周期表第IA族に属するアルカリ金属元素の一つ。カリウムという名称は灰を意味するアラビア語qāliに由来するラテン語kaliumの音訳で,ドイツ語ではそのままKaliumであり,英語でもときにkaliumという場合がある。英名はpot(つぼ)のash(灰)に由来する。カリウム化合物とナトリウム化合物が区別されたのは16世紀のころで,1758年A.S.マルクグラーフはナトリウムの炎色(黄色)とカリウムの炎色(紫色)の相違を指摘している。1807年イギリスのH.デービーが水酸化カリウムの溶融電解によって初めて単体を単離した。地球上にはアルカリ金属としてナトリウムに次いで多量に存在する。反応性が大きいため遊離のまま産することはなく,おもに長石,雲母などのケイ酸塩の形で地殻中に広く分布している。これらの風化によって生ずるカリウムイオンは,土壌中のコロイド状物質に吸着されやすいため流出することが少なく,陸生植物の生理に重要な役割をもち,植物灰分がカリウムを多く含む主因となっている。ドイツのシュタスフルト,フランスのアルザス地方,アメリカのニューメキシコ州などの岩塩鉱床から,塩化物,硫酸塩,およびそれらの複塩の形で大量に産出する。海水中には塩化カリウムKClとして固形塩に2.5%含まれるが,同族元素であるナトリウムに比べるとその含有量は著しく小さい。3種の天然同位体のうち40Kは放射性元素(半減期1.26×109年)で,β⁻崩壊で4200Caに,軌道電子捕獲(EC)およびごくわずかのβ⁺崩壊によって4108Arを生ずる。19Kと18Arの原子量の大きさに逆転がみられるのは,この崩壊生成物である40Arの蓄積による。
銀白色の軟らかい金属。ナトリウムよりやや硬く,低温ではもろくなる。蒸気は沸点では緑色,高温では紫色。体心立方格子(格子定数a=5.333Å(20℃))。剛性率6.8×10⁻9kg/cm。線膨張率8.300×10⁻5/K。比熱0.187(固体),0.217cal/K(液体),熱伝導率0.232cal/cm・s・K,融解熱14.6cal/g,気化熱48cal/g(20℃),電気良導体で比抵抗7.0×10⁻6Ωcm(18℃),磁化率0.55×10⁻6emu。炎色反応は淡紫色でスペクトル線は769.9および766.5nmの二重線。電気的陽性のきわめて強い1価の元素で,化学的性質はナトリウムとよく似ているが,それよりさらに激しい。空気中で酸化されて速やかに光沢を失い,発火することもある。空気中または酸素中で加熱すると紫色の炎をあげて燃え,おもに超酸化物KO2を生ずる。水素中で加熱すると塩型の水素化物KHになる。ハロゲン(X2)と激しく反応してハロゲン化物KXを生ずる。硫黄,セレンとは暖めると反応し,リン,ヒ素,アンチモンとは直接化合する。水銀とは激しく作用してカリウムアマルガムをつくる。水とは-100℃においても反応し,水素を発生して水酸化カリウムを生じ,常温では反応熱のために発火する。硫化水素,ハロゲン化水素とは常温では徐々に,加熱すると激しく反応する。他金属の酸化物,水素化物,酸素酸塩を還元して,その金属を遊離させることがある。二酸化炭素と高温で反応して炭素を遊離する。多くの有機化合物に対し,ナトリウムより強い還元作用を示す。
水酸化カリウムあるいは塩化カリウムなどの融解塩電解によって得られるが,現在工業的には塩化カリウムと金属ナトリウムとの反応によってつくられている。
KCl+Na─→NaCl+K
ステンレスの反応塔中で融解塩化カリウムとナトリウム蒸気を反応させてつくる。このときカリウムとナトリウムの沸点間の温度(約760~883℃)で操作すると実用的な合金NaK(ナク)が得られるし,高温では十分に純粋なカリウムが得られる。
ナトリウムとほぼ同様の用途をもつが,反応性が激しいため取扱いがむずかしく,しかも高価なため,工業的にはナトリウムほどは使われない。Na-K系の液体合金は,還元剤,原子炉の冷却剤,高温温度計に用いられる。ナトリウムより強力な還元剤として有機合成,有機金属化合物合成に利用される。カリウム化合物の原料ともなる。
