改訂新版 世界大百科事典 「セッコウ」の意味・わかりやすい解説
セッコウ(石膏) (せっこう)
gypsum
化学式CaSO4・2H2O。天然に産する硫酸カルシウム二水和物の鉱物名。二水セッコウあるいは結晶セッコウともいう。単斜晶系。薄・厚の板状や,柱状の結晶として産する。双晶も珍しくない。塊状,粒状,繊維状としても産する。へき開は{010}に完全で,{100},{011}にもみられる。モース硬度2,比重2.32。ガラス光沢に近い。無色透明,白,灰,帯黄,帯緑,帯赤,帯褐色などを呈する。紫外線下で緑白色の蛍光またはリン光を発することがある。日本では島根県鰐淵鉱山や福島県与内畑鉱山のように黒鉱鉱床に伴い,凝灰岩,ケツ岩などを交代して産する。大陸においては,堆積鉱床中に岩塩層に伴って産することがある。透明なセッコウは透セッコウといい,宝石として用いられることがある。粒が細かく塊状のものを雪花セッコウ(アラバスター)といい,彫刻用などに用いられる。
天然産のセッコウのほかに化学工業からの副産物として多量に製出するセッコウは化学セッコウとよばれ,リン酸製造工業からのリン酸セッコウ,化学工業の副生ボウ硝とソーダ工業の塩化カルシウムからのボウ硝セッコウ,排煙中の亜硫酸ガス除去工程からの排脱セッコウ(排煙脱硫セッコウ)などがある。日本のセッコウ資源はほとんどこれらの化学セッコウに依存しており,外国とまったく事情を異にする。セッコウを加熱すると,約76℃以上で結晶水の3/4を失い焼セッコウ(半水セッコウ)CaSO4・1/2H2Oとなる。焼セッコウは水で練ると凝結硬化する特性があり,これを利用して建築,陶磁器型材,医療(ギプス)などの種々の用途に用いられる。セッコウは130℃以上では全部脱水して無水セッコウCaSO4になるが,加熱温度によってβ型半水セッコウ(60~150℃),Ⅲβ型(105~240℃),Ⅱ型(230~350℃),Ⅰ型(1150~1200℃)の結晶構造の異なる変態がある。工業的に利用されるのはⅡ型だけである。天然に産する無水セッコウ(Ⅱ型)を特に硬セッコウという。無水セッコウ(Ⅱ型)は塗壁用プラスターや充てん剤として外国で用いられる。セッコウ(二水和物)はポルトランドセメントに混じて,その凝結速度を調節するために用いられ,セメントの製造に不可欠の原料である。また,焼セッコウの原料として重要である。そのほかゴム,紙などの充てん剤,豆腐の凝固剤にも用いられる。セッコウは一般には二水セッコウを指すが,広義には焼セッコウおよび無水セッコウを含めた意味にも用いられる。
執筆者:加藤 敏郎+瀬戸山 克巳
造形素材としての利用
焼石膏の粉末に水分を加えると結晶する性質を利用して石膏像をつくる。塑像の原型から型取りし,鋳造あるいは彫刻の原型として用いる場合と,すでに鋳造された作品のレプリカreplica(写し)を制作するために用いる場合とがある。粘土塑像は,火入れしないかぎり保存が困難であるため,石膏取りをしていわゆる石膏原型をつくる。まず粘土の原型に石膏液をふりかけ,あらかじめ粘土に差しこんだ切り金で適宜の厚さを測り,石膏液が固まった段階で,切り金の線に沿ってはがす。これが外型(もしくは雌型)となる。この外型の内側にセッケン水などを塗り,その上に石膏液を塗って型を合わせ,目塗りしたあと,内部に石膏液を注ぎこむ。固まった段階で外型をはずす。これがブロンズ鋳造用,あるいは〈星取り技法〉による石材などへの転写の原型となる。この技法は,大プリニウスによれば,シキュオンの彫刻家リュシストラトスLysistratos(前4世紀後期活躍。リュシッポスの兄弟で弟子)の創案とされ,彼は直接人間から石膏取りしたと伝えている。完成した彫像からの型取りによってレプリカを制作する手法も彼の創案と伝えられる。人体からの直接の型取りは,近代彫刻でも行われることがあったし,現代の前衛彫刻でも見られる。デスマスクもその例である。彫刻の完成品からの型取りは,ギリシア彫刻の賛美されたローマ時代に盛んに行われ(グレコ・ロマン様式),その後ルネサンス期以降ふたたび盛んになる。古典彫刻の石膏像デッサンは,アカデミーにおける基礎的な学習として16世紀から17世紀にかけて定着し,石膏像の制作,収集がなされた。
執筆者:中山 公男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報