チェコの作家。ブルノの音楽学者の家庭に生まれ、幼時から音楽に親しみ、その影響は作品上にも強く反映している。プラハの音楽芸術大学映画科を卒業後、同大学で世界文学を講じながら実作に取り組み、戯曲・小説などのジャンルで実験的作品を発表。1968年の「プラハの春」前後には、チェコスロバキア作家同盟書記長として「人間の顔をした社会主義」への改革運動に積極的に参加し、ソ連軍の戦車を背景とする「正常化」に抵抗。その一方、改革の評価などについての仲間であった作家のV・ハベル(1989~1992チェコスロバキア大統領。1993~2003チェコ大統領)と意見が対立、論争が行われた。1970年には反体制派として国内での作品発表を禁止され、1975年フランスに移住、大学の教職につきながら創作活動を継続する。その結果、1970年以降の作品は国外、フランスやカナダでまず公刊されるようになったが、根本となる原稿はすべてチェコ語で書かれ、チェコの作者としての立場が鮮明であった。しかし、1979年にはチェコの市民権を剥奪(はくだつ)され、1981年にフランスの市民権を得たこともあって、しだいに祖国との距離を置き始めた感があり、作品もフランス語で書く場合があった。1989年の「ビロード革命」以後は、本国でも多数の作品が出版され、2019年にはチェコの市民権を再取得した。
文学的な出発は、詩集『人間、この広き庭園』(1953)、および『モノローグ』(1957)であったが、やがて「抒情(じょじょう)詩的年齢」を脱し、戯曲『鍵(かぎ)の所有者』(1963)、短編集『微笑を誘う愛の物語』(1963~1968)と進み、長編『冗談』(1967)は、社会主義体制下における人間性のゆがみを描いた傑作として、国際的に高い評価を受けた。その作品のほとんどは、現代社会での理想と現実の相克を愛と性を焦点にして辛辣(しんらつ)にえぐり出しているが、フランス移住後には、メディシス賞を受けた長編『生は彼方に』(1973)、『別れのワルツ』(1976)、『笑いと忘却の書』(1979)、『存在の耐えられない軽さ』(1984)などがある。とくに長編『不滅』(1989)は、人間の運命、その終焉(しゅうえん)と不滅性についてのさまざまな考察を複合したアレゴリカル(寓意(ぐうい)的)な作品である。さらに『緩やかさ』(1995)、『ほんとうの私』(1998)、『無知』(2001)と精力的に作品を発表した。なお、評論にも『小説の技法』(1960。邦題『小説の精神』)、『裏切られた遺言』(1983)などがあり、文学的関与の幅はきわめて広く、チェコの作家としてもっとも話題性に富んでいた。
[飯島 周]
『金井裕訳『小説の精神』(1990・法政大学出版局)』▽『千野栄一他訳『微笑を誘う愛の物語』(1992・集英社)』▽『西永良成訳『笑いと忘却の書』(1992・集英社)』▽『西永良成訳『別れのワルツ』(1993・集英社)』▽『西永良成訳『裏切られた遺言』(1994・集英社)』▽『西永良成訳『緩やかさ』(1995・集英社)』▽『近藤真理訳『ジャックとその主人』(1996・みすず書房)』▽『西永良成訳『ほんとうの私』(1997・集英社)』▽『西永良成訳『無知』(2001・集英社)』▽『関根日出男・中村猛訳『冗談』(2002・みすず書房)』▽『西永良成訳『生は彼方に』(ハヤカワepi文庫)』▽『千野栄一訳『存在の耐えられない軽さ』(集英社文庫)』▽『菅野昭正訳『不滅』(集英社文庫)』▽『工藤庸子著『小説というオブリガート――ミラン・クンデラを読む』(1996・東京大学出版会)』▽『西永良成著『ミラン・クンデラの思想』(1998・平凡社)』▽『赤塚若樹著『ミラン・クンデラと小説』(2000・水声社)』
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第2次世界大戦後チェコが生んだもっとも才能ある作家で,評論《長編小説の芸術》(1960),戯曲《鍵の持主たち》(1963),短編集《微笑を誘う愛の物語》(1963-68),代表作の長編《冗談》(1967,邦訳あり)などを発表,大作家への完成が期待されたが,1968年のいわゆるチェコ事件以後フランスへ出国,現在フランスで活躍中。滞仏作品に《生は彼方へ》(1969完成,邦訳あり)ほかがある。
執筆者:千野 栄一
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