一般に行為が法に適合していることをいい,適法性とも呼ばれる。下位の法規範が上位の法規範に(たとえば政令が法律に)適合している場合にもいわれる。憲法への適合性は,合憲性ないし適憲性と呼ばれる。法哲学においては,合法性はしばしば道徳性との対比で論じられる。カントは,道徳性は動機が義務感に発したものであるのに対し,合法性は,いかなる動機であれ,行為の結果が義務にかなっていれば足りるとした。たとえば,発覚への恐怖心や世間体などから窃盗を慎む者は,道徳的には罪人でも,合法的人間ではあるという。しかし反対論もある。M.ウェーバーは,政治権力の正当(統)性の類型をカリスマ的支配,伝統的支配,合法的支配の3類型に分類し,近代法治国家においては,合法性がすなわち正当性となるとした。それに対しC.シュミットは,革命や非常事態においては,正当性と合法性が分離し,前者が後者に優先するとした。その場合,正当性は政治の領域に属するもので,この主張は法に対する政治の優先を主張するものである。いわゆる政治裁判においては,しばしば,合法性よりも政治的正当性の判断が優先される。このような政治の優位の危険性をみて,政治を合法性のもとにおこうと努力するのが法治主義者である。
→違法性
執筆者:長尾 龍一+長谷川 晃
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
合法性には二義がある。まず、不法(または違法)の反対概念として用いられるのが一般であるが、この場合には、合法性Gesetzmäßigkeit(ドイツ語)とは、現行法秩序に形式的に合致することを意味するのに対して、不法とはこれに違反することをいう。この意味の合法性とは、語源的には、Gesetz=実定法規にかなっていることであるから、合法性を有しているからといって、実質的に倫理や正義に合致するとは限らない。
これに対して、カントによる道徳性Moralitätと合法性Legalitätとの区別に関連して、道徳性は行為の内面的な動機が道徳律に基づく義務と一致していることを意味するのに対し、その反対概念としての合法性とは、動機のいかんを問わず行為が外面的に法秩序に合致していることをいう。法と道徳の区別に関して、法の外面性と道徳の内面性とが対比されることが広く行われているが、この考え方はここにいう道徳性と合法性の区別に根拠を置く。
[名和鐵郎]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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