翻訳|gorilla
哺乳(ほにゅう)綱霊長目ショウジョウ科の動物。オオショウジョウ(大猩々)ともよばれる。チンパンジーと同じチンパンジー属Panに含める立場もある。2種のチンパンジーとともにアフリカ大形類人猿African great apesを構成する。2亜種があり、テイチゴリラ(lowland gorilla)G. g. gorillaは、カメルーン、コンゴ、ガボン、赤道ギニアなどの低地多雨林に分布するのに対し、マウンテンゴリラ(mountain gorilla)G. g. beringeiは、コンゴ民主共和国(旧、ザイール)東部、ウガンダ南西部、ルワンダ北部の山地林に生息する。
[伊谷純一郎]
現生霊長目中の最大種で、雄は体重200キログラム以上に達し、とくにマウンテンゴリラは大きい。性差が著しく、雌の体重は雄の約2分の1である。雄の身長は2メートルを超す。大人の雄の背から腹にかけては銀白色になり、シルバーバックとよばれる。また、頭頂の矢状稜(しじょうりょう)とよばれる骨の突起に沿って高い隆起が発達する。それらの特徴もマウンテンゴリラのほうに著しい。体色は、マウンテンゴリラは漆黒、テイチゴリラは暗褐色である。耳殻は小さい。鼻は低く、鼻翼が発達し、鼻孔は大きい。歯の数は32本でヒトと同じであるが、雄の犬歯は強大で、歯隙(しげき)が目だつ。頭蓋(とうがい)内容量は雄が500cc以上、雌は約450ccであり、小形類人猿であるテナガザルの100ccに比し格段の開きがある。ゴリラの雄の脳と体重の比は1対420、ヒトのそれは1対47である。
[伊谷純一郎]
雌は8歳で性的成熟に達するが、雄では9歳で、このころから背中の毛が白くなり始め、完全なシルバーバックになるのは11~13歳といわれている。初産年齢は10歳、妊娠期間は255日で、1産1子、出産間隔は約4年である。樹上、地上両様の生活様式をもつが、より地上性に傾いている。地上依存の傾向は、体重との関係もあって年齢とともに顕著になり、とくに大人の雄はめったに樹上にベッドをつくることはない。偏食の傾向が強く、野生のセロリなど草本の葉や茎、タケノコ、木生シダの葉柄など繊維の多い食物を主食とする。昆虫や動物を食べたという記録はない。マウンテンゴリラは海抜2000~4000メートルの湿潤な山地林または亜高山帯の草本に、テイチゴリラは低地多雨林の林縁や二次林の水分を多く含んだ草本類に依存して生活している。
集団は2頭から40頭余までの記録があるが、平均は11頭で、単雄複雌の構成を基本とする。集団は20~40平方キロメートルの遊動域をもち、近隣の集団の遊動域とは大幅な重複をみせるが、集団間の社会関係はきわめて厳しい。このような集団のほかに単独行動をする雄がいる。集団は凝集性が高く、チンパンジーのような離合集散性は認められない。単独行動をする雄は、集団内の初産の新生子を抱いている若い雌に目をつけ、その新生子を殺す。雌は加害者である雄を追って生まれ育った出自集団を離れ、最初の2頭からなる単位集団が誕生する。この現象を観察したフォッシーDian Fosseyは、雄による雌の誘拐(キッドナッピング)とよんだ。雄はさらに誘拐を重ね、集団内の繁殖をも加えて集団のサイズを大きくしてゆく。このようにして雄の晩年には集団サイズは20頭以上にも達する。このような集団には、2~4頭のシルバーバックが認められることがあるが、そのなかの1頭が家父長的な雄で、あとはその息子である。しかし、その家父長的な雄の死とともに、雌たちは近隣の集団に吸収され、あるいは単独行動をする雄に奪われて、集団は崩壊する。このようにゴリラの社会は、雄1代限りで継承されることのない集団と、単独行動をする雄からなっている。アフリカの類人猿3種の社会は、いずれも雌が集団間を移籍するという点は、母系的なオナガザル類の社会とは対照的な構造だといわなければならない。
ゴリラは通常はもの静かな動物であるが、緊張すると両手で胸をたたき(ドラミング)、遠距離まで届く音をたてる。また雄の外敵への威嚇の声は爆発的な激しさをもつ。シャラーGeorge Schallerは22種の音声を記録している。両亜種とも絶滅が心配され、厳重に保護されている。ルワンダのカリソケKarisokeでは長期観察が続けられている。
[伊谷純一郎]
『今西錦司著『ゴリラ――人間以前の社会を追って』(1960・文芸春秋新社)』▽『河合雅雄著『ゴリラ探検記』(1961・光文社)』▽『ジョージ・シャラー著、福屋正修訳『マウンテンゴリラ』上下(1979・思索社)』
