改訂新版 世界大百科事典 「サイチョウ」の意味・わかりやすい解説
サイチョウ (犀鳥)
hornbill
ブッポウソウ目サイチョウ科の鳥の総称,またはそのうちの1種を指す。サイチョウ科Bucerotidaeの鳥はどの種も大きなくちばしをもち,大部分の種では上くちばしの上部によく目だつ大きな付属突起がある。和名,英名とも,この特異な形のくちばしをサイの角に見たてたものである。尾羽が長い。アフリカ大陸に約25種,インドから東南アジア,マレー諸島,ニューギニアにかけて約20種が分布している。全長38~125cm。もっとも小さい種はアフリカのアカハシマメサイチョウTockus camurus,最大種はアジアのオナガサイチョウRhinoplax vigilである。樹木の散在する草地から熱帯降雨林まで,樹木のあるさまざまな環境に生息し,その生息環境の相違から地上生のジサイチョウ類と樹上生のサイチョウ類に分けられる。
サイチョウ属Tockusのような比較的小型な種はおもに昆虫類を,オオサイチョウ属Bucerosやナキサイチョウ属Bycanistesのような大型種はおもに果実類を食べている。しかし,いずれも大きなくちばしを利用して,さまざまな食物をとり,毒ヘビ,ムカデ,サソリ,鳥類の雛なども食べる雑食性である。ふつう繁殖期以外は群れになり,大きな声で鳴きかわしながら生活している。サイチョウ類は巣を樹洞内につくり,ジサイチョウ類は樹洞や崖地のくぼみなどに営巣する。
サイチョウ科の鳥の繁殖様式は特異である。例えばアカキバシサイチョウTockus deckeniでは,樹洞内部の産座に入った雌は排泄物を巣の口にぬりつけて固め,わずかにくちばしが出し入れできるくらいの狭い隙間状に巣の口をつくり上げる。この巣内にとじこもった雌は1腹2~3卵を産み,約30日間抱卵し続ける。孵化(ふか)後,雛は約45日で巣立つが,雌親は雛が巣立ちする約2~3週間前に巣の口をこわして外部に出てくる。雌が巣にこもっている間,外部にいる雄が巣内の雌と雛の食物を狭い巣の口から与える。雌親はこの間に換羽も行う。このような繁殖様式は,ジサイチョウ類を除くこれまで調査されたサイチョウ科のどの種にも共通の特性である。これは,外敵から巣を守るのに役だつ適応と考えられている。
サイチョウBuceros rhinocerosはマレー半島,スマトラ島,ジャワ島,ボルネオ島に分布する大型の種で,全長約1.2m。カササギサイチョウAnthracoceros coronatusは全長約75cm。背と胸が黒く,腹は白い。インドからジャワ島およびボルネオ島まで分布し,低地の森林でよく見かける。
執筆者:安部 直哉
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報