日本大百科全書(ニッポニカ) 「スケトウダラ」の意味・わかりやすい解説
スケトウダラ
すけとうだら / 介党鱈
鯳
Alaska pollack
walleye pollack
whiting
[学] Theragra chalcogramma
硬骨魚綱タラ目タラ科に属する海水魚。スケソウダラ、メンタイともよばれる。朝鮮半島東岸および北アメリカのカリフォルニア州南岸以北の北太平洋、それに隣接する日本海、オホーツク海、ベーリング海の大陸棚と大陸棚斜面に分布する。日本では北海道の全海域、青森県から和歌山県までの太平洋沿岸と青森県から山口県の日本海沿岸に分布。体は延長し、やせ形で、口は大きく、下顎(かがく)が上顎よりも突出し、目が大きいのが特徴で、マダラやコマイと区別できる。下顎のひげはきわめて短いか、またはない。背びれは3基、臀(しり)びれは2基で、体は背部が灰褐色、腹方は銀白色で、体側にところどころ中断した約2縦列の暗褐色帯がある。全長60センチメートルに達する。マダラと異なり、海底に密着して生息することなく中底層を回遊する。しかし、遊泳層や適水温は海域によって異なり、朝鮮半島東岸沖では40~60メートル(水温3℃)、オホーツク海北見沿岸では80~100メートル(水温2~3℃)、北海道日本海側で200~300メートル(水温2~3℃)、三陸沖で150~350メートル(水温2~5℃)、ときには400~500メートル層でも漁獲される。普通、成魚は冬から春にかけて産卵場に集まり、夏から秋にかけて索餌(さくじ)のために分散して、回遊を繰り返す。日本近海のスケトウダラは目の大きさ、ひれの長さ、脊椎骨(せきついこつ)数などの差異から、大きく日本海、オホーツク海、太平洋の3群に分けられる。産卵期は日本海では12月~3月(盛期は1月~2月)、オホーツク海では3月~5月、太平洋側では北海道の内浦(うちうら)湾(噴火湾)で11月末~3月、襟裳(えりも)岬から根室(ねむろ)海峡で1月~4月(盛期は2月~3月)で、北方ほど遅れる傾向がある。
産卵場は津軽(つがる)海峡を除く北海道周辺海域にみられるが、おもなものは日本海では北海道岩内(いわない)・檜山(ひやま)沖、太平洋では内浦湾、羅臼(らうす)沖などで、海底の地形が複雑な水深100~400メートル、水温2~5℃のところである。雌雄はそれぞれ別の群れをつくり、上層には雄が、下層には雌が多くなる。さらに後期には産卵後の個体が最上層を形成する。1尾の雌がおよそ1か月にわたって数日おきに多回産卵する。雌は産卵後深みに移動するが、雄は長くそこにとどまる。水槽観察では雄間で威嚇と接触攻撃がなされた後、雌と対になる。雄は体色が変化し、ひれを使って求愛行動をした後、産卵・放精する。受精卵はゆっくりと海面に向かって浮上する。産卵数は体長40センチメートルで25万、50センチメートルで50万、60センチメートルで100万粒くらいである。産卵前の卵巣はオレンジ色で、産卵期では卵巣の中に透明な水子とよばれる卵粒が増え、終了期にはほとんどすべてが水子となる。受精卵は真円状で、直径1.2~1.4ミリメートルの分離浮性卵。淡い黄赤色を帯び、5、6個の微小油球を備える(マダラ卵には油球はない)。水温2℃で約26日、4℃で約20日で孵化(ふか)する。孵化仔魚(しぎょ)は全長3.5~4.3ミリメートルで、沿岸表層にすむ。孵化後11日で後期仔魚期に入ると、表層から姿を消し、全長3~10センチメートルの稚魚はイカナゴ定置網に入るが、6月ごろふたたびとれなくなる。これは成長とともに深みへ、そして沖合いへ移動することを示している。幼魚は、オキアミ類やエビ類などを食べ、成魚は小形甲殻類、魚類、イカ類、オキアミ類などを捕食するが、45~60センチメートルではオキアミ類がもっとも多い。成長は海域により差があるが、満1歳で10~16センチメートル、2歳で20~25センチメートル、3歳で20~38センチメートル、5歳で30~42センチメートル、7歳で36~48センチメートルに達する。成熟は3歳で30~33センチメートルになったころに始まるが、大部分が成熟するのは、5歳で38~43センチメートルになってからである。
スケトウダラの分布がきわめて広いのは、「極海のタラ」の血を受け継いで低水温に耐える力が大きいことと、回遊力が大きいことにある。本種の小脳は円筒状で大きく、基部で屈曲して烏帽子(えぼし)状に延髄にかぶさっている。この型の小脳は瞬発力があまりないが、回遊性に富むことを示唆している。標識放流の結果では、北海道の利尻(りしり)島で放流された個体のうち1尾は樺太(からふと)(サハリン)南部に、またほかの1尾は朝鮮半島東岸沖で再捕されている。前者では277キロメートルを48日間で、後者では1180キロメートルを665日で移動している。また、放流試験の結果、北海道の日本海南岸と朝鮮半島北部東岸の間を移動していることが判明した。漁場は日本近海では北海道沿岸、日本海、東北海域、朝鮮半島東岸に、遠洋ではカムチャツカ半島両岸からベーリング海に及ぶ。沿岸の産卵場および沖合いの索餌場によい漁場が形成される。
日本のスケトウダラ漁業は延縄(はえなわ)や刺網(さしあみ)などの沿岸漁業が中心に行われていたが、1920年(大正9)ころから機船底引網で多く漁獲するようになった。1954年(昭和29)ころから沿岸から沖合いへ、沖合いから遠洋へと漁場が拡大した。1960年に開発された冷凍すり身技術によって需要が拡大し続けた。トロール漁船の大型化や母船化、中層トロール漁法の開発で漁獲量は増え、1972年には300万トンに達した。しかし、1973年のオイル・ショック、1977年の200海里漁業水域設定によって遠洋漁業は急速に縮小し、1983年には143万4000トン、1990年に87万1000トンに、2001年(平成13)からは30万トンを切るまでに減少した。そして2001年~2012年ではおよそ19万~25万トンの間で増減している(農林水産省「漁業・養殖業生産統計」による)。なお、1997年に漁獲可能量制度(TAC:Total Allowable Catch)の対象種に指定され、漁獲量は管理されている。2012年には日本のスケトウダラの総漁獲量は約23万トンで、単一魚種の漁獲量としてはサバ、カツオに次いで多く、およそサンマやカタクチイワシに並んでいる。新鮮なものは鍋物(なべもの)、塩焼き、煮つけにする。また、冷凍すり身、素干し品(丸干し)、塩干物(すき身スケトウダラ)として利用される。卵巣の塩漬けは「たらこ」というが、塩蔵する際にトウガラシを加えたものは「めんたい子」、食紅で着色したものは「紅葉子(もみじこ)」とよばれて珍重される。精巣は「たつ」として鍋・汁物の具にする。肝臓は魚油にされる。
[岡村 收・尼岡邦夫 2016年6月20日]