フランスの作曲家。クラブサン奏者,オルガン奏者。250年以上つづいたフランス有数の音楽家の家系の最大の存在で,同名の伯父フランソア1世(1631ころ-1708から12)と区別するために〈大クープラン〉とか〈フランソア2世〉と呼ばれる。フランソアは父シャルル2世Charles Ⅱ C.(1638-79)がオルガン奏者を務めるサン・ジェルベ教会の宿舎で生まれ,幼少から父にオルガンの手ほどきを受けた。父が死んだとき11歳にして早くもサン・ジェルベ教会の後継者に内定したが,あまりにも若いという理由でM.R.ドラランドが仕事の代行をし,4年後の1683年には非公式ながらこの教会のオルガン奏者となった。89年マリー・アンヌ・アンソーと結婚,同年ルイ14世から出版権を得て,90年に《二つのミサ曲からなるオルガン曲集》を出版した。これはクープランの最初にして最後のオルガン曲であり,多彩な音栓効果と,作曲の師トムランJ.D.Thomelin(1640?-93)ゆずりの巧みな対位法を特色とする。この作品で彼は名を知られるようになり,その後92年ごろから《アストレL'astrée》など室内楽曲をいくつか作曲したが,これらはフランスにおける最初期のトリオ・ソナタとして注目される。後年に作曲した《パルナス山,別名コレリ賛歌Le Parnasse ou L'apothéose de Corelli》(1724)は同種の傑作でイタリア様式とフランス様式の融合が果たされている。
フランソアの比較的穏やかな生涯の最も大きい事件は,93年トムランの死によって空席となった王室礼拝堂オルガン奏者選出コンクールで,ルイ14世に認められて〈王のオルガン奏者〉という地位に就いたことである。翌年には王室子女のクラブサン教師も兼ねることになり,1730年に宮廷の職を辞任するまでベルサイユ宮廷音楽家として,ルイ14世とルイ15世の2代に仕え活躍したが,ドラランドが音楽上の要職を独占したのとは対照的に,あまり地位には恵まれず,1717年に〈クラブサンのための王の常任室内音楽家〉になった程度である。彼は宮廷に入ってから宗教声楽曲を作曲したが,カンタータ《テネブレの読誦Leçons de Ténèbres》(1715)はその頂点というべき秀作である。また晩年のルイ14世を慰めるために作曲された合奏曲《王のコンセールConcerts royaux》(1722),その続編というべき《趣味の和,別名新コンセールLes goûts réünis,ou Nouveaux concerts》(1724)は18世紀前半のフランスの音楽趣味をよく反映している。しかしなんといってもクープランの最大の業績は230曲余に及ぶクラブサン小品で,これらは4巻(1713,17,22,30)の27の組曲〈オルドル〉に収められている。一つの組曲中に少ないものは4曲から多いものは23曲の小品がまとめられ,年代を追うごとにアルマンド,クーラントのような舞曲は少なくなり,詩的で謎めいた標題のつけられた性格小品(例えば《神秘なバリケードLes baricades mistérieuses》),自然風物を描写した作品(《波Les ondes》《恋の夜うぐいすLe rossignol-en-amour》)や,風刺的な連作(《偉大にして古き吟遊詩人組合の年代記Les fastes de la grande et anciénne-Mxnxstrxndxsx》)など,作風は多岐にわたっており,クラブサン詩人の名にふさわしく,またフランス・バロック時代のクラブサン楽派の頂点を形成するものとなっている。
クープラン一族の音楽家のうち,大クープラン以外の重要な人物としては,まず彼の伯父ルイLouis C.(1626ころ-61)がいる。オルガン奏者・作曲家の彼は,シャンボニエールに見いだされて,ブリ地方のショームからパリに出て,2人の弟,フランソア1世とシャルル2世(大クープランの父)と共にサン・ジェルベ教会のオルガン奏者の地位を一族が引き継ぐ土台を作った。クラブサン作品が重要である。マルグリット・ルイーズMarguerite Louise(1676から79-1728)はフランソア1世の娘で声楽家,クラブサン奏者。マルグリット・アントアネットMarguerite Antoinette(1705-78ころ)は大クープランの次女でクラブサンの名手としてベルサイユ宮廷で活躍した。アルマン・ルイArmand Louis(1727-89)はフランソア1世の孫でオルガン奏者である。このほかたくさんの音楽家を生んだクープラン家の活躍は,大革命期をこえ19世紀前半にまで及んだ。
執筆者:船山 信子
