古市(読み)ふるいち

精選版 日本国語大辞典 「古市」の意味・読み・例文・類語

ふるいち【古市】

  1. [ 一 ] 奈良市の地名。旧添上郡東市村古市。
    1. [初出の実例]「なじみは日かずふるいちの里を南によこおれて」(出典:浄瑠璃・聖徳太子絵伝記(1717)四)
  2. [ 二 ] 兵庫県篠山(ささやま)市の地名。旧古市村。江戸時代、摂津路にある宿場町市場町として栄えた。
  3. [ 三 ] 三重県伊勢市の地名。江戸時代は伊勢神宮の外宮から内宮に至る間の山の旧道沿いの集落で、二見・朝熊(あさま)方面に至る道との分岐点にもあたり、旅籠(はたご)や妓楼が軒を並べていた。歌舞伎伊勢音頭恋寝刃(いせおんどこいのねたば)」の舞台。
    1. [初出の実例]「神風や伊勢の古市(フルイチ)中の地蔵といふ所の遊山宿に身をなして」(出典:浮世草子・好色一代女(1686)六)
  4. [ 四 ] 大阪府羽曳野市の地名。旧南河内郡古市町。飛鳥への古道竹ノ内街道高野山に通ずる東高野街道の会合する古来の交通の要地。
  5. [ 五 ] ( 古くは「ふるち」 ) 大阪府の南東部にあった郡。明治二九年(一八九六)南河内郡に統合され消滅。〔二十巻本和名抄(934頃)〕

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百科事典マイペディア 「古市」の意味・わかりやすい解説

古市【ふるいち】

河内(かわち)国の郡名・郷名で,現在の大阪府羽曳野(はびきの)市に遺称地がある。古市は和泉(いずみ)国の百舌鳥(もず)野と並んで5世紀代の巨大古墳が集中的に造営された地域で,墳丘全長415mの誉田御廟山(こんだごびょうやま)古墳(応神天皇陵に治定)を含む古市古墳群など多数がある。《日本書紀》景行40年是歳条に伊勢の能褒(のぼ)野で死んだ日本武尊(やまとたけるのみこと)の霊が白鳥となって〈旧市邑(ふるいちむら)〉に飛来したため,この地に陵を造ったとある。同書安閑2年12月条では安閑天皇を〈旧市高屋丘陵(ふるいちたかやのおかりょう)〉に葬ったとし,《延喜式》では安閑天皇陵を〈古市高尾丘陵〉と記している。また《日本書紀》欽明32年5月条には,欽明天皇の死に際して,その喪葬儀礼である(もがり)を河内の古市で行ったとある。古市古墳群所在地から4世紀末―5世紀初頭に築造されたとみられる〈古市大溝〉の痕跡が発見されており,《日本書紀》仁徳14年是歳条に〈大溝を感玖(こむく)に掘る〉とある〈大溝〉との関係が推定されている。
→関連項目高屋城

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「古市」の意味・わかりやすい解説

古市
ふるいち

大阪府南東部,羽曳野市中央北部に位置する旧町域。大和川の支流石川の河岸段丘上にある。1889年村制。1916年町制。1956年高鷲町,埴生村西浦村駒ヶ谷村,丹比村(たんぴむら)と合体して南大阪町となり,1959年市制施行に伴い羽曳野市となった。古来竹ノ内街道と東高野街道(→高野街道)の会合点にある交通の要地で,市場町として発達。今日も近畿日本鉄道南大阪線と同長野線の分岐点をなし,商業の中心地。北部の藤井寺市にまたがる一帯は応神天皇陵誉田御廟山古墳)はじめ数多くの古墳が点在する古市古墳群を形成し,2019年堺市の百舌鳥古墳群(→百舌鳥)とともに世界遺産の文化遺産に登録。

古市
ふるいち

三重県志摩半島,伊勢市の伊勢神宮外宮と内宮の間,間 (あい) の山と呼ばれる台地上にある地区。伊勢神宮の参宮路の途上に位置し,参宮者相手の歓楽地として栄えた。特に精進落しの遊郭があったところとして知られ,歌舞伎『伊勢音頭恋寝刃』の舞台となった油屋などがあった。地名はそれ以前に市の開設地であったことに由来。第2次世界大戦による戦災後は,自動車交通の発達により参内ルートからはずれ住宅地化した。

古市
ふるいち

山口県北西部,長門市北西部,旧日置町の中心集落。掛淵川流域の小さな平野にあり,北浦街道 (国道 191号線) が通る。米の集散地として発達し,日本海に臨む北浦地域の商業中心地の一つ。 JR山陰本線長門古市駅がある。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「古市」の意味・わかりやすい解説

古市(大阪府)
ふるいち

大阪府南東部、羽曳野市(はびきのし)の中心地区。旧古市町。竹内(たけのうち)街道と東高野(ひがしこうや)街道の会合地にあり、古代より市場町として栄えた。前の山古墳(白鳥陵)、高屋築山古墳(安閑(あんかん)陵)などがあり、藤井寺(ふじいでら)市にかけて古市古墳群を形成している。江戸期には石川水運の河港、また名刹(めいさつ)西琳寺(さいりんじ)の門前町でもあった。現在は近畿日本鉄道古市駅に接し、市の商業中心地。

[橋本九二男]


