アクバル(読み)あくばる(英語表記)Jalāl al-Dīn Muammad Akbar

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「アクバル」の意味・わかりやすい解説

アクバル
Akbar, Jalāl ud-Dīn Muhammad

[生]1542
[没]1605.10.16. アーグラ
インド,ムガル帝国第3代の皇帝 (在位 1556~1605) 。父帝フマーユーンがスール朝のシェール・シャーに敗れ,インドから追われた亡命中に生れた。その後フマーユーンはデリーの王座を回復したが,すぐに事故死し,アクバルが 13歳という若年でムガル帝位についた。 1560年には執政バイラム・ハーンを解任してみずから実権を掌握した。彼の治世はスール朝に敗れて基礎のゆらいだムガル帝国を内政,外交,軍事,宗教政策などのあらゆる面で再建し,ムガル帝国の繁栄の礎石を築いた時代であり,のちにムガル帝国歴代の皇帝中最も偉大な皇帝としてアクバル大帝と称された。彼は重臣アブル・ファズルなどのイスラム教徒だけでなく,トーダル・マルらのヒンドゥー教徒も登用し,ジズヤ (非イスラム教徒に課する人頭税) を廃止するなどヒンドゥー教徒との融和に努力した。インド西部に割拠したラージプート諸勢力との同盟にも努力し,アンベールの王女を妻とするなどの政策により,ラージプート諸族のほとんどを味方につけた。このような政策によってデリーを中心とする北インドを安定させたのち,北西カシミールカンダハール,南はデカン地方のハンデシュ,ベラール,アーマドナガルなどに軍を進め,ムガル帝国の版図を拡大した。内政の面では,トーダル・マルに土地の測量を行わせ,地味によって等級に分け,単位面積あたりの税率を決定する地税徴収方法を採用した。彼は宗教の面でも,イスラム教,ヒンドゥー教,ゾロアスター教などの諸宗教の融和に努力しただけではなく,みずから諸宗教を融合した新しい宗教ディーネ・イラーヒー (神聖宗教) を創始したが,それへの改宗を強制することはなかった。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「アクバル」の意味・わかりやすい解説

アクバル
あくばる
Jalāl al-Dīn Muammad Akbar
(1542―1605)

インドのムガル帝国第3代の皇帝(在位1556~1605)。帝国の基礎の確立者。父フマーユーンがスール朝のシェール・シャーにインドを追われ、亡命の途次に生まれた。父がデリー奪回後1年で急死すると13歳余で即位し、同年、摂政(せっしょう)のバイラームの助けを受けてスール朝軍をパーニーパットで撃退した。1560年バイラームを失脚させて親政を実現。懐柔策武力を併用してラージプート人のほとんどを服属させるなど、ヒンドゥー・クシ山脈以南のアフガニスタンおよび全北インドを支配下に置き、これを12州に分け、晩年にはベラールなどデカンの3州も加えた。彼は中央集権の実をあげるため、州―県―郡(=徴税区)の行政区分を敷き、徴税制度を整備した。とくに帝国中央部では、各徴税区ごとに、過去10年間の平均収量や平均価格をもとにした作物ごとの単位面積当り収量(貨幣換算したもの)の3分の1を地租額として確定し、年々の作付面積(実測)に応じて現金納させた。また、官僚(軍人)を等級に分け、それに応じて常備すべき騎兵数とジャーギール(給与地)の大きさを定め、厳格な軍馬登録制とジャーギールの数年ごとの転封を実施した。彼はこれらの中央集権化政策を、ペルシア人、インド人イスラム教徒、同ヒンドゥー教徒らを用いて、古参の軍人たち(おもに中央アジア出身)を抑えつつ実施していった。彼の宗教政策も政治情勢に応じて変遷したが、最終的にはジズヤ(非イスラム教徒に課する人頭税)を廃止するなど宗教的寛容政策をとり、各宗教、宗派の平和共存を奨励した。彼が創始したとされるディーン・イラーヒー(神の宗教)は、宗教というよりは臣下の君主に対する忠誠心を、弟子の導師に対するそれのように高めることをねらったものであった。彼の時代にはポルトガル語書物などのペルシア語への翻訳、アブル・ファズルらによる歴史書の記述、新都ファテプル・シークリーなどにおけるイスラム様式にヒンドゥー様式を加味した多くの優れた建築物の造営、特色あるムガル細密画(ミニアチュール)法の創出もなされた。

[長島 弘]

『石田保昭著『アクバル大帝』(1972・清水書院)』

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