フランスの詩人。南米ウルグアイの首都モンテビデオに生まれる。両親は南フランスのピレネー地方の出身で、彼が生まれてまもなく急死したため孤児となり、ウルグアイで牧場や銀行を営む裕福な伯父の手で育てられ、パリ大学文学部卒業後、ゆとりのある文筆生活を送った。処女詩集は『過去の霧』(1900)だが、詩人として注目を浴びるのは第一次世界大戦後のことで、詩集『桟橋(さんばし)』(1922)、『万有引力』(1925)、『無実の囚人』(1930)、『未知の友だち』(1934)など、代表作を相次いで世に送った。
シュペルビエルはどの流派にも分類しがたい、独自の幻想的な詩風にたつ詩人とされており、シュルレアリスムに近い要素をもちながら形而上(けいじじょう)的な要素をも秘め、とくに1930年代後半から40年代にかけては巨匠としての尊敬を受けた。ウルグアイで広大な自然のなかに育った経験が、宇宙的な感覚をもつ初期の自由詩に野性的な鼓動を伝えているが、のちしだいに人間存在の根源を見つめて、独特の存在論的主題を結晶させるに至った。詩集『世界の寓話(ぐうわ)』(1938)、『夜に捧(ささ)ぐ』(1947)、『忘れがちの記憶』(1949)、『誕生』(1951)などがそれである。ほかに『大草原の男』(1923)、『人さらい』(1926)、『日曜日の青年』(1955)などの長編小説、傑作短編集『海原(うなばら)の娘』(1930)、『ノアの方舟(はこぶね)』(1938)、戯曲『ねむり姫』(1932)などがある。
[安藤元雄]
『堀口大学訳『シュペルヴィエル詩集』(新潮文庫)』▽『安藤元雄訳『シュペルヴィエル詩集』(1982・思潮社)』▽『嶋岡晨訳『日曜日の青年』(1973・思潮社)』▽『堀口大学訳『ノアの方舟』(1977・青銅社)』
フランスの詩人。裕福な移民の子として南米ウルグアイの首都モンテビデオで生まれたが,生後まもなく孤児となり,親族に育てられてパリ大学を卒業。この境遇と,南米の広大な草原や大西洋横断の体験,心臓の持病などから,独自の空間感覚と存在論的な孤独感を身につけ,これを素朴で新鮮な語法によって,幻想的な詩に定着させた。代表的な詩集には《万有引力》(1922),《無実の囚人》(1930),《未知の友だち》(1934),《世界の寓話》(1938),《忘れがちの記憶》(1949)などがある。どの文学運動にも属さない孤立した立場にいたが,生者と死者,人間の意識と動植物,地上の世界と果てしない宇宙空間が自在に交流し合う彼の作品は,存在の悲劇性をおだやかに語るものとして多くの読者をもち,両次大戦間の時期から第2次大戦後へかけての最も重要な詩人の一人に数えられた。
詩集のほかに,《大草原の男》(1923),《人さらい》(1926)などの長編小説,《海原の娘》(1930),《ノアの方舟》(1938)などの短編集,《ねむり姫》(1932)などの戯曲も知られる。日本でもひろく読まれ,とりわけ第2次大戦後に登場した詩人たちに大きな影響が見られる。
執筆者:安藤 元雄
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