改訂新版 世界大百科事典 「ディオスコリデス」の意味・わかりやすい解説
ディオスコリデス
Dioskoridēs
ローマ時代の医者,古代における薬物学の大成者。生没年は不詳だが,後50-70年がその活躍期。ディオスクリデスDioskouridēsともいう。小アジアのキリキア地方アナザルボスの出身。ネロ皇帝治下のローマ帝国内で軍医として勤務,広く旅して薬物を実地研究し,《薬物誌》5巻を著した。薬物に対する合理的で鋭い鑑識眼をそなえ,当時形式化されかけていた分類法を再構築し,植物・動物・鉱物万般を収れん・利尿・下剤など,薬理・機能上から分類した。内容は以下のとおり。第1巻:香料・香油・軟膏・樹脂・樹皮・果物を産する草木。第2巻:動物類とその乳・蜜・脂肪等の産物,また穀物と野菜。第3巻と第4巻:根,液汁を用いるいわゆる薬草・種子類。第5巻:酒精,鉱物。彼は,植物600種あまりを含む827(~約1000)項目の薬物を分類し,本書は中世・近代ヨーロッパ,アラビア世界において千数百年もの間古典として尊ばれた。現存写本では,512年ころ編纂された400近い植物彩色画を含む491枚の貴重な羊皮紙本(〈ウィーン写本〉)が特に有名。
執筆者:大槻 真一郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報