのクレジットを購入することによって,排出量を埋め合わせることができる。気候変動枠組条約 UNFCCCの京都議定書などの履行制度の一環としても行なわれ,温室効果ガスの排出量削減目標を達成するために,各国が排出枠の取り引きを行なっている。ほかに,ヨーロッパ連合内で排出量を取り引きするヨーロッパ連合域内排出量取引 EU-ETSや,先進国同士が排出量削減や排出除去のプロジェクトを共同で行なう共同実施 JI,先進国が発展途上国内で排出量削減や排出除去のプロジェクトを行なうクリーン開発メカニズム CDMなどを通じて,取り引きすることもできる。企業も自主的にカーボンオフセットのクレジットを購入することができ,大口購入者には,炭素中立を目指すオリンピック競技大会など大規模イベントの運営主体や,グーグル,HSBCホールディングス,イケアなどの企業がある。自主市場は概して規制されていないが,市場の質を評価するための国際規格がいくつか策定されている。日本では,2008年に国内の排出削減や吸収量を認定するオフセット・クレジット J-VER制度(2013年に J-クレジット制度に統合)が,2012年にはカーボン・オフセット制度が開始された。
カーボンオフセットを実施する過程では,削減量の定量化や,当事国の温室効果ガスの削減が実際にどう生じているかの検証など,課題も多い。ある年に炭素量の相殺を目的に植えられた木は,将来も除去してはならないといった,排出量削減の永続性を考慮することも必要である。また,森林破壊が回避される代わりに別の場所が破壊されるといったように,結果的に排出量を増やす「リーケージ(漏れ)」を防ぐことも重要になる。
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