植物の種類によって、その器官は塊根(サツマイモなど)、塊茎(ジャガイモなど)、球茎(サトイモなど)、担根体(ヤマノイモなど)と呼ばれる。食用としては、ヤマノイモ、サトイモ、サツマイモ、ジャガイモなどの総称。古くは、自生のヤマノイモや南方原産のサトイモが利用され、芋といえば特にサトイモをさすことが多かった。
人類のデンプン質主食源は,果実を利用するパンノキやカボチャ類を例外とすると,種子の貯蔵物質を利用する穀類と地下貯蔵器官を利用するいも類に大別される。そして農耕開始以前には,野生いも類は人類にとって重要な食料源であった。人類が食用として利用している植物のうち,地下貯蔵器官を利用しているのは1000種以上にのぼるが,その大部分は日本でのクズ,ワラビ,ヤマノイモのように野生種を採集利用しているもので,また,それらの多くは食用とするためにはつき砕き水洗してデンプンを集めたり,水さらしをして毒抜きをしなければならない。作物として栽培されているものでも,キャッサバの苦味品種群のように青酸配糖体を含有していて有毒で,食用に供するためには毒抜きを必要とするものがある。しかし,植物の地下貯蔵器官は収穫が簡単で,種子に比較すると採集しやすいため,現在でも熱帯圏でのヤマノイモ類,キャッサバ,サトイモ類や温帯のジャガイモのように,いも類は主食として多く利用されている。
日本では弥生時代以前の縄文時代に,すでにいも類をともなった雑穀農耕が行われていたと考えられている。現在も神社の祭礼儀式や,正月の雑煮にサトイモが重要な意味をもって利用されている例が多数あり,いも類は日本人の生活と深くかかわりあっている。日本語にいもというような総称語が存在することも,いもと日本人との関係の深さを示しており,英語のtuberには,このいものような語意の広がりも深さもない。
いも類を主食として栽培している農耕は,穀類栽培農耕に比較すると現在ではそれほど広い地域に広がってはいないが,南アメリカのアンデス山地のジャガイモを主とした農耕(ジャガイモはヨーロッパでも重要な作物になっている),南アメリカ熱帯のキャッサバ農耕,西アフリカのヤマノイモ類農耕,太平洋諸島のヤマノイモ類とサトイモ類を中心とした農耕などがあげられる。
いも類の栽培は,茎や根によって栄養繁殖が行われ,簡単な掘棒や鍬だけで耕作され,しばしば焼畑耕作と結びついている。その食用の利用も,掘りあげたいもを煮るか焼いて食用にするため,穀類に見られるような脱穀から精白や精粉,さらにそれら粉状や粒状のものを食物に調理する複雑な過程がなく,農耕具や調理体系で見ると農耕文化としては単純な段階にとどまっている。これら熱帯圏のいも農耕地帯では,新大陸熱帯起源のキャッサバ,ヤウテア,サツマイモが旧世界まで広く栽培されているし,東南アジア起源のダイジョは西アフリカで重要な栽培植物になっている。また,東南アジアや東アジア地域はサトイモやヤマノイモ類の起源地であるが,現在では稲作が中心となり,いも類は主食としての重要性がなくなっている。ヨーロッパでは,南アメリカ起源のジャガイモが準主食として重要で,ヨーロッパと旧ソ連とで全世界のジャガイモ生産量(約3億t)の2/3を生産している。同じようなことは中央アメリカ熱帯起源のサツマイモにも見られ,今では全世界生産量1.3億tの90%以上がアジア地域で収穫されている。全世界で生産されるいも類は約5.5億~6億tであり,この生産量は単純にカロリー換算すると,米の生産量の1/2弱にあたる。人類にとっていも類はコムギ,トウモロコシ,イネ,オオムギに次いで重要な食用作物の位置を占めていることになる。またジャガイモを除けば,その主要な生産地はほぼ熱帯圏にかぎられている。
いも類の多くは水分と炭水化物が主要な成分で,タンパク質や脂質はわずかしか含まれていない(表1)。そのためいも農耕地域における食生活では,カロリー源としてのいものほかに,タンパク質や脂質をどのように補うかが,穀物栽培農耕地域よりもさらに重要な問題になる。
多くの野生や栽培植物がいもとして食用に利用はされているが,そのなかで生産量が多く作物として重要なものは数種である。
サツマイモ(英名sweet potato)は,中央アメリカの熱帯原産のヒルガオ科植物で,根が肥大していもを形成する。コロンブスのアメリカ大陸発見以前は,中南米とオセアニアの一部で栽培されていたが,現在では広く熱帯圏のみならず,日本のような温帯圏の夏季作物として栽培されている。全世界で約1.3億tが収穫され,いも類としてはジャガイモに次いで多い。繁殖は萌芽するいもの一部分やつるを植えこむが,この若い茎や葉はいもに比較すると粗タンパクの含有量が多く,野菜としても広く利用されている。
