シャクヤク(読み)しゃくやく

日本大百科全書(ニッポニカ) 「シャクヤク」の意味・わかりやすい解説

シャクヤク
しゃくやく / 芍薬
[学] Paeonia

ボタン科(APG分類:ボタン科)の多年草。日本には、古く中国から薬用として渡来した。その後園芸化され、江戸時代には熊本地方で発達したヒゴシャクヤクなど多くの改良種が作出され、花壇・切り花用として観賞されるようになった。これら日本で改良された品種をニホンシャクヤクとよぶが、原種はシベリア、中国、モンゴルなどに分布するPaeonia lactiflora Pall. (P. albiflora Pall.)である。ヨーロッパには中国から導入され、フランス、イギリスなどで品種改良が行われたが、これらはヨウシュシャクヤクとよばれる。このほかヨーロッパにはオランダシャクヤクP. officinalis L.と称する原種があり、これの改良種で、草丈の低い早生(わせ)の種類もある。これらの原種をもとに、最近はボタンなども含め、幅広い種間交雑がなされ、多数の園芸種が作出されている。ほかに原種のヤマシャクヤクホソバシャクヤク(イトバシャクヤク)などが趣味的に栽培されている。

 根は太い塊根状、葉は2、3回複葉で小葉は卵形、全縁で先端がとがる。茎は直立し、草丈0.6~1メートルとなり、分岐して2~5花をつける。花はボタンに続き5月上旬から下旬に開く。花色は白、桃、赤、黄色などがある。洋種はおもに八重咲きで、芳香のあるものが多い。日本種には花芯がいろいろと変化した独特なものがあり、一重咲き、八重咲き、金しべ咲き、おきな咲き、冠咲き、手まり咲き、バラ咲きなどの花形がある。葉は花期後充実し、夏から秋まで残り、養分を根に蓄えて枯れるが、この間に来年の花芽が分化する。分化した花芽や葉芽は秋から春にかけて充実し、4月上旬ころから伸び始める。

[神田敬二 2020年5月19日]

栽培

寒さに強く、暖地よりは東京以北の地方でよく育つ。おもに株分けで殖やす。株分け、移植は新根が発生する9月下旬から10月中旬に行う。春の移植は新根の発生が少なく、株の回復が悪いので好ましくない。移植時は、太いごぼう根の先を折ったり切ったりしないよう注意する。掘り上げたあと2~3日、日陰干しにし、1株に2~3芽つくように株を分ける。植え場所は日当りと排水のよい、肥沃(ひよく)な場所にする。植え付けにあたっては、堆肥(たいひ)、油かす、化成肥料などを元肥として十分に施し、覆土は芽の上4~5センチメートルにする。鉢植えの場合は20センチメートル以上の大鉢を使う。

 シャクヤクは肥料を十分に与えないと花芽を形成しにくいので、芽出し時期と花期後に化成肥料などを施す。また、同じ場所で長年育てるので、油かすなどの遅効性の肥料を毎年寒肥として補充する。

[神田敬二 2020年5月19日]

薬用

漢方では根を水洗いしたあとに乾燥したもの、また湯通ししたあとに乾燥したものを芍薬(しゃくやく)または白芍(びゃくしゃく)と称し、鎮痛、鎮けい、補血、止血剤として、腹痛、下痢、てんかん、産前産後の諸病、小児のけいれん体質などの治療に用いる。薬用に供するときはつぼみを全部小さいときに摘み取る。重要な薬剤であるために中国では全国的に栽培されているが、浙江(せっこう)省と安徽(あんき)省でとくに多く産出し、品質もよいとされている。ベニバナヤマシャクヤクP. obovata Maxim.など野生の数種の根を赤芍(しゃくしゃく)と称するが、これには補血作用がないとされ、芍薬とは区別されている。ヨーロッパではオランダシャクヤクの根を芍薬と同じように薬に用いている。

[長沢元夫 2020年5月19日]