古市(三重県)
ふるいち

三重県中東部、伊勢市(いせし)の一地区。伊勢神宮の内宮(ないくう)と外宮(げくう)の間の小高い台地を間(あい)の山といい、参宮路が通じるが、古市はその沿道にあり、伊勢参り客の精進(しょうじん)落としの場としてにぎわった。遊廓(ゆうかく)、茶店、旅館が800軒もあり、歌舞伎(かぶき)『伊勢音頭恋寝刃(いせおんどこいのねたば)』の舞台となった油屋や、備前(びぜん)屋、杉本屋などが軒を並べた。第二次世界大戦の戦火により焼失し、昔日のおもかげはほとんど残っていない。参宮路沿いに伊勢参りや古市の歴史を紹介する伊勢古市参宮街道資料館がある。

[伊藤達雄]


古市(広島市)
ふるいち

広島市西部、安佐南(あさみなみ)区の一地区。旧古市町。太田川の支流安川の谷口集落として栄え、古市の名のとおり、近在の市場町であった。明治以降、ハワイやアメリカ本土への移民が多く、またアサの栽培で知られた。JR可部(かべ)線古市橋駅、広島高速交通(アストラムライン)古市駅があり、国道54号が通じる。

[北川建次]

『『古市町誌』(1955・古市町)』

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世界大百科事典(旧版)内の古市の言及

【伊勢[市]】より

伊勢参りは平安時代に始まり近世を通じて盛んで,とくに何度か流行したお蔭参りでは広く各地から多くの民衆が殺到した。南東の内宮(皇大神宮)には宇治郷,5km北西の外宮(豊受大神宮)には山田郷の鳥居前町が,その中間の古市には歓楽街がそれぞれ発達した。また神領として自治制がしかれ,江戸時代には山田奉行が置かれた。…

【白子】より

…1107年(嘉承2)12月の摂関家政所下文に〈白子浜〉の名が見える。平安時代には古市ともいわれ,伊勢平氏の水軍〈白児(しろこ)党〉発祥の地とされる。1582年(天正10)本能寺の変の直後,徳川家康が伊賀越の難をのがれて,ここから三河(愛知県)に脱出した地点である。…

【遊郭(遊廓)】より

…したがってこれ以外はすべて非公認ということになるが,なかには小遊郭をしのぐ大規模な遊里もあった。例えば,伊勢参詣人を対象に古い歴史をもつ伊勢の古市(ふるいち)は茶屋町として,東海道の品川宿は形式上は飯盛旅籠(めしもりはたご)屋(飯盛女)として営業を認められていたものである。 各地によって多様な構図をもつ遊郭の基本的な設計は,上記のように周囲を溝や塀で囲み,大門(おおもん)(出入口)のみによる通行とした(裏門はあっても非常用である)。…

【河内国】より

… 河内国の地域は東に生駒・金剛山地,北は淀川,南は和泉山脈に囲まれ,大部分は淀川と大和川の沖積地で,早くから開発が進められ良質の耕地が存在した地であった。また西に瀬戸内海を控えて水上交通の利点もあったため,大和朝廷は伝応神陵をはじめとし5世紀から6世紀にかけての巨大古墳の集中する古市古墳群の地域を全国支配や朝鮮半島進出の絶好の根拠地とし,積極的にこの地の支配にあたった。志紀,紺口(こんく),河内,三野,茅渟(ちぬ)などの県(あがた)や,茨田,依網(よさみ),桜井,茅渟山,難波などの屯倉(みやけ)の設置は,その現れといえる。…

【羽曳野[市]】より

…東部は二上(にじよう)山の北西斜面,西部は羽曳野丘陵で,中央部は大和川の支流石川の河谷平野である。難波と飛鳥を結ぶ竹内街道が東高野街道(国道170号線)と会合するところに中心集落の古市がある。付近には応神陵,清寧陵,安閑陵,日本武尊陵と伝えられる前方後円墳などが集まった古市古墳群が存在する。…

【丹南[町]】より

…阪神方面への通勤者など,人口は増加している。南部の古市は古くから市場町として発達したが,鉄道開通後は篠山口に中心が移った。丹波茶の産地として知られる味間には天台宗の古刹(こさつ)大国寺がある。…

【古市氏】より

…本貫地は現奈良市東南方の福島市(ふくしまのいち)で,室町時代中期の給分としては,福島市の下司職(げししき)を〈惣知行〉するほか,高田荘切田米,狭竹荘請口内60貫文,上生講田作主職,越前河口荘藤沢名半分を与えられていた(《三箇院家抄》)。福島市は鎌倉時代後期に奈良の南市に移され,以後福島市は古市と呼ばれた。古市氏の国人としての成長も鎌倉時代後期と考えられ,1325年(正中2)古市但馬公が史料に見える。…

【柳井[市]】より

…南東前面に周防大島(屋代島)が控え,古くから海上交通の要地であった。中世の楊井津(やないづ)は対明貿易船の基地でもあり,津の中心であった古市,金屋(かなや)には町場があり,鋳物師(いもじ)が集住していた。近世には吉川氏の岩国領で,柳井湾岸の干拓地では製塩が行われ,柳井木綿の産も盛んであった。…

【武蔵[町]】より

…町名は,《和名抄》などに記される武蔵郷の名にちなむ。武蔵川河口に位置する中心集落の古市は,近世,特産のイグサで作るむしろなどの積出しでにぎわい,杵築(きつき)藩の米蔵が置かれた。町の南東端の海岸に1971年大分空港が開港し,工場誘致も進められて,第2次・第3次産業の就業者が増えている。…

※「古市」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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