クラテス(読み)くらてす(その他表記)Kratēs ho Thebaios

日本大百科全書(ニッポニカ) 「クラテス」の意味・わかりやすい解説

クラテス(テーベのクラテス)
くらてす
Kratēs ho Thebaios
(前336ころ―前286ころ)

古代ギリシアキニコス学派哲学者テーベ名門身分財産を捨ててディオゲネス弟子となり、自ら「ディオゲネスの市民」と称した。アレクサンドロス大王に「祖国再建を望むか」と聞かれ、「どうしてかね。別のアレクサンドロスがまた滅ぼすだろうに」と答えた。むしろ、無名と貧しさを、けっして滅ぼされることのない祖国とみなしたのである。彼を崇拝する女哲学者ヒッパルキアHipparchiaとともに、だれからも愛されて生き、快活に死んでいったという。

[田中享英 2015年1月20日]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「クラテス」の意味・わかりやすい解説

クラテス[テーベ]
Kratēs; Crates of Thebes

[生]前336頃
[没]前286頃
古代ギリシアのキュニコス派 (犬儒派) の哲学者。シノペディオゲネスの弟子。名門の出であったが全財産をアテネ市民に与え,悪徳と虚飾を徹底して批判した。彼には詩人の荘重な作品をパロディー化する才能があり,それによって他の哲学者を揶揄しキュニコス派的生活をたたえた。彼は哲学的な悲劇書簡を書いたといわれ,彼の著とされる書簡は現存しているが偽書らしい。クラテスの哲学史上の重要性はストア派の創設者ゼノンに及ぼした影響にある。プルタルコスによる彼の伝記は現存していない。

クラテス[マロス]
Kratēs; Crates of Mallus

前2世紀初期のストア派の哲学者。キリキアのマロス出身。文法家として有名。ホメロスについての注釈を書き,寓意的解釈によってホメロスは科学的,哲学的真理を詩形式で著わしたと主張した。前 170頃ペルガモンの王の使節としてローマにおもむく。ローマでの講義はローマ人の文法や批評の研究に最初の影響を与えたといわれる。

クラテス
Kratēs; Crates

前5世紀中頃のギリシアの古喜劇作者。アリストテレスが「従来の風刺による個人攻撃をやめ,一般的な筋をもつ喜劇を書きはじめた最初の劇作家」と言及しているが,作品は断片しか残っていない。

クラテス[アテネ]
Kratēs; Crates of Athens

前3世紀前半頃のギリシアの哲学者。ポレモンの弟子にして親友。彼の死後,跡を継いでアカデメイア第5代学頭 (前 276/69~268/4) 。

クラテス[タルソス]
Kratēs; Crates of Tarsus

前2世紀後半のアカデメイアの哲学者,学頭 (前 131/30~127/6) 。

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世界大百科事典(旧版)内のクラテスの言及

【地球儀】より

…地球儀は距離,方角,面積,形状を正しくあらわす点で地図に勝るが,いかに大型のものでも縮尺が極端に小さく,地図の代用とはならないが,かつては大洋航海の船舶に必要な儀器の一つとして重んじられた。 世界最初の地球儀は,前160年ころマロスのクラテスKratēs Mallōtēsによって作られたと伝えられている。ギリシア科学を受けついだイスラム圏でも地球儀は作られ,1267年元代の中国に伝来しているが,中世イスラム圏製の地球儀の現存は知られていない。…

【ディオゲネス[シノペの]】より

…〈恥をなくすこと(アナイデイアanaideia)〉によって,あらゆる因襲,権威から解放されること,これが魂の〈自足(アウタルケイアautarkeia)〉を目ざす彼の哲学的実践であった。その弟子テーバイのクラテスKratēsは師説を広め,〈無所有〉こそ,いっさいの苦しみ,葛藤から逃れる秘訣とし,後のストア学派の前触れとなった。【大沼 忠弘】。…

【方位】より

…その結果,人間が住む世界oikoumenēに対し,対向世界antoikoi,対蹠(たいせき)世界antipodes,反世界antikthonēsが球面上に存在してつりあいを取っていると考えた。前2世紀の人マロスのクラテスKratēs Mallōtēsは対蹠世界には足が逆向きについた住民がいると述べている。この方位観は今日もなお,ロンドンの対蹠にあたるオーストラリアを〈下の世界Down Under〉とする英語の言い方などになごりをとどめている。…

※「クラテス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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