改訂新版 世界大百科事典 「トカゲ」の意味・わかりやすい解説
トカゲ (蜥蜴)
有鱗目トカゲ亜目スキンク(トカゲ)科Scincidaeに属する四肢の発達した爬虫類の総称で,とくに英名でskinkと呼ばれる。広義にはトカゲ亜目Lacertiliaに属する爬虫類を指し,英名でlizardと呼ばれ,上記のほかイグアナ,ヤモリ,カメレオン,カナヘビ,アガマなどの各科も含まれる。
形態
日本でふつうトカゲと呼ばれるものはトカゲ属Eumecesに含まれ,北海道,本州,四国,九州および周辺の離島にニホントカゲE.latisctatusが分布し,伊豆諸島にオカダトカゲE.okadae,南西諸島にはオキナワトカゲE.marginatus,バーバートカゲE.barbouriなど6種が分布する。これらは典型的な〈トカゲ型〉をしており,いずれも形態,生態ともに類似し,種によってわずかに体鱗のようすや数に相違が見られる。頭部はやや扁平で吻部(ふんぶ)はにぶくとがり,吻端近くの両側に鼻孔が開く。眼にはまぶたが発達し,下まぶたが動き閉じることができる。眼の後方には耳孔があり,鼓膜は耳孔の中に落ち込んで表面に現れていない。胴は円筒形でやや幅広く,腹面はつねに地面に着けておりもち上げることがない。尾は円筒形で発達し全長の3/5~2/3ほどを占める。四肢は発達するがやや短く,前・後肢とも指は5本で各指に鋭いつめがある。体は全身が滑らかな瓦状の体鱗に覆われ,頭部では大きな鱗板に分化しており,各うろこには骨質の板(皮骨板)があって硬い。カナヘビ科のニホンカナヘビTakydromus tachydromoidesがニホントカゲとよく混同されるが,前者は体鱗に光沢がなく,背面では各体鱗の隆条が連続して6条になり,また頭胴部から尾部にかけて背面の体色が一様に褐色をしている点で区別できる。トカゲの幼体は背面が黒色で5条の黄白色の細い縦条が走り,尾は鮮やかなコバルトブルーでよく目だつ。成体の背面は一様に茶褐色となり尾の青色も薄れるが,全体に光沢がある。
日本産トカゲ属のうち,先島諸島産のキシノウエトカゲE.kishinouyeiが全長26~39cmほどに達する大型であり,八重山諸島産イシガキトカゲE.stimpsoniが全長15cmでやや小型であるほかは,すべて全長20~25cmくらい。台湾,中国に分布するアオスジトカゲE.elegansは,日本では尖閣諸島にのみ分布し,従来記録されている南西諸島各地の分布は誤りと考えられる。後肢に不規則な大型鱗の列が見られるのが特徴。
トカゲ属以外ではスベトカゲ類の4種が南西諸島や小笠原諸島に分布し,ミヤコトカゲEmoia atrocostataが宮古諸島に分布する。ミヤコトカゲは海岸付近にすむ形態の優雅な種で,全長約18cm,国外では台湾,東南アジア,ニューギニア,西太平洋の諸島に広く分布する。下まぶたはうろこに覆われず透明な膜(窓,disc)となっている。スベトカゲ類には,下まぶたが透明,または半透明になるものが多い。〈窓〉は下まぶたを閉じても外が見え,砂や土に潜ることの多いトカゲには有用。オガサワラトカゲCryptoblepharus boutonii(全長10cm)では,円形の透明な膜からなる下まぶたが上まぶたに固着し,眼を覆って保護している。このようなヘビ型の眼は,樹皮の下など狭い隙間に隠れるヤモリの眼と同じ構造で,オガサワラトカゲが木の幹や倒木を活発に行動し,すばやく隙間に隠れるのに好つごうである。
生態
日本産のトカゲは平地から山地の日当りのよい草原,耕地,堤,石垣,がれ場から人家周辺や庭先にも生息し,石垣や山道の崖に掘った穴をすみ家とする。昼行性で,晴天には日だまりと日陰とを頻繁に往復して体温調節を行い,活発に行動するが,雨天や低温の日には巣穴にとどまる。冬眠は晩秋から早春まで行う。主として地上性で,低木や草に登ることもあまりない。体鱗は滑らかで摩擦抵抗が少なく,飾りうろこもまったくない。逃げ足が速くすぐ巣穴に逃げこむ。運動は胴を地面に着けたまま体を蛇行させ,四肢は補助的に用いる。円筒形をした胴が長くなるに反比例して四肢が退化する傾向が見られ,砂中に潜るものには前肢を欠くものがある。例えば,南ヨーロッパ産ドウナガトカゲChalcides chalcidesでは四肢がきわめて小さく,形態はアシナシトカゲに類似する。またオーストラリア産シュミットフタアシトカゲLerista karlschmidtiは前肢を欠き,同属のアーネムフタアシトカゲL.stylisは後肢もまったく痕跡的なヘビ型をしている。尾は自切し,尾の切断面から再生するが,再生した尾は完全には復元せず,日本産トカゲでも多くの個体が短い再生尾をもっている。ニホントカゲの交尾期は4月中旬から5月中旬ころで,このころの雄にはのどに赤い婚姻色が現れ,雄どうしで争う。雌は初夏に石や倒木の下の土を掘って10~16個ほどを産卵し,孵化(ふか)するまで保護する。ほとんどが卵生で,アオジタトカゲなど一部が卵胎生。
分類
スキンク科は約85属1275種の大きなグループで,寒地を除く全世界に広く分布し,ほとんどは全長20cm前後の小型。しかしソロモン諸島産オマキトカゲCorucia zebrataは全長65cmに達し,ニューギニア,マルク諸島に分布するアオジタトカゲの亜種のオオアオジタトカゲTiliqua scincoides gigasも50cmあまりの大型である。
執筆者:松井 孝爾
象徴,神話
トカゲは蛇やドラゴンとほぼ同じ象徴的意味をもち,中世ではエデンの園の蛇にしばしば四肢がつけられ,トカゲのような姿で描かれた。知恵や予言の力をもった動物とされ,古代ギリシアにはこれが壁をはうようすから吉凶を判断するトカゲ占いがあったという。また別の俗信によれば,トカゲは耳から受精し口から卵を産むといわれ,処女懐胎の寓意として聖母マリアの持物にもなった。ギリシア神話では,ペルセフォネを探し歩くデメテルが渇きをいやすためにブドウ酒を勢いよく飲んだ際,これを嘲笑(ちようしよう)した男アバスAbasをトカゲに変えたという。この話から,目上の者を敬わぬ悪徳を体現した動物とみなされている。なお,伝説上の動物サラマンドラはトカゲの姿や特性を有する。
執筆者:荒俣 宏
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報