日本大百科全書(ニッポニカ) 「グレーブズ」の意味・わかりやすい解説
グレーブズ
ぐれーぶず
Robert Ranke Graves
(1895―1985)
イギリスの詩人。7月24日、アイルランドの民謡研究家で詩人の父と、ドイツの歴史学者ランケの血を引く母との間にウィンブルドンで生まれる。オックスフォード大学在学中に第一次世界大戦に参加、まずジョージ王朝詩風の戦争詩人として登場した。『妖精(ようせい)たちと火打銃兵たち』(1917)はこの期の作品。戦後、弾丸衝撃による強迫観念を伴ったロマン主義的な詩集『姿見』(1921)を発表するが、アメリカの女流詩人ローラ・ライディングLaura Riding(1901―1991)との交際によって作風が変貌(へんぼう)し、簡潔で、しかも厳しく苦い、男女の愛を歌った作品を発表するようになる。ケルト神話や原始キリスト教についての博学な知識に基づいて、奔放な想像力をめぐらせ、「白い女神」と名づける美神を結晶させ、自らその使徒となる。問題の神話体系『白い女神』(1948)は「詩的神話の歴史的文法」と副題を付したように、この女神を文化人類学的、比較神話学的に系統づけた現代の奇書である。
ほかにライディングとの共著『モダニスト詩の展望』(1927)や、博識を駆使して歴史小説にも筆を染め、帝政ローマに材をとった『私クラウディウス』(1934)、『神クラウディウス』(1934)という華麗な二部作もある。また『ベリサリウス伯』(1938)、ギリシア神話の集大成『ギリシア神話』(1955)などもある。1929年以降は地中海のスペイン領マジョルカ島に居を定め、1961年から4年間オックスフォード大学詩学教授を務めた。1985年12月7日没。
[出淵 博]
『成田成寿訳『世界名詩集大成10 自選詩集』(1959・平凡社)』▽『篠田一士他訳『世界文学全集35 時間・白い女神他』(1959・集英社)』