文化史

シャクヤクの名は漢名の芍薬(しゃくやく)に基づくが、それははっきり目だつ(勺)薬草の意味であり、薬効に由来する。『神農本草経(しんのうほんぞうきょう)』(500ころ)には鎮痛などの効用が載り、日本にも薬としてもたらされたことが、『倭名類聚抄(わみょうるいじゅしょう)』(931~938ころ)に衣比須久須理(えひすくすり)の名で薬草に扱われていることから知れる。日本で芍薬の名は『出雲国風土記(いずものくにふどき)』(733)に初見され、これは秋鹿(あいか)郡の項に山や山野の草の一つとして名があがり、自生のヤマシャクヤクと推定される。江戸時代の初期には品種が分化し、『花壇綱目』(1664年成立)には、花が白、薄白、赤、薄赤のほか、いろいろありと書かれている。元禄(げんろく)(1688~1704)のころには一挙に品種が増え、『花壇地錦抄(ちきんしょう)』(1695)は「芍薬花形指南(しなん)」と題し、花器官の名称を図示したうえ、56品種の解説とさらに、60の品種名をあげる。『増補地錦抄』(1710)には47品種が追加され、そのころ急速に改良が進み、江戸時代の代表的な花卉(かき)の一つになった。

[湯浅浩史 2020年5月19日]


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改訂新版 世界大百科事典 「シャクヤク」の意味・わかりやすい解説

シャクヤク (芍薬)
Chinese peony
Paeonia lactiflora Pall.

中国北部の原産で,平安朝のころ中国より渡来し,薬用または切花用として畑で栽培し,また観賞用に庭園で栽培されるボタン科の多年草。高さおよそ60cmくらい。葉は1~2回3出複葉で小葉はしばしば深裂し,鋸歯はなく,無毛で光沢があり,小葉身の基部は小葉柄にそって伸び下がる。花は初夏のころ,枝の先端について上向きに開き,栽培品ではふつう直径10cmくらい。萼片は5枚,宿存し,外側のものはしばしば葉状になる。花弁は一重のものでは8~13枚,色の変化が多いが,野生品は白色ないし淡紅色。おしべはきわめて多数。めしべは3~5本で,無毛。東シベリアより中国北部に分布する。めしべに毛のあるものをvar.trichocarpa(Bunge)Sternという。

 シャクヤクの根は生薬とされる。配糖体ペオニフロリンpaeoniflorin,タンニンなどを含む。漢方では白芍(びやくしやく)と赤芍(せきしやく)を区別して用いるが,基原植物は同一である。赤芍は本種のほかに数種の近縁種がある。白芍は滋養補血,鎮痙(ちんけい)・鎮痛効果があり,他の生薬と配合して月経調節,胃けいれんの疼痛,慢性胃炎,肝臓疾患,リウマチ性関節炎などに,赤芍は浄血解毒の効があり,他の生薬と配合して婦人科疾患,打撲傷などの内出血,神経痛などに用いられる。

 ヤマシャクヤクP.japonica Miyabe et Takedaは日本・朝鮮・中国に自生し,花は直径4~5cm,白色,花弁は5~7枚。小葉の基部は葉柄にそって伸びない。ベニバナヤマシャクヤクP.obovata Maxim.は花は淡紅色。

シャクヤクは薬用に昔から使われていたが,また,その豪華な花を観賞するために広く栽培されてきた。シャクヤクの原種の花は一重咲きであるが,おしべが花弁に変わり,八重咲きになりやすいので,園芸化されるに伴って,ひじょうに変化に富んだ花形の品種が多数できている。例えばおしべがやや花弁状に変わった金蕊(きんしべ)咲きや翁咲きから,完全に花弁に変わった冠咲きや手毬(てまり)咲きなど,また内側の花弁数が増加した半バラ咲き,バラ咲きなど八重化の進んだ花形まである。

 西洋では,南ヨーロッパから西アジアにかけて分布するオランダシャクヤクP.officinalis L.(英名common peony)や,ヨーロッパからカフカスに分布するホソバシャクヤクP.tenuifolia L.(英名fringed peony)などから園芸化された品種が昔から栽培されていたが,それよりも草丈も高く,花も豪華な前記のシャクヤクが,19世紀初頭に導入されて以来,それが園芸品種の主流をなすようになった。

 シャクヤクは寒さには強いが,暑さにはやや弱いので,暖地では作りにくい。根株は9~10月に,日当りと排水のよいやや重粘な土に,元肥を多く入れて植え付ける。茎が伸びてつぼみがつき始めたら先端の一つだけを残し,側蕾(そくらい)は摘除する。また花が終わったら早めに花首のところから切り捨てる。〈立てばシャクヤク,座ればボタン〉と美人の形容に使われるのは,横枝のでるボタンに対し,茎がすらりと伸びるシャクヤクの草姿を示したものである。
執筆者:

