R-N⁺≡NX⁻(X⁻は1価の陰イオン)の構造をもつ化合物をいう。Rが脂肪族の基の場合は安定に存在せず,したがって通常芳香族ジアゾ化合物ArN2⁺X⁻をさす(Arはアリール基)。グリースJ.P.Griessにより1858年に発見された。最も普通の合成法は,アニリン類の塩酸塩に塩酸存在下,0~5℃で亜硝酸ナトリウム水溶液を反応させる方法である。
その他の方法として,非常に塩基性の弱いアニリン類の場合には,濃硫酸あるいは濃硫酸と氷酢酸の混合物中で亜硝酸を作用させたり,またジアゾニウム塩の結晶が得たい場合には,アニリン塩を氷酢酸に懸濁させ,冷却下で亜硝酸イソアミルを滴下し,生成した塩をエーテルを加えて沈殿させる方法がある。イオン構造をもつことから予想されるように,水に溶けやすく,エチルアルコール,エーテルなどの有機溶媒には溶けない。塩は,固体では無色のものからかなり着色したものまであるが,溶液は無色である。固体の塩を単離することもできるが,一般に光により分解しやすく,また加熱,衝撃により爆発する。通常は0~5℃くらいで調製した水溶液をそのまま次の反応に用いる。
ジアゾニウム塩は,窒素を失ってアリール陽イオンAr⁺になりやすいので,多種の芳香族化合物の誘導が可能で,合成化学上重要な化合物である。たとえば,硫酸酸性で水と加熱するとフェノールArOHに,ザントマイヤー反応によりハロゲン化物ArX(X=Cl,Br,I),ニトリルArCN,チオシアナートArSCNなどに,シーマン反応(ArN2⁺BF4⁻の加熱)によりフッ化物ArFに,エチルアルコール,次亜リン酸,亜スズ酸ナトリウムなどによる還元で炭化水素ArHになる。ジアゾニウム塩の水溶液にベンゼン,アニソールなどを混ぜ,これに水酸化ナトリウム水溶液を加えると,アリールカップリングが起こりビフェニルまたはその誘導体が得られる。これはゴンバーグ反応と呼ばれ,ラジカル反応と考えられている。
ジアゾニウム塩の窒素原子が残る反応としては,還元(塩化スズ(I)または亜硫酸ナトリウムを用いる)によるヒドラジン誘導体ArNHNH2の合成や,フェノールやアミン類との反応(ジアゾカップリングと呼ばれる)によるジアゾ化合物の生成があり,とくに後者は染料合成法として重要である。
→ジアゾ化
執筆者:岡崎 廉治
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ジアゾ基=N2をもつ塩ArN2+X-をいう。ここでArはアリール基、X-はCl-、SO4H-、BF4-などの陰イオンである。次の2つの構造式の中間的構造をもつ。
Arが電子吸引基をもち陰イオンがBF4-の特殊な場合を除き、不安定で単離、乾燥が困難なため溶液状態のまま取り扱う。芳香族アミンの塩酸塩、硫酸塩などを水溶液とし亜硝酸ナトリウムを加えるか、アミンを酢酸などの有機溶媒に溶かし亜硝酸イソアミルを作用させて合成する。水に溶けエーテルには溶けないものが多い。反応性に富み、窒素ガスを放出して種々の反応を行う。ジアゾ基は、酸性条件での加水分解によりヒドロキシ基に、銅(Ⅰ)塩を用いることによりハロゲン原子とシアノ基に変えられるので、有機合成化学において有用な化合物である。フェノール、アミンとのジアゾカップリング反応は染料合成上重要な反応である。爆発性があり注意を要する。
[谷利陸平]
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出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
…第一級アミンRNH2を亜硝酸塩(通常,亜硝酸ナトリウムNaNO2を用いる)と反応させて,ジアゾニウム塩RN2+を合成する反応(式(1))。 RNH2+NaNO2+2HX ―→RN2+X-+NaX+2H2O ……(1) (X=Cl,HSO4,NO3,ClO4,BF4,PF6など) 1858年グリースJ.P.Griessによって発見。…
※「ジアゾニウム塩」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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