キャッサバcassava(一名イモノキ)は有毒な植物の多いトウダイグサ科の木本植物で,原産地は南アメリカ熱帯である。高さは3mに達するが,サツマイモと同様に根が肥大したいもを作る。生育期間が長いため,栽培は熱帯や亜熱帯にかぎられ,収穫後のいもの保存貯蔵が困難であるが,栽培が容易でやせ地でも一定の収量があげられるので,現在では熱帯域ではもっとも重要ないも作物となっている。有毒な苦味品種群とほとんど無毒な甘味品種群が区別され,後者の若葉や新芽は野菜として広く利用されている。毒成分は青酸配糖体である。
ヤマノイモ(yam)類は,ヤマノイモ科植物で食用に利用している植物の総称であるが,日本で利用されるヤマノイモとナガイモという例外的な種をのぞいては,数十種に及ぶ利用種のほとんどの自然分布域や栽培圏は,熱帯から亜熱帯にほぼかぎられている。それらのうち,栽培される重要な種は数種で,東南アジアからポリネシアにかけてはダイジョやハリイモが,東アジア暖温帯域でのナガイモ,アフリカのヤム地帯ではギネアヤムとダイジョが栽培されている。これらのうちダイジョがもっとも重要で,ときには30kgをこえる大型のいもを形成し,日本でも四国や九州以南の温暖地で栽培されている。ダイジョやギネアヤムは,他のいも類に比較して貯蔵性がよく,大量栽培地域では主要な主食の位置を占めている。またナガイモは,東アジアの照葉樹林農耕の初期段階に栽培化された種であると考えられている。
サトイモ類。サトイモ科の植物には地下あるいは地上性の茎を食用に利用している種が多く,日本での代表的なものはサトイモとコンニャクである。それらのうちサトイモ(taro/old cocoyam)は東南アジア大陸部の原産で,現在はオセアニアや東アジアで広く栽培されている。ヤウテア(yautia/new cocoyam)は中南米原産で,サトイモより乾燥に強く,現在では旧世界熱帯でサトイモ以上に広く栽培されている。それ以外のもの,たとえばクワズイモに似てさらに大型になるインドクワズイモ(giant taro),湿地で栽培されるキルトスペルマ(swamp taro)は限定的な栽培にとどまっている。
ジャガイモ(potato)は南アメリカのアンデス高地原産の,有毒植物の多いナス科の植物である。原産地では数種が栽培利用されているが,その中には毒性の強い種もあって,それらは凍結と解凍をくりかえして毒抜きをして,食用にされている。ジャガイモはいも類の中では,短い生育期間で収穫可能な種である。現在ではヨーロッパ地域が最大の産地で,準主食的に利用される。
現在,いも栽培農耕は,熱帯域の比較的かぎられた地方で食料生産体系として重要な位置を占めているにすぎない。このいも類をもし食料資源として評価するならば,すでに述べたように栄養的なバランスがかたよっている点に問題がある。しかし太陽からの光エネルギーをどれだけ固定し,人間に利用可能な有機物を生産するかを,単位面積(ha),単位時間(月)当りの熱量(Cal)で比較すると,トウモロコシのように特別に生産性の高いものよりはいも類はやや低いが,イネやムギ類とはほぼ同じか,それよりも高い生産性を示す(表2)。生産性の点からは,穀類に比較して劣るということはないのである。
穀類と比較して,いも類が食料源として問題があるとすれば,その第1は貯蔵が困難なことである。半年以上の貯蔵は多くのいも類で現実的でなく,そのうえ適温で湿潤な貯蔵条件を必要とすることが多い。適当な条件がなければキャッサバでは,地中から掘り出してから2~3日間が食用として利用できる限度である。またサツマイモのように,低温で簡単に腐敗してしまうものもある。第2点は収穫物の大部分(60~80%)が水であり,その点からも保存貯蔵に問題があるだけでなく,遠隔地への輸送に難点が生じる。生産地での消費がいも類利用の特徴である。
他方,いも類は多くの場合,穀類のような複雑な耕作,調理体系がなくても食用に供されることと,高温,多湿な熱帯から比較的乾燥したサバンナ地域まで種々な場所で収穫をあげることができるという利点もある。いも類が今後ともに人類の主食として重要な位置を占め続けるかどうかはわからないが,単位面積当りの固定熱量から見るかぎり,また穀類とは異質な風味からも,忘れ去られることはないであろう。
執筆者:堀田 満
日本の古語では〈いも〉といえば,サトイモとヤマノイモを指していた。とくにサトイモに限ることが多く,ヤマノイモに対してサトイモは〈いえついも〉ともいった。江戸時代になってサツマイモ,江戸末期にはジャガイモがいもの仲間入りをした。したがって,日本では古くはサトイモとヤマノイモが食物として需要が大きかったことになる。サトイモやヤマノイモは水田稲作農耕が日本に渡来する以前に,雑穀とセットされた農耕文化として渡来したという仮説が有力になりつつあるが,日本でのサトイモ,ヤマノイモがもつ文化的要素はどのようなものであったろうか。
