ジェットエンジンを主動力とした飛行機で,プロペラがなく,エンジンに取り入れた空気を後方へ勢いよく噴き出して,その反動で前進する。プロペラがない飛行機の中には,ロケットエンジンを主動力としたものも少数あり,これらはロケット機と呼ばれジェット機とは区別される。ルーマニアのコアンダHenri Coanda(1885-1972)は,1910年フランスで世界初のジェット機をつくったが,離陸事故で飛行には失敗した。彼のエンジンは今日のようなターボジェットではなく,圧縮機を回すピストンエンジンを内蔵したものだった。その後30年代になって,飛行機が高速で飛びプロペラ先端の回転と前進の合成速度が音速に近づくとプロペラの効率が下がるため,プロペラ機ではマッハ0.6~0.7以上の高速化がむずかしくなり,打開手段としてジェット機の開発がドイツとイギリスで始まった。世界で初めて飛んだジェット機はドイツのハインケルHe178で,第2次世界大戦直前の39年8月だった。ジェット機の実用化もドイツが最初で,44年メッサーシュミットMe262が実戦に加わった。日本では終戦直前の45年8月7日に飛んだ橘花(きつか)が最初のジェット機(当時,日本ではタービンロケット機と呼んだ)である。ジェット機の本格的な実用化は大戦後で,各国のおもな軍用機は50年代前半までにジェット化された。民間機はやや遅れて,初の実用ジェット輸送機のイギリスのデ・ハビランド・コメットが52年定期便に就航,60年代前半までにおもな輸送機はジェット化された。ジェット機はプロペラ機に比べ高速飛行に有利でマッハ3以上のものもつくられている。また50年代末にターボファンエンジンが実用化され,大型機や経済的な輸送機をつくるにも有利となり,機内の騒音や振動もプロペラ機より低いので,現在おもな飛行機の大部分がジェット機となっている。
→ジェットエンジン →飛行機
執筆者:久世 紳二
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
タービンエンジンの一種であるジェットエンジンによって推進力を得る飛行機。おもにターボジェット、およびターボファン・エンジンを装備した飛行機をいう。なお、タービンエンジンでプロペラを駆動して推力を得ている飛行機はターボプロップ機といっている。ジェット機には、以下のような特徴がある。
(1)プロペラを使わず、噴出ガスの反動およびそのエネルギーでファンを駆動して推進力を得るので、プロペラを使用する際に遭遇するような音速の障害がなく、音速またはそれ以上の速度で飛行できる。
(2)ピストンエンジンでは強度と重量のかね合いから、エンジン1台当りの出力に限界がある。そこでエンジンの数を増やして対応しようとすれば機体のほうに強度や取り付け場所などの制限があって性能的にも構造的にも行き詰まりが生じるが、ジェットエンジンは出力のわりに小型軽量であるため、こうした制約がなく超大型機の開発が可能である。
(3)プロペラ機に比べて機内の騒音や振動が少ないので、快適性が優れている。
(4)エンジンの取り付け位置を自由に選ぶことができ、機能を重視した型式をつくることができる。
(5)高い高度を飛ぶほど燃料消費率が小さくなるので、高高度飛行に適した装備と構造が必要とされる。
世界最初のジェット機は1939年に完成したドイツのハインケル178機とされているが、現在では軽飛行機を除く飛行機およびヘリコプターの大部分はジェット機(タービン機)である。
[落合一夫]
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
…super‐sonic transport(超音速輸送機)の略で,運航を主として音速より速い速度(ふつうは音速の2~3倍のM2~3)で行う輸送用の航空機。
[出現の背景]
ジェット機は空気抵抗を小さく(揚抗比を大きく)保ちながら高速で飛ぶほど距離当りの燃料消費が少なくてすむ。しかし速度が音速(成層圏では約1060km/h)に近づくと抵抗が急に増すため,ふつうのジェット輸送機はその手前の亜音速のM0.8あたりを経済的な巡航速度とし,これは1950年代の初期のジェット輸送機も現在もほぼ変わらない。…
…この見地から,プロペラ機には最大速度の限界があるはずで,大戦末期の戦闘機はその限界に近づいてきたのである。 この障害を突破して,より高速を求めるならば,ジェット機によるよりほかはない。その動力となるジェットエンジンについては,すでにイギリスのW.ホイットルの1930年の特許があるが,ドイツやイギリスのいくつかの会社が自社の企画としてジェットエンジンの開発に着手したのは30年代の後半であった。…
※「ジェット機」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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