改訂新版 世界大百科事典 「コンブ」の意味・わかりやすい解説
コンブ (昆布)
褐藻類コンブ科の一群の海藻。日本沿岸では約18種見いだされているが,食用とするのはマコンブLaminaria japonica Areschoug,リシリコンブL.ochotensis Miyabe,ミツイシコンブL.angustata Kjellm.,ナガコンブL.longissima Miyabe,ホソメコンブL.religiosa Miyabe,ネコアシコンブArthrothamnus bifidus (Gmelin) Rupr.,ガツガラコンブL.coriacea Miyabe(別名アツバコンブ),カキジマコンブL.longipedalis Okam.(別名クキナガコンブ),トロロコンブKjellmaniella gyrata (Kjellm.) Miyabe,チヂミコンブL.cichorioides Miyabeなどがあり,なかでも前5種がよく利用される。宮城県以北,とくに北海道の外洋に面した干潮線より深い岩礁上に着生する。
形状と生活史
藻体は淡褐色で長い帯状のものが多い。この帯状の葉状部と茎部の移行部分に分裂組織があり,ここが盛んに細胞分裂して藻体は生長する。したがって先端部は最も老成した部分ということになる。最も長い種類はナガコンブで,30m以上にもなる。普通に見るコンブの体は胞子体で,夏にこの表面に無性生殖器官である遊走子囊が形成される。遊走子囊内には減数分裂により遊走子がつくられる。遊走子は先のとがった卵形で,側部にある長短2本の鞭毛で泳ぐ。岩などにつくと鞭毛を落として球形となり,やがて糸状に発芽して,顕微鏡的な大きさの雌雄の配偶体となり,ここに生卵器と造精器を形成する。卵細胞は成熟すると,生卵器の先端にでて精子の到着を待つ。受精した卵は直ちに分裂を繰り返してコンブの体に生育する。すなわちコンブの生活史は,大型の胞子体と顕微鏡的な配偶体の交代による。コンブ類の人工養殖は人工採苗によって得たこの配偶体を利用して行われる。
増養殖
投石や魚礁づくりによる増殖は古くから行われてきたが,近年,人工採苗による養殖法が確立し,瀬戸内海でもできるようになった。普通,2年目のものを採取するが,養殖の促成コンブは1年で製品にする。採取は7月中旬から9月上旬が普通だが,地方によっては10月ごろまで行われ,舟上から鉤(かぎ)で引っ掛ける。生コンブは日干しするが,晴天なら4時間ほどで干し上がる。これを屋内に堆積してむしろで覆う。これを〈奄蒸(えんじよう)〉という。日干しと奄蒸を2~3回繰り返し,乾燥を終える。ついで,一定の長さに切断するか,または折りたたんで束とし,縄やコンブで結束し出荷する。コンブは種類ごとに結束法がほぼ決まっており,また採取場所,時期によって品質,とくに味の差異が大きいので,用途がおのずと違ってくる。表に,種類別の荷姿と加工品を一括して示した。
生産
現在,日本のコンブの総原藻生産量は10万~15万t前後で,そのうち95%以上が北海道産である。北海道でも根室と釧路が約60%を占め,ナガコンブが多い。これにつぐ日高から渡島の道南部ではマコンブが多く,総生産量の約30%である。知床半島の国後島側だけで採れるラウスコンブは量的には少ないが,品質がとくに優れているので評判になっている。輸出入では,台湾,ベトナム,シンガポール,香港,ブラジル,アメリカへ干しコンブとして輸出され,おもに中国から輸入されている。
用途
コンブは用途が広く,だし用,煮物用,加工用などの食用のほかに,アルギン酸製造の原料ともなっている。だし用としてはリシリコンブ,ミツイシコンブ,マコンブが,煮物用としてはミツイシコンブが優れている。構成成分は,炭水化物約50%,無機質約25%,そのほかは少量のタンパク質,脂肪である。主成分の炭水化物の20%前後が繊維で,そのほかの多糖類であるアルギン酸,フコイジン,ラミナリンなどよりなる。コンブのうまみはおもにグルタミン酸で,アラニンおよびマンニットの量も多く,呈味に関与していると考えられる。ヨードの含量も食用海藻では最も高く,その90%がだし中にでてくる。古来,日本人がコンブをだし用として利用してきたのは,味の点からも栄養的にもひじょうに優れた生活の知恵といえる。
執筆者:山口 勝巳+千原 光雄
食用
日本では古く〈ひろめ〉〈えびすめ〉といった。〈昆布〉の文字も奈良時代から用いられており,《続日本紀》霊亀1年(715)10月丁丑の条には,蝦夷(えみし)が〈先祖以来,昆布を貢献す〉と述べている記事があり,《延喜式》には〈御贄(おにえ)〉などとして陸奥から貢納されていたことが見える。祝儀に用いることについて,伊勢貞丈はひろめの名を,物をひろめる意味にとりなして用い,一説によろこぶ儀にとりなして用いる,といっている。そのまま,あるいは火であぶったものを適宜の大きさに切るか,結びこんぶにして食べることが多かったようで,だしの材料としての使用が見られるのは中世末期のことになる。江戸時代には北海道のコンブはまず大坂に運ばれ,そこから全国に出荷された。コンブの利用が関西で発達し,いまもコンブが大阪の名物とされるのはこのためである。ニシンを巻いて煮たこぶ巻や油で揚げた揚げこんぶ,それに〈みずから〉というこんぶ菓子の行商も京坂には多かった。みずから売りは《東海道中膝栗毛》では伏見の船つき場に登場し,《見た京物語》(1781)では芝居小屋の中で〈饅頭(まんじゆう)や水辛と売る〉としている。はじめは結びこんぶの中にサンショウを包みこんだもので,〈見ず辛〉の意とする説もあるが,《嬉遊笑覧》は,水から生じた意の〈水から〉で,こんぶ菓子一般の称としている。干しこんぶのうまみはグルタミン酸,甘みはマンニットによるもので,こんぶの表面についている白粉がマンニットである。成分は50%前後が糖類で,これは消化されにくいが,カルシウム,ヨード,カリウムなどの含有量は多い。塩こんぶなどのつくだ煮,その他の煮物や酢の物に用いるほか,菓子やこぶ茶の材料とされ,また,各種のトロロコンブに加工される。
執筆者:鈴木 晋一
民俗
コンブは古名を〈ひろめ〉〈えびすめ〉といったが,ひろめは幅の広いための名で,えびすめは蝦夷地(北海道)産が多いための称である。それらは〈よろこぶ〉〈広まる〉〈福を得る〉に通じる縁起のよいものとされ,打鮑(うちあわび)(のし),かちぐりとともに,〈打って勝って喜ぶ〉といって,出陣をはじめ武家の儀式にはかかせぬものとなり,民間でも蓬萊(ほうらい),食積(くいつみ),年木などの正月の飾物や婚礼の島台に用いられるようになった。菅江真澄の《奥の手風俗(てぶり)》には,南部地方では節分に豆とともに松葉とコンブを刻んだものをまぜてまいたとあり,盆には盆棚にコンブをつるす風もあった。このほか,大晦日にコンブを食べると利口になるとか,コンブを食べると髪が豊かになるという俗信もある。コンブは旺盛な繁殖力をもち,規則正しい世代交代を行い,海中で豊かにゆらめく生態が,めでたい食品や豊かな髪との結びつきを生んだものと思われる。コンブは北の海の産物で,スルメやアワビの得にくい地方では,なまぐさ物の代りに使う所もあった。
執筆者:飯島 吉晴
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報