サトイモは北海道・東北の寒冷地を除いて広く栽培されるが,水田と畑によって名称が区別されることもある。北関東や四国,九州では主食としても用いられていたが,さらに,正月や八月十五夜の儀礼食,冠婚葬祭などの料理に欠かせぬものとして重視されてきた。東北を除いて正月に餅を供え物,食べ物にしないで,サトイモをあてる所が各地に見いだせるのは,サトイモの重要性を示すといえよう。煮たり焼いて食べることが多いが,蒸したり煮たものをねり,小豆あんをまぶして食べる方法もある。またサトイモは焼畑で他の雑穀や根菜類といっしょに栽培されることが多い。日本で多くみられるヤマノイモには,全国に自生するジネンジョ(自然薯)と中国原産で栽培されるナガイモとがある。ジネンジョはいもをすりおろして〈とろろ〉として食べるほか,煮ることもある。茎にできる〈むかご〉と呼ぶ実は米の中に炊きこんだり,焼いて食べる。東日本を中心に,正月にとろろを食べて無病息災を祈り,家屋の出入口の戸や屋敷にまいてヘビなどの害を予防する呪術的行事がおこなわれている。ヤマノイモとよく似たトコロ(野老)と呼ぶいもは,今では食べないが,神社の祭りや年中行事などに供え物として登場してくる。サツマイモはカライモ,トウイモ,リュウキュウイモとも呼ばれ,外来のいもであることを示しているが,このいもの伝来によって日本人の食生活は豊かとなり,飢饉からも救われたため,各地に伝来の記念碑が建てられている。ジャガイモを北海道ではいもと呼ぶが,本州では新しいいものため異名が多い。ニドイモ,コウボウイモ,カンブライモなどであり,サツマイモと同様に畑に栽培されるが,岐阜県や四国地方などでは焼畑で作る所もある。
群馬県ではサトイモのことを〈蔭の俵〉と呼び,九州ではケイモと呼ぶなど,コメを主食としない時代にいもが食料として重視されたことがわかるが,なによりも庶民にとって日常的な食料であるとともに,凶作時の食料としての意義が大きかった。しかし米を中心にした日本の農民史や食物史などでは,その意義について十分に研究が進んでいない。〈餅なし正月〉の民俗や,滋賀県蒲生郡日野町中山で9月1日におこなわれる〈芋くらべ祭〉,岡山県新見市代城の倉嶋神社でおこなわれる旧暦9月19日の祭りなどの分析によって,日本の非稲作文化の実態が明らかになることであろう。
執筆者:坪井 洋文
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…旧暦11月に行われる祭りの総称。稲の収穫祭で,民間の新嘗祭といえるが,祭りが実際の収穫期より1ヵ月ほど遅いのはこの間物忌(ものいみ)に服するためと説明されている。北九州の丑の日祭,奥能登のアエノコト,天草や長島の山祭,中国地方の先祖講,ダイジョウ講のほか,各地の氏神祭や大師講などが代表的なものといえる。また三遠信の国境地帯の遠山祭,冬祭,花祭や秋田県保呂羽(ほろは)山の霜月神楽のように神楽形式の祭りを行う場合も多い。…
…茎・根の皮層・髄,葉の柵状組織・海綿状組織,維管束の木部柔組織・師部柔組織,果実の果肉,塊茎・塊根その他の貯蔵組織などはすべて柔組織である。柔細胞にはさまざまな形のものがあるが,一般的には球形に近いものが多く,平均14面をもつといわれる。柔細胞はタンパク質など内容が多く,細胞壁はふつう一次壁だけでうすく,生理的な活動を活発に行う。…
…そして稲作よりも畑作に関する儀礼の比重が,はるかに大きいことがしだいに判明してきている。さらに最近では,中国大陸華南地域の漢民族や山地焼畑栽培民の間でも,八月十五夜の満月祭がサトイモ系統の芋(いも)類の収穫儀礼としての意味をもつことが明らかにされてきている。したがって,次にはそれと日本の畑作物の収穫儀礼としての名月の祭儀との間にどのような関連があるのかが大きな問題となってくる。…
…葉(イラスト)は互生または対生し,葉柄と葉身がはっきり分化をしていて,葉身はよく発達し,心形,楕円形,ときには3~5小葉に分裂した複葉になる。このような複葉は,ヤマノイモ科の所属する単子葉植物群の中にはあまり例を見ないものである。通常雌雄異株で花は小さく,緑色や黄色であまり目だたなくて,葉腋から生じる穂状あるいはそれの複合した円錐形の花序に多数つく。…
…農耕を知らなかったアフリカのピグミーやマレーシアの山地民の利用可能な植物についての具体的で詳細な知識体系は,農耕開始以前における人類の食用植物に対する知識の蓄積が,いかに多かったかを知らせてくれるものである。主食としての地下貯蔵器官(いも)の採集,若芽や葉,花序の野菜的な利用,各種の果実や種子の採取利用などが広く行われていたにちがいない。しかし加熱容器(土器)や石臼による粉砕加工がなければ,小さな種子(主としてイネ科)や硬くて食べにくい組織からなる植物体を食用に供することはむずかしかったであろう。…
※「芋」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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