スモールワールド・ネットワーク(読み)すもーるわーるどねっとわーく(英語表記)Small-World Network

日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

スモールワールド・ネットワーク
すもーるわーるどねっとわーく
Small-World Network

ネットワークの形態の一種。見ず知らずの人と意外なところでつながっているときに「世間は狭いですね!(It's a small-world!)」といって驚嘆することがあるが、そこから由来する。
 ネットワークとは数学的にいえばいくつかの点をいくつかの線でつないだものをいう。たとえば、点を人に、線を知人関係に置き換えると、人と人との間に知人関係のネットワークを規定することができるが、このときの知人関係ネットワークがスモールワールド・ネットワークであるという学説が社会学の分野(とくに社会ネットワーク分析の分野)にある。
 この学説に関して有名なものに、アメリカの社会心理学者ミルグラムStanley Milgramが発案したスモールワールド・メソッドsmall-world methodとよばれる手紙リレー(チェーン・レター)の手法を使った実験に関する三つの論文(「The small-world problem」、「An experimental study of the small world problem」、「Acquaintance links between White and Negro populations」)がある。ミルグラムらの実験において、「スターターstarter」とよばれる手紙リレーの出発点となる人々は、見も知らぬ「ターゲットtarget」とよばれる人をゴールとして、仲介者を途中に含みながら手紙リレーを行うように依頼される。スターターならびに仲介者は、自身よりターゲットに地理的および(あるいは)社会的(たとえば職業など)に近いと思われる知人に手紙を託していく。スターターならびに仲介者には、ターゲットの氏名、職業、就労地、出身大学、大学卒業年、軍役期日、そして妻の旧姓と出身地が明示される。なお、この実験における知人とは、ファースト・ネームで呼び合えるような仲かそれ以上の存在を示すと定義づけられている。実験におけるすべての手紙リレーが完結したわけではないが、完結した手紙リレーにおいてターゲットに到達するのに必要な仲介者数の平均値は、驚くべきことにおよそたったの5人であったという結果を、ミルグラムらは繰り返し得た。これは「六次の隔たり」程度で互いに面識のない二者がつながっていたということを示しており、これにより世間は狭い(スモールワールド)ということが実験により示されたということになる。
 スモールワールド・ネットワークの形態の特徴は、(1)紐帯(ちゅうたい)(ネットワークの線の部分にあたる)の密度が低く、(2)平均経路長(ネットワーク上にとりうる二点間の最短経路の長さ=ステップ数の平均値)は短いが、(3)点と点のつながりが完全にはランダムではないという三つのポイントにまとめることができる。紐帯密度が低く平均経路長が短いネットワークとしては、点と点のつながりが完全にランダムなランダム・ネットワークがその代表格であるが、スモールワールド・ネットワークはランダム・ネットワークであるはずがない。なぜならば、たとえば知人関係ネットワークは、三者閉包バイアス(端的にいうと「友達の友達は友達である」確率が高いこと)や同類志向性などにより、完全にランダムではないある種のパターンをもつと考えられるからである。
 スモールワールド・ネットワークの特徴を具現化した有名なモデルを提唱したのが物理学をバックグラウンドにもつワッツDuncan J. WattsとストロガッツSteven H. Strogatzである(「Collective dynamics of‘small-world' networks」、『Small Worlds』=邦訳は栗原聡・佐藤進也・福田健介訳『スモールワールド』、『Six Degrees』=邦訳は辻竜平・友知政樹訳『スモールワールド・ネットワーク』)。ワッツらは、三者閉包バイアスや同類志向性を考慮に入れた規則的な格子状ネットワークの紐帯を徐々にランダムに掛け替えるというシンプルかつ大胆なモデル(β(ベータ)モデルとよばれる)を導入することにより、上記の(1)(2)(3)を満たすネットワークをコンピュータ・シミュレーションを通してつくりあげることに成功した。このときランダムに掛け替えられる紐帯はネットワーク中のすべての紐帯のごく一部(およそ1%程度)あれば十分であることが知られている。ワッツらのセンセーショナルなモデルの登場以来、ネットワーク研究の分野が注目を集めるようになった。
 知人関係ネットワークがスモールワールド・ネットワークであるという学説には批判も存在する。たとえば、アメリカの心理学者クレインフェルドJudith Smilg Kleinfeldはミルグラムらの実験のサンプル(標本)には重大な偏りがあった(サンプリング・バイアスの問題)ということを指摘している(「The small world problem」、「Six Degrees of Separation」、日本語の解説は友知政樹「世間(世界)は本当に狭いのか?」)。クレインフェルドは社会階層や所得格差、人種差別などの社会的距離の存在により、「世間はむしろ広いのかもしれない」とさえ述べている。
 スモールワールド・ネットワークは知人関係ネットワークだけにみられる特徴ではない。電力線ネットワークや映画俳優共演ネットワーク、線虫の神経細胞ネットワークなどもスモールワールド・ネットワークの特徴を備えていることが知られている。[友知政樹]
『ダンカン・ワッツ著、辻竜平・友知政樹訳『スモールワールド・ネットワーク――世界を知るための新科学的思考法』(2004・阪急コミュニケーションズ) ▽ダンカン・ワッツ著、栗原聡・佐藤進也・福田健介訳『スモールワールド――ネットワークの構造とダイナミクス』(2006・東京電機大学出版局) ▽友知政樹「世間(世界)は本当に狭いのか?――フラクタルβモデル」(『総合政策研究15』pp.59~79・2007・中央大学出版部) ▽S. Milgram The small-world problem(“Psychology Today Vol. 1”, pp.61~67, 1967, Sussex Publishers, New York) ▽J. Travers & S. Milgram An experimental study of the small world problem(“Sociometry Vol. 32”, pp.425~443, 1969, American Sociological Association, New York) ▽C. Korte & S. Milgram Acquaintance links between White and Negro populations ; Application of the small world method(“Journal of Personality and Social Psychology Vol. 15(2)”, pp.101~108, 1970, Journal of Abnormal Psychology, Washington D.C.) ▽Duncan J. Watts & Steven H. Strogatz Collective dynamics of‘small-world' networks(“Nature Vol. 393”, pp.440~442, 1998, Macmillan Publishers, London) ▽Duncan J. Watts Small Worlds ; The Dynamics of Networks between Order and Randomness(1999, Princeton University Press, Princeton, N.J.) ▽J. S. Kleinfeld The small world problem(“Society 39(2)”, pp.61~66, 2002, Springer, New York) ▽J. S. Kleinfeld Six Degrees of Separation ; An Urban Myth?(“Psychology Today Vol. 35(2)”, p.74, 2002, Sussex Publishers, New York) ▽Duncan J. Watts Six Degrees ; The Science of a Connected Age(2003, W. W. Norton & Company, Inc., New York)』

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