ゲラダヒヒ(英語表記)gelada baboon
Theropithecus gelada

改訂新版 世界大百科事典 「ゲラダヒヒ」の意味・わかりやすい解説

ゲラダヒヒ
gelada baboon
Theropithecus gelada

エチオピア高原に生息する霊長目オナガザル科の旧世界ザル。手足が黒いほかは全身褐色の毛で覆われており,雄の肩には長いマント状の毛が垂れている。顔は黒褐色で,まぶたの部分だけが白い。雄の胸には三角形の毛のない赤い部分があり,雌の胸にはいぼ状に突出した肉のかたまりがネックレス状に並んでいる。発情するとこれらの裸出した部分が紅潮する。頭胴長は雄で約70cm,雌で約55cm。尾長は頭胴長の約70%。体重は雄で20kg,雌で約14kgと性差が大きい。全体的にヒヒに似た形態的特徴を示すが,歯,鼻部,しりだこなどの形態の違いから,ゲラダヒヒ属Theropithecusとしてヒヒ属Papioとは区別される。

 標高2500~4000mの高地草原にすむ地上生活者で,イネ科,ユリ科などの植物の根もとや球根をおもな食物としている。夜はヒョウなどの捕食獣を避けて断崖にかたまって眠る。繁殖単位である1頭の雄,数頭の雌,子ども,赤ん坊のグループのほか,雄ばかりのグループや単独行動をする雄などが認められ,これらがいくつも集まって25~400頭のハードherdと呼ばれる遊動集団を形成する。しかし,ハードのメンバーが一時的にハードから離れて遊動することもあるため,ハードのサイズは流動的に変化する。また,隣接する二,三のハードが集まってさらに大きな集団を形成することもある。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ゲラダヒヒ」の意味・わかりやすい解説

ゲラダヒヒ
げらだひひ
gelada baboon
[学] Theropithecus gelada

哺乳(ほにゅう)綱霊長目オナガザル科の動物。エチオピア北部の標高2000メートル以上の高地草原にすむ。雄は体長70センチメートル、尾長60センチメートル、体重20キログラムになり、雌は小形である。全身褐色の毛で覆われ、雄の肩にはマント状の長毛が発達している。雄の胸にはハート形の無毛の部分があり、雌では頸(くび)から胸にかけて丸い肉塊がネックレス状に並んでいる。発情するとこれらの皮膚の赤みが増す。

 夜は断崖(だんがい)の岩棚で眠り、日中は崖(がけ)の上の草原に出て遊動する。イネ科植物、葉、茎、根を主食にし、昆虫も食べる。1頭の雄と数頭の雌を含む2~25頭のワンメール・ユニットが基本的社会単位で、繁殖集団でもある。いくつかのユニットと、それに所属していない雄たちが、より上位の集団(ハード)を形成する。各ユニットは、遊動中は独立性を維持し、離合集散を繰り返しながらも、ハードの遊動域を共有している。このような重層的な社会構造は、マントヒヒの社会とともに、ヒト以外の霊長類ではまれな例として注目される。

[川中健二]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ゲラダヒヒ」の意味・わかりやすい解説

ゲラダヒヒ
Theropithecus gelada; gelada monkey

霊長目オナガザル科。1属1種。雄は体長 70cm,体重 20kgほどであるが,雌は雄の約半分の大きさしかない。尾は長く (体長よりいくらか短い程度) ,先端に総毛がある。胸部にハート形の毛のない部分があり,雄には肩にマント状のたてがみがある。前後肢はほぼ同長。普段は一夫多妻を基本とした家族単位の群れ (ユニット) で昼間活動する。また複数の群れが1つのバンドと呼ばれる社会を構成しており,ときに集合して 300~400頭に達することが知られている。地上で生活し,ほとんど木には登らない。エチオピアの山岳部の岩の多い谷に沿って分布する。

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世界大百科事典(旧版)内のゲラダヒヒの言及

【ヒヒ(狒々)】より

…サハラ砂漠以南のアフリカ大陸と,アラビア半島の南端部に生息する霊長目オナガザル科のヒヒ属Papioとゲラダヒヒ属Theropithecusに属する旧世界ザルの総称。バブーンともいう。…

※「ゲラダヒヒ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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