グジャラート(英語表記)Gujarāt

改訂新版 世界大百科事典 「グジャラート」の意味・わかりやすい解説

グジャラート[州]
Gujarāt

インド西端部の州。アラビア海に面する。面積19万6000km2,人口5067万(2001)。州都ガンディナガル。地形的には,カッチ,カーティアーワール両半島,大・小両カッチ湿地東部沖積平野に分かれる。両半島部はかつては島であったが,隆起作用と後背地域での堆積作用により半島となった。カッチ湿地の成因は,海退作用による背斜構造上の旧海底の半陸地化,1819年の大地震時の断層によるインダス川分流の流入阻止,乾燥気候による蒸発にある。東部沖積平野はグジャラート平野とも呼ばれ,サバルマティ,ナルマダーなど諸河川の堆積作用により形成された。州の北・東境部はアラバリ,ビンディヤなど諸山脈の末端部にあたり,ビール族などの少数民族が住む。湿潤から乾燥への漸移地帯に位置し,年降水量は東部沖積平野南端では1700mmであるが,西の大カッチ湿地では300mm以下となる。

 サバルマティ河口のロータルからはインダス文明に属する都市遺跡が発見され,当時すでにメソポタミアとの交易が行われていた。インドの西方への門戸かつデリー方面への交通路の起点というこの地方の性格は,以後,遠距離交易を重要な経済活動たらしめるとともに,8世紀にはイスラム勢力,また15~16世紀にはポルトガルイギリス勢力のいち早い侵入を招く契機となった。グジャラートの名は,6世紀に北から南下しここに勢力を張ったグルジャラ族に由来する。1298年にはデリー・サルタナットのアラー・ウッディーン・ハルジーによって,また1573年にはムガル帝国アクバルによって征服された。18世紀になると小王国が分立し,独立直前には29の藩王国が州域のほとんどを占めていた。ガンディーは1914年の帰国後,出身地である本州を中心に独立運動を推進した。現在の州は,1960年に旧ボンベイ州のうちグジャラーティー語地帯を分離して成立した。

 農業の中心は湿潤気候肥沃な黒色土の分布する東部沖積平野にあるが,州の灌漑面積率は約10%で,生産性も低い。農業の特色は綿花,タバコ,ラッカセイなどの工芸作物の比重が高いことで,おのおの東部沖積平野,キャンベイ湾湾奥部,カーティアーワール半島西部を主産地とする。主穀作物はモロコシ,トウジンビエなどの夏作雑穀類が多い。1958年以来,東部沖積平野一帯で石油・天然ガスの発見があいつぎ,バドダラVadodara(旧名バローダ)近郊のコヤリには石油化学コンビナートが建設されている。同平野北部はインド最良の陶土・陶器産地で,大炭田の埋蔵も確認されている。塩生産は全国の半分以上を占め,またバドダラ周辺は蛍石の世界的な産地である。アフマダーバードの綿業が工業の中心であったが,石油発見以後多様化が進みつつある。インド有数の工業州で繊維のほか石油精製,化学,電機,薬品,化学肥料,製油などの諸工業が立地し,アフマダーバード,バドダラは複合的工業都市としての性格を強めつつある。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「グジャラート」の意味・わかりやすい解説

グジャラート
ぐじゃらーと
Gujarat

インド西部の州。アラビア海に突出するカーティアワール半島を主体とし、東部は沖積平野が広がり、北西はカッチ湿地でパキスタンと接する。面積19万6244平方キロメートル、人口5059万6992(2001)、6043万9692(2011センサス)。州都はガンディナガル。マハラシュトラ州とともにボンベイ州を構成していたが、1960年5月にグジャラート語圏が分離独立した。インドの近代的綿紡績業の発祥の地で、原料の綿花産地を後背地にした立地条件に恵まれ、旧州都のアーメダバードを中心にバターダなど、インド最大の綿紡績工業地域を形成している。工業生産額は西ベンガル州などに次いで全国第3位である。農業は商品性の高い綿花、ラッカセイ、タバコなど工芸作物中心で、主穀作物は低位にある。インダス文明の遺跡やドラビダ系民族の居住地跡があり、また、古代よりアラビアやアフリカとインド以東との交易の中継地として多くの港町が栄え、ヒンドゥー文化とイスラム文化の融合の地となった。

[中里亜夫]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

山川 世界史小辞典 改訂新版 「グジャラート」の解説

グジャラート
Gujarat

インド西部の州名。主にグジャラーティー語が話される地域。地理的には平野部,カーティヤーワード半島,カッチ湿地などからなる。14世紀末にデリーから独立したムスリム王朝が成立し,ムガル帝国アクバル帝に征服されるまで存続した。その後マラーター勢力が進出,19世紀前半にはイギリスの支配下に入る。古くから織物業や海上交易が盛んであり,19世紀後半以降は綿工業が発展。インド独立後の州再編により,1960年にグジャラート州が成立した。

出典 山川出版社「山川 世界史小辞典 改訂新版」山川 世界史小辞典 改訂新版について 情報

世界大百科事典(旧版)内のグジャラートの言及

【グルジャラ族】より

…この種族に属し8世紀前半マールワー地方に興ったプラティーハーラ朝は,9世紀初めガンガー(ガンジス)川流域に進出してカナウジに遷都し,北インドに大王国を建設した(11世紀初めまで続く)。なおグジャラートという地名は,この種族の名に由来する。また今日の西インド・西北インドに居住するグージャルGūjar族(主たる生業は牧畜)は,古代グルジャラ族の子孫ともいわれる。…

※「グジャラート」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

部分連合

与野党が協議して、政策ごとに野党が特定の法案成立などで協力すること。パーシャル連合。[補説]閣僚は出さないが与党としてふるまう閣外協力より、与党への協力度は低い。...

部分連合の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android