石油などの中に浸し,空気および水との接触を断って保存する。直接手で触れてはいけない。
執筆者:藤本 昌利
成人はふつう約4gのカリウムを含むが,体液中には0.07gしか含まれず,大部分細胞中にイオンK⁺として存在する。これに対してナトリウムイオンNa⁺濃度の分布はカリウムの場合とまったく対照的で,細胞内にはきわめて少量しか含まれない。細胞内外におけるこのような著しいイオン濃度の違いは,細胞膜に存在するイオンポンプと呼ばれる機能によってエネルギー(ATP)を消費しながら積極的に維持されている。細胞内における高濃度のK⁺は,リボソームにおけるタンパク質合成や多くの酵素系の活性のために不可欠である(たとえば解糖系のピルビン酸キナーゼ)ほか,神経刺激伝達における活動電位の発生に重要な役割を果たしている。植物においては三大栄養素(窒素,リン酸,カリウム)の一つである。カリウム欠乏症を防ぐために肥料として大量に用いられる。カリウムは細胞の浸透圧や原形質のコロイド状態の調節に関与していると考えられている。ジャガイモ,テンサイなどは多量にこのイオンを含み,カリウム植物と呼ばれる。
執筆者:柳田 充弘
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
K.原子番号19の元素.電子配置1s22s22p63s23p64s1の周期表1族元素.原子量39.10.2種類の安定同位体(39K,41K)がある.放射性同位体は7種類の存在が知られている.1807年H. Davy(デイビー)により水酸化カリウムの融解電解で遊離された.古くから植物の灰ashを鍋potで煮て得られる炭酸カリウムはpotashとして知られており,Davyはこれをもとにpotassiumと命名した.中世には,炭酸カリウムと天然ソーダ・炭酸ナトリウムが区別されておらず,欧州ではnatron,アラブ圏ではalkaliとまとめてよばれていたが,M.H. Klaprothが両者の違いを認めて,1797年に前者をkali,後者をnatronとよぶことを提案した.今日でもドイツ語圏では元素名はKaliumで,日本語の元素名はドイツ語名を採用している.
天然には遊離状態で存在せず,おもにケイ酸塩として地殻中に広く分布する.地殻中の存在度9100 ppm.植物の灰に多く含まれる.ドイツやフランスの鉱床から塩化物,硫酸塩などの複塩として多量に産出する.また,海水中には塩化カリウムとして0.38 g dm-3 含まれている.カリウムの水酸化物,ハロゲン化物の融解電解で得られ,真空蒸留により精製する.銀白色の軟らかい金属.体心立方格子構造.格子定数a = 0.533 nm(20 ℃).融点63.65 ℃,沸点774 ℃.密度0.86 g cm-3(20 ℃).融解熱2.4 kJ mol-1,蒸発熱77.4 kJ mol-1.イオン化電位4.318 eV.炎色反応は淡紫色.電気的陽性の強い元素で,酸化数1の化合物をつくりやすい.表面は空気中でただちに酸化されて光沢を失う.発火することもある.鉱油中に保存する.空気中で熱すると燃えて超酸化カリウムKO2を生じる.ハロゲン族,酸素族,硫黄族の元素と作用し,また水素気流中で熱すると水素化カリウムとなる.水とはげしく反応して水素を発生し,生じた水素は反応熱のため発火する.ほかの金属の塩を還元してその金属を遊離する.有機物に対し強い還元作用を示す.液体アンモニア,エチレンジアミン,アニリンなどに溶け,水銀とはアマルガムをつくり,多くの金属に合金をつくって溶ける.カリウム化合物の原料,有機合成の還元剤,縮合剤に用いられる.ナトリウム-カリウム合金は原子炉の冷却剤として用いられる.[CAS 7440-09-7]
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
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