改訂新版 世界大百科事典 「コイコイン」の意味・わかりやすい解説
コイ・コイン
Khoi Khoin
アフリカ南西部,ナミビアの南部に住む遊牧民族。サンと同じく,舌打音(クリック)の頻繁な使用を特徴とするコイサン語族に属する言語を使用する。サンとコイ・コインは身体特性,言語,文化の三つの要素において著しく類似しており,前者が採集・狩猟,後者が牧畜に生計を依存している点によって両者を区別するのが普通である。かつては東・中央・南アフリカに広く分布していたサンが,15世紀ころまでに,南下してきたバントゥー族に圧迫されて南部アフリカに後退する過程で,バントゥー族と融和し,牛の遊牧とともに社会組織をもとりいれた一部の者がコイ・コインになったのであろうといわれている。コイ・コインは,かつては南部アフリカ西岸部に広く住んでいたが,17世紀以来の白人の侵入により人口は激減し,その経済,社会もほとんど伝統的な形態を残していない。最も純粋な姿をとどめる部族と思われるナマが,ナミビアを中心とする約2万人を除くと,南アフリカ共和国ではほとんど絶滅したか,あるいはケープ・カラードと呼ばれる混血グループに吸収されてしまっている。ホッテントットHottentot(ボーア語で〈どもる人〉を意味する蔑称)が使われたが,自らはコイン(人間),あるいはコイ・コイン(人間の中の人間)と称する。サンよりやや背が高く,男子の平均身長は160cm。女性は脂臀(ステアトピギー)と小陰唇の奇形的伸長(ホッテントットのエプロン)で有名である。降水量の少ない半砂漠高原地帯で牛による遊牧生活を送り,男子が家畜の飼育管理にあたり,女子が乳を搾る。乳製品を主食とするが,スイカ,トウモロコシ,豆の栽培,鉄砲,わなによる狩猟,および野生植物の採集も併せて行う。
ナマ,コラナ,ゴナ,グリンガの4部族に分かれ,それぞれがいくつかの支族からなる。外婚を行う父系氏族があり,それぞれに長がいるが,親族の組織化はそれほど発達したものではなく,政治組織も簡単で,首長といえどもそれほど権力をもっているわけではない。最終的な決定は長老会議によってなされる。冠婚葬祭などの通過儀礼も,他のアフリカ諸民族に比べると比較的簡単である。男子は9~10歳で割礼の儀式を受ける。結婚に際しては牛が花嫁代償(婚資)として用いられ,その多寡は花婿とその父親が決定する。しかし女性は当人が同意しなければ結婚しなくてもよい。一夫一妻のケースが最も多いが,一夫多妻も多くみられた。キリスト教が入ってくる以前には霊魂の来世を信じていたと思われる。信仰の中心は,神話上の英雄を崇拝したり,雨をもたらす自然力を擬人化することであった。死霊が病気や不幸をもたらすものと考えている。サンと違って祈禱や雨乞いの踊りを行う。
→サン →人種
執筆者:田中 二郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報