水生動物を生かしたまま捕獲し、その体の適当な部位に諸種の目印(標識)をつけて元の環境に戻し、その動物がふたたび捕獲(再捕)されたときの情報をもとに、水産資源の調査研究に役だたせようとする方法。標識再捕法ともいうが、この場合は哺乳(ほにゅう)類や鳥類などにも適用される語である。放流時の年月日、体の大きさ、年齢、数量、位置などを記録しておき、再捕された位置、年月日、数量、大きさ、年齢などを比較して、その動物の系群、回遊経路、回遊速度、分布範囲、成長度、生き残りの割合、漁獲および自然死亡の割合、漁獲率などの資源特性値および資源量の推定、あるいは放流効果の判定、放流時期の決定、産卵回数などを推測する目的で実施される。標識放流は古くから行われており、16世紀にはすでにサケに標識を付して放流した記録があるが、これを生物学的研究に利用するようになったのは19世紀に入ってからで、日本では1917年(大正6)に北海道水産試験場が石狩川でサケについて行ったのが最初である。現在ではカツオ・マグロ類、ブリ、カレイ類をはじめ、カニ類、エビ類、イカ類、海獣類、クジラ類など多くの水生生物に応用され、資源研究の推進に貢献している。標識の方法は次のとおりである。(1)体部分標識法 マーキング法markingともいい、動物の体の適当な部分の切断、穿孔(せんこう)、焼付け、剪毛(せんもう)などで標識する。魚類では脂(あぶら)びれ、鰓蓋(さいがい)(鰓(えら)ぶた)、尾びれなどの一部を切断したり、海獣類では剪毛、烙印(らくいん)または水かきを穿孔する。(2)着色法painting ペンキ、エナメルや諸種の色素などで動物の体を着色して標識として用いる。また、魚類の耳石を蛍光色素で染色し、日齢を観察する手法も開発されている。(3)文身(ぶんしん)法tattooing 魚類の白色部に記号などをいれずみする。(4)標識票法 タッギング法taggingともいい、もっとも広く用いられ、金属、セルロイド、ゴム、合成樹脂などでつくった標識具を、動物の行動に支障をきたさないような部分に固着あるいは封入する。
さらに、イソ酵素系の集団による相違を応用した標識法、DNA標識および動物に超音波発振器を付して放流し、船で追跡してその行動を解析する方法も開発されている。標識放流から、偏りのない推定値を得るには、標識を付すことによる死亡や標識の脱落がないこと、標識個体と未標識個体とがよく混合し捕獲されやすさに差がないこと、実験期間中に非標識動物が加入しないこと、再捕個体はすべて報告されること、などの前提条件が必要となる。再捕結果から資源量を推定する方法にはピーターセン法(1回標識)、シュナーベル法やジョリーシバー法(多回標識)、標識率法などがある。
[吉原喜好]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
…この方法では個体群の大きさだけでなく,他の情報,例えば,死亡率,成長,行動(移動・分布・回遊)なども知ることができる。漁業で古くから広く応用されている標識放流(魚体にマークや標識をつけて放流し,漁業によって再捕される状況から資源を推定する)はこの方法を用いた例である。 比推定法の2番目は比率の変化から推定する方法である。…
…彼は降海するサケの稚魚にリボンをつけ,そのリボンをつけたサケが再び回帰したのを捕らえて証明したのである。これは標識放流の始めでもある。この後に行われた多くの標識放流実験により,迷子になって別の河川に回帰する個体も少数あるが,ほとんどは産まれた河川に帰ることがはっきりと証明されている。…
※「標識放流」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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