熱帯アメリカ原産の地下にいもを形成するトウダイグサ科のやや木本性の植物。現在は熱帯域で広く栽培される重要な食用作物。和名はイモノキ。キャッサバというのが一般的だが,地域によってはマニオクmanioc,タピオカtapiocaとも呼ばれ,その名が日本名としても使われることがある。
白色の乳液を有する草本状の低木で高さは3mに達し,上部でよく分枝する。地下には根が肥大したいもを形成する。葉は10~20cmの葉柄があり,葉身は深く3~7掌状深裂し,各小葉片は長倒卵形から披針形で先端はとがり,長さ8~20cm,ほぼ無毛だが葉裏の葉脈上にはこまかい毛を有する。花は通常,枝端の総状花序につき,花弁はなく雌雄異花である。萼片はつりがね状で5裂し,緑色。果実は蒴果(さくか)で,3室に各1個の種子がある。
いもは細長いダリアの球根のような形状をし,長さは通常30~80cm,直径5~10cmになる。薄い外皮は明るい灰褐色で,肉質部は通常,白色,時に黄色をおびている。中心部には繊維が多いが,ゆでるとやや硬い粉質で,甘みのないサツマイモのようでくせがなく,デンプンを20~30%含むが,タンパク質やビタミン類はほとんど含有していない。単位面積あたりの収量が高く1haあたり約10tになり,乾燥にも強いし,約30cmほどに短く切った茎を畑につきさすだけで繁殖させることができるし,土質も選ばないので,全世界の熱帯で重要な主食デンプン源植物となった。しかしキャッサバには,青酸配糖体が多少とも含有され,その含有量の高いものは有毒で,毒抜きをしないと食用にならない。毒抜きは,加熱やつきくだいて水洗,あるいは液汁をしぼることによって行われることが多い。キャッサバは甘味品種群sweet cassavaと苦味品種群bitter cassavaに大別され,前者は無毒,後者は有毒とされ,時には有毒な苦味品種群は別種M.utilissima Pohl.の名で呼ばれるが,毒性は段階的に各品種ごとに異なり,はっきりと毒性から類別はできない。キャッサバは多様に分化した栽培品種群を有するが,植物学的には単一の種と考えられる。
キャッサバのいもは,収穫すると腐敗が早く,貯蔵性がほとんどないため,生いもの形では遠くに輸送できない。しかし,いもをすりつぶして水洗し沈殿させると良質のデンプンがとれ,それを天日あるいは火熱で乾燥すれば,長距離の輸送が可能になる。熱帯域ではこのタピオカデンプンの工業的生産が重要になっている。さらにタピオカデンプンを乾燥しきるまえに容器の中でかきまぜ振盪(しんとう)して小さなタピオカデンプンの団子を作り,それを加熱すると,半透明の調理に使うタピオカ・パールができる。またいもを薄切りにして乾燥したタピオカ・フレーク,それを粉末にしたものも重要である。熱帯アフリカでは苦味品種群のいもをつきくだき,水でさらして乾燥した粉末を,熱湯でのり状にしたフフfufu/huhuが広く主食として食べられる。
キャッサバのデンプンはアルコール発酵やアセトン発酵の原料としても重要で,ガソリンの代用として,ブラジルではタピオカデンプンから製造されたアルコールが,ガソリンに混用されて利用されはじめている。さらに甘味品種群キャッサバの若芽や新葉は,熱帯域では重要な野菜の一つとして広く利用されている。
キャッサバの原産地はA.P.ド・カンドルやN.I.バビロフによってブラジルとされたが,最近の民族植物学的な研究の成果も加えると,ブラジルは第2の分化の中心で,甘味品種は古くから中央アメリカで栽培されているので,中央アメリカあるいは南アメリカ北部が原産地と考えられるようになった。16世紀にはポルトガル人が持ちあるいたが,アフリカや東南アジアで広く栽培されるようになったのは19世紀になってからであり,旧世界の熱帯では比較的新しい作物である。
近似種のマニホットゴムノキManihot glaziovii Muell-Arg.はブラジル原産で高さ10m以上の高木になり,乳液からゴムが採取されるし,根は若木の時にはデンプンを貯蔵して食用とされることがある。
→いも
執筆者:堀田 満