霊長目オランウータン科の類人猿。オオショウジョウとも呼ばれる。アフリカの大型類人猿3種のうちの一つで,現生の霊長類の中では最大である。2亜種があり,一方はニジェール川とザイール川にはさまれた熱帯降雨林に生息するローランドゴリラ(テイチゴリラ)G.g.gorilla,もう一方はキブ湖の東西の高地に生息するマウンテンゴリラ(ヤマゴリラ)G.g.beringeiであるが,後者のキブ湖西部に分布するものをもう一つの亜種として区別すべきだという意見もある。ゴリラの雄と雌の間にはきわめて顕著な性差があり,雄の体重は150~200kgであるが,雌は雄の約半分で70~120kgである。雄の頭骨正中には矢状稜(しじようりよう)と呼ばれる突起が発達するが,雌にはこの突出がほとんどない。
ゴリラには交尾や出産に明りょうな季節的変化はない。雌は31日の性周期をもち,そのうちの3日間だけ発情する。子どもが幼児期に死亡した場合を除いて,平均3年半の間隔で1頭ずつの子どもを生む。母親に完全に依存して過ごす時期は3歳までで,性成熟までに雌は8年以上,雄で11年以上を要する。雄は11歳を過ぎるころから背から腰にかけての毛が白くなってくる。この変化は,雄をおとなとそれより若い個体とに区別するうえで確実な手がかりになり,おとなの雄はシルバーバック(銀色の背中),まだ背が白くなっていない青年の雄はブラックバックと呼ばれる。
ゴリラは昼行性で,活発な活動のほとんどは日中に行う。朝の採食の後に長い休息時間があり,午後になってふたたび活発に採食する。夕方になると,地上あるいは樹上に巣をつくって眠るが,日中の休息時にも巣をつくることがある。食物はすべて植物性で,動物性のものを食べたという記録はない。マウンテンゴリラはタケノコ,木性シダの葉柄などといった繊維質の食物を好み,ローランドゴリラは果実を好む。日中の活動時間の80~90%は地上で過ごす。移動の際には,足の裏を地面に平らにつけ,手は握った指の中節背面を地につけて四足で歩行する。上肢に比べて下肢が短いために,体軸を斜めに保った姿勢をとる。
ゴリラの集団は,リーダーとなる1頭のシルバーバックの雄と複数の雌,その子どもたちからなる結集力の強いまとまりが核になっている。シルバーバックの雄とそれぞれの雌の間の結びつきは強いが,それに対して雌たちの間は没交渉に近い。子どもたちは母親との緊密な関係を保っているが,シルバーバックとの交渉も頻繁に見られる。幼児が母親を失ったときには,シルバーバックの雄が母親代りになってその子どもの世話をするという光景が見られる。そのような子どもはシルバーバックの巣の中で眠る。これらの結集力の強いまとまりをつくっている個体のほかに,集団には不安定な要素をもったメンバーも含まれている。リーダー以外のシルバーバックあるいはブラックバックの雄たちと若い雌たちである。この周辺的な雄たちは,いずれ集団を離れて単独行動をするようになる場合が多いが,そのまま居残ってリーダーのあとがまにすわったという例も知られている。一方,若い雌たちは他の集団に移籍したり,あるいは単独行動をしているシルバーバックに付き従って新しい集団をつくる。このような雌の移籍は,二つの集団が互いに近づいたとき,あるいは単独行動者の雄が集団に近づいたときに起こることが多い。そのとき,雄どうしの間で激しい闘争が行われることがあり,その闘争のさなかに幼児が殺されるという例が少なくない。子どもを失った雌は,子どもを失うことによってふたたび発情し,集団を離れて新しい雄に付き従うのである。ゴリラの社会では雄も雌もその多くが生まれた集団を離脱するが,集団間を移籍するのは基本的に雌だけである。ゴリラの社会は,チンパンジーの社会と同じように,集団間を雌が移籍することによって各集団の構成が更新されていく社会である。
執筆者:北村 光二
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…テナガザル類はいずれも各1頭の雌雄とその子どもからなる集団をもっている。オランウータンの社会は安定した集団をもたない単独生活者の社会であるが,ゴリラは単雄複雌の集団を基本としており,チンパンジーとピグミーチンパンジーは複雄複雌の集団をもっている。類人猿に見られるこれらの集団は外婚の単位であり,近い血縁関係にある性的関係が回避されていることも知られている。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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