西洋では古代ギリシアから中世にかけて,シャクヤクは最大の効能をもつ薬草として尊ばれた。その英名peonyと属名Paeoniaは,ギリシア神話の医神パイオンPaiōnに由来する。パイオンは後にアスクレピオスとも混同され,この医神がシャクヤクの根を用いてハデス(プルトン)など多くの神々の傷をいやしたとする伝承を生みださせた。この貴重な薬草を採取するには,マンドラゴラと同じように,深夜イヌに紐を結んで引き抜かせる方法がとられた。またディオスコリデスの《薬物誌》に,〈盛夏の日の出前に抜き取ったシャクヤクを,体のまわりにつるせば,毒物,魔法,恐怖,悪魔,またのろいを防ぎ,夜あるいは昼に起こる震えを伴う熱なども防ぐ〉とある。イギリスの伝説では,過ちを犯した妖精が不面目を恥じてシャクヤクの陰に隠れたため,花が赤く染まったとされ,花言葉の〈恥じらい〉もそれにちなむという。
執筆者:


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普及版 字通 「シャクヤク」の読み・字形・画数・意味

薬】しやくやく

しゃくやく。〔詩、風、湊〕維(こ)れ士と女と 伊(こ)れ其れ相ひ謔(たはむ)れ 之れにるにを以てす

字通「」の項目を見る


【爍】しやくやく

きらきらとかがやく。梁・江淹〔金灯草の賦〕長洲に杜(とじやく)を軼(す)ぎ、幽離を跨(こ)ゆ。霞光に映じて爍、風氣を懷いて參差(しんし)たり。

字通「爍」の項目を見る


】しやくやく

光り輝く。

字通「」の項目を見る


約】しやくやく

しなやか。

字通「」の項目を見る

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百科事典マイペディア 「シャクヤク」の意味・わかりやすい解説

シャクヤク

中国北部〜シベリア東部に原産するボタン科の多年草。日本には平安時代に渡来し,薬用,観賞用に植栽される。根は紡錘形の多肉質で,茎は高さ60〜90cm,葉は2回3出複葉。5〜6月,枝先に径12cm余りの花を2〜5個開く。園芸品種が非常に多く,中国では庭園用の花として古くからボタンとともに愛されて,宋代には3万余種があったといわれる。花型は一重咲のほかに,品種により八重咲,金蕊(きんしべ)咲,翁(おきな)咲,冠(かんむり)咲,手毬(てまり)咲,ばら咲等があり,花色にも純白〜濃紅の変化がある。中国からヨーロッパに伝わって改良された洋種シャクヤクと呼ばれる品種群は高性で,花は大輪で花弁の多い八重咲であり,日本ではおもに切花用として作られている。秋に株分けでふやす。薬用の芍薬(しゃくやく)は根を乾燥したもので,煎(せん)剤として鎮痙(ちんけい),鎮痛に用いられる。日本にはヤマシャクヤクが自生する。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「シャクヤク」の意味・わかりやすい解説

シャクヤク(芍薬)
シャクヤク
Paeonia albiflora; peony

ボタン科の多年草。シベリアから中国北部,朝鮮半島北部などの草原が原産といわれ,古くから日本に渡来して観賞用に各地で栽培されている。地下に根茎があり肥厚した根から毎年新しく緑色の茎を伸ばして,高さ 1mにする。葉は互生し,下部のものは2回3出複葉,上部のものは3出複葉または単葉で,緑色,表裏とも毛はなくて光沢がある。初夏に,枝先に大型の美花をつける。萼片5枚,花弁は 10枚内外,おしべ多数,めしべは3~5本ほどある。園芸品種は非常に多く,おしべが弁化した八重咲きのものが普通である。花色は紅,白その他品種により多種多様である。根を干したものは鎮痛剤として用いられる。

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デジタル大辞泉プラス 「シャクヤク」の解説

シャクヤク

ボタン科の多年草。根は解熱鎮痛作用があり生薬として使用される。表記は「芍薬」とも。

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