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トウダイグサ科(APG分類:トウダイグサ科)の低木。イモノキ、タピオカノキ、マニホットノキ、マニオクともいう。古くから中南米で栽培され、野生種は知られていない。ペルーでは4000年前、メキシコでは2000年前から栽培された。新大陸発見後、ポルトガル人によって世界の熱帯に伝えられ、広く熱帯、亜熱帯で栽培されている。主産地はナイジェリア、タイ、ブラジル、インドネシア、ガーナ、コンゴ民主共和国(旧、ザイール)の6か国で、世界の総生産量の59%を産出する。
高さ5メートルに達するものもあるが、普通は2、3メートル。茎は節があり、植物体を傷つけると白色の乳液を出す。葉は掌状で5~7片に深く切れ込み、径10~30センチメートル、葉柄は5~30センチメートル。根は茎の基部から出た不定根が肥大し、ダリアの根のような塊根になる。塊根は太さ3~15センチメートル、長さ0.15~1メートルで、1株に5~10本つく。外側は白または淡褐色ないし濃褐色で、内部は普通は白で、赤や黄色のものもあり、デンプンを多く含む。多くの品種、系統があるが、苦味種と甘味種に大別される。苦味種はニガキャッサバM. esculenta Crantzで、いもに青酸を含み、有毒である。デンプン製造に適し、多収で貯蔵性に富む。甘味種はアマキャッサバM. dulcis Bail.で、青酸が主として外皮に含まれ、毒性は少ない。いもはやや細くて小さく、苦味種よりも涼しい所での栽培に適している。
熱帯では米に次ぐ主食とされ、煮たり、焼いたり、すりつぶして水洗いしたりして毒成分を除いたのち、パン状に焼くなどして食べる。デンプンをとるには、いもを搗(つ)き砕いて、竹製の籠(かご)に入れて加圧し、水を取り替えながら絞る。いもの乾燥粉からデンプン(タピオカと称する)を精製することもある。デンプンがまだ水を含んでいるうちに練り、小球状として軽く加熱して表面を半糊化(こか)させて製品とすることが多いが、これをタピオカパールといい、世界各地に輸出されている。
[星川清親 2020年6月23日]
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…繁殖は萌芽するいもの一部分やつるを植えこむが,この若い茎や葉はいもに比較すると粗タンパクの含有量が多く,野菜としても広く利用されている。 キャッサバcassava(一名イモノキ)は有毒な植物の多いトウダイグサ科の木本植物で,原産地は南アメリカ熱帯である。高さは3mに達するが,サツマイモと同様に根が肥大したいもを作る。…
…人類が食用として利用している植物のうち,地下貯蔵器官を利用しているのは1000種以上にのぼるが,その大部分は日本でのクズ,ワラビ,ヤマノイモのように野生種を採集利用しているもので,また,それらの多くは食用とするためにはつき砕き水洗してデンプンを集めたり,水さらしをして毒抜きをしなければならない。作物として栽培されているものでも,キャッサバの苦味品種群のように青酸配糖体を含有していて有毒で,食用に供するためには毒抜きを必要とするものがある。しかし,植物の地下貯蔵器官は収穫が簡単で,種子に比較すると採集しやすいため,現在でも熱帯圏でのヤマノイモ類,キャッサバ,サトイモ類や温帯のジャガイモのように,いも類は主食として多く利用されている。…
…
[毒抜きについて]
これらの毒によって捕った食物が食される際には,熱処理などが必要なのと同様に,食糧として栽培されたり採集されたりする植物には,毒抜き処理が必要なものもある。その代表的な例は世界中にみられるキャッサバ(マニオク)に含まれる青酸性毒の場合である。キャッサバには有毒のものと無毒のものがあり,南米アマゾンの原住民社会では前者の抽出液が漁毒に使われるほど強いものである。…
…それらは二つの大類型に区分することができる。
[根栽農耕文化]
新大陸では,南アメリカの熱帯低地で大きないものとれるキャッサバ(マニオク)と旧大陸のタロイモによく似たヤウテアが栽培化され,また中部アンデスの高地でジャガイモが,さらにメキシコでサツマイモが栽培化されるなど,すぐれたいも類が作物化されている。このうち南アメリカ東部の熱帯低地に展開した文化は,キャッサバを主作物とする焼畑農耕を生業の基礎とした典型的な根栽農耕文化である。…
※「キャッサバ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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