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フランスの作曲家。クープラン家はドイツのバッハ家に比されるフランスの音楽家の家系。彼を大クープランとよぶ。11月10日パリに生まれ、幼少時より父シャルル(1638―79)から音楽を学んだ。父の死により11歳でパリのサン・ジェルベ教会のオルガン奏者に就任、実際には最初の数年間はドラランドが演奏を代行したが、以後は1723年まで在職した。1693年ベルサイユ宮殿の王室礼拝堂の4人のオルガン奏者の1人に選ばれ、翌年からは王室や宮廷の子女に音楽を教え、また宮廷内の演奏会でクラブサン(チェンバロ)を演奏した。この間、1713年から26年にかけて、彼の主要な創作のジャンルであるクラブサンの音楽と室内楽曲を次々に出版した。33年9月11日パリで没。
彼のクラブサンの音楽は、舞曲やロンドー形式の小品で、ほとんどが「恋するうぐいす」「シテールの鐘」のような詩的で空想的な題名が付されており、これが4曲から22曲集められて一つの組曲をなしている。この種の組曲をクープランは22残し、それらは4巻の曲集に分けて出版された。繊細で多彩な装飾音を多用し、機知とイロニー、憂愁にあふれた作風を特徴としている。室内楽曲では、コレッリに代表されるイタリア様式とリュリのフランス様式の融合を図りつつ、優雅で洗練されたロココ様式の表現を完成した。この代表作は、ともに細かな標題をもつ『リュリ讃(さん)』『コレッリ讃』である。彼は1716年に『クラブサン奏法』を著し、バッハもこの著作を学んでいる。
[美山良夫]
『ピエール・シトロン著、遠山一行訳『クープラン』(1970・白水社)』
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…ルイ王朝期のフランス音楽はベルサイユ宮とパリを中心として一つの黄金時代を迎えたが,宗教的および世俗的な声楽曲,歌劇,オルガン音楽などと並んで重要なのは,ルネサンス時代に盛んだったリュート音楽に代わって登場してきたクラブサン音楽である。この楽派はイギリスのバージナル楽派の影響のもと,シャンボニエールに始まり,その弟子ダングルベールJean Henri d’Anglebert(1628‐91),クープランLouis Couperin(1626ころ‐61),その甥F.クープラン,そしてラモーへと受け継がれていく。彼らは多楽章の舞曲組曲(F.クープランのものは〈オルドル〉と呼ばれる)を書いたが,個々の舞曲は伝統的な様式のみならずしばしば標題音楽的な要素を示している。…
…バロック時代にも多くの標題音楽的な作品が作られ,聖書の物語を叙述したJ.クーナウの《聖書ソナタ》やビバルディの《四季》,J.S.バッハのカプリッチョ《最愛の兄の旅立ちに当たって》はその一例にすぎない。F.クープランのハープシコードの小品にはキャラクター・ピースの先駆をなす作品がある。古典派時代は標題音楽はやや後景に退くが,ハイドンその他に標題交響曲の早い例がある。…
…ルイ14世のベルサイユ宮廷礼拝堂では,これまた〈威信〉にふさわしい大規模なモテットが鳴り響くのを常とした。しかしF.クープランの作品は,もっと簡素な手段で深い真実な感動を伝えている。彼はシャンボニエールの確立したクラブサン音楽(クラブサン楽派)でも一頂点をきわめ,そしてJ.F.ダンドリュー,ラモーとつづくが,同音楽に先立ってエヌモンEnnemond Gaultier(1575ころ‐1651)とドニDenis,G.(1603‐72)の2人のゴーティエによるリュート音楽の隆盛があったのである。…
…とくに16,17世紀に器楽曲が隆盛になるにつれて,作曲されるようになり,J.ダウランドの息子ロバートRobert Dowland(1591ころ‐1641)のリュート教則本《リュート・レッスンのさまざま》(1610)や,J.プレーフォードの出版したビオル教則本は初期の最も重要な練習曲に数えられる。18世紀に入るととくに鍵盤楽器を中心に多くの練習曲および教則本がつくられるが,なかでもF.クープランの《クラブサン奏法》(1716),エマヌエル・バッハの《正しいクラビーア奏法の試論》2部(1753,62)は,運指法や装飾法の手引きとしてだけではなく,作曲家の個人様式や特定の時代様式に即した練習の手引きとしても意味をもつ。また,J.S.バッハの《インベンション》は息子や弟子の教育目的に作曲された練習曲であり,彼の《イタリア協奏曲》や《ゴルトベルク変奏曲》などは《クラビーア練習曲集》として出版された。…
※「クープラン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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