黒鉱鉱床(読み)くろこうこうしょう(その他表記)kuroko deposit

日本大百科全書(ニッポニカ) 「黒鉱鉱床」の意味・わかりやすい解説

黒鉱鉱床
くろこうこうしょう
kuroko deposit

日本の第三紀中新世(約1500万年前)の海底火山活動で生じた層状の多金属硫化物鉱床。北海道や東北地方、山陰地方のほか、伊豆半島から新潟県西部に至る緑色凝灰岩グリーンタフ)地域に産する。

 鉱床は大きくみると層状であり、上部の閃(せん)亜鉛鉱、方鉛鉱、重晶石などからなる細粒緻密(ちみつ)質で黒色を呈する狭義の黒鉱と、その下位の黄銅鉱黄鉄鉱からなる黄鉱、さらに下位の珪(けい)化を受けた火山岩に黄銅鉱、黄鉄鉱が鉱染した珪鉱、最下部にみられる黄銅鉱―黄鉄鉱―石英脈というのが典型的な上下方向の配列である。しかし、実際には黄鉱を主とする鉱床や黒鉱を主とする鉱床などがあり、すべての鉱石タイプがそろっている例は少ない。また、鉱床が形成されたあとで二次的に破壊されて、海底で再堆積(たいせき)した礫岩(れきがん)状の鉱床もあり、これには各種の堆積構造がみられる。

[茂木 睦]

鉱床の成因

成因は、熱水溶液により凝灰岩が交代されて鉱床が形成されたとする交代鉱床説もあったが、現在では深海におけるデイサイト質の海底火山活動に伴う熱水溶液から硫化鉱物が形成されて、海底に沈殿したとする考え方が定着している。かつてはわが国に独特の鉱床と考えられていたが、ヨーロッパやカナダなどで、いろいろな地質時代の地層に含まれる酸性火山岩に伴う鉱床が熱水堆積鉱床と分類されて以来、それらは黒鉱型鉱床kuroko-type depositとよばれ日本語が学術用語となっている。

[茂木 睦]

資源利用

黒鉱鉱床は経済的に重要な鉱床タイプであり、日本の銅、鉛、亜鉛の約半分は黒鉱鉱床から生産された。その大部分は、小坂鉱山花岡鉱山、釈迦内(しゃかない)鉱山など、数百万トンクラスの大鉱床が分布する秋田県北部の諸鉱山から採掘されたが、花岡鉱山の閉山(1994)を最後に国内の黒鉱鉱床はすべて閉山した。日本で鉱山業が健在であった1980年(昭和55)に黒鉱鉱床から産出した金属量と、その国内総生産に対する比は、銅3万4000トン(67%)、鉛3万トン(50%)、亜鉛9万9000トン(37%)、金1400キログラム(37%)、銀150トン(50%)であった。

[茂木 睦]

『大島敬義編『黒鉱鉱床関係文献リスト』(1986・同和鉱業)』『鹿園直健著『地の底のめぐみ――黒鉱の化学』(1988・裳華房)』『石川洋平著『黒鉱――世界に誇る日本的資源をもとめて』(1991・共立出版)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「黒鉱鉱床」の意味・わかりやすい解説

黒鉱鉱床 (くろこうこうしょう)
kuroko deposit

日本の新第三紀中新世中期のグリーンタフなどの酸性火山岩類に伴われるレンズ状~塊状の多金属硫化物鉱床。銅,鉛,亜鉛,金,銀などの多くの有用金属を含み,高品位であるために採算性がよい。ふつう銅1~2%,鉛2~5%,亜鉛5~10%,金1g/t,銀数十g/tを含むほか,重晶石,黄鉄鉱も副産物として回収される。またかつては,セッコウの重要な資源であった。秋田県の小坂,花岡,釈迦内などは典型的な例であり,いずれも日本屈指の大鉱山である。北海道南西部,下北半島,会津地方,山陰地方などにも多くの鉱床が知られている。1980年度の統計では,国内鉱山産の銅64%,鉛60%,亜鉛37%,金43%,銀56%が黒鉱鉱床から産出した。外国にも類似の鉱床が数多くあり,黒鉱型鉱床kuroko-type depositと呼ばれる。カナダ楯状地,アパラチア造山帯,オーストラリアの古生代造山帯には大鉱床を産するほか,フィリピン,トルコ,フィジーなどの中生代末~新生代の造山帯にもいくつかの例が知られている。世界の銅,鉛,亜鉛の資源量のうち,それぞれ10%,6%,22%が,黒鉱ないし黒鉱型鉱床からのものである。

 典型的な黒鉱鉱床では,鉱石は一般に3種にわけられ,珪鉱(黄鉄鉱-黄銅鉱-石英),黄鉱(黄鉄鉱-黄銅鉱),黒鉱(セン亜鉛鉱-方鉛鉱-四面銅鉱-黄銅鉱-重晶石)の順に,鉱体の下部から上部にかけて変化している。成因に関しては,古くから交代説と噴気堆積説の間で論争があったが,現在では海底火山活動に伴う噴気熱水作用による生成物であることが,広く学界に認められている。鉱化溶液は200~300℃の温度で海底に流出し,珪鉱はその流出口付近での鉱化作用を,黄鉱と黒鉱は海底での沈殿堆積物をそれぞれ表していると解釈されている。鉱化溶液は,海水に少量の天水が混じったものであることが明らかにされており,海底を構成している地層中にしみ込んだ海水(と天水)が,酸性火山岩類を噴出したマグマの熱により加熱されて,再び海底に流出したものであると理解されている。しかし重金属の起源については,熱せられた海水により地層中の微量金属を抽出してきたとする説と,マグマから直接供給されたとする説がある。海底の噴気熱水活動による生成物という点では,キプロス型銅鉱床キースラーガーと同様であるが,これらが海嶺や縁海の玄武岩質火山活動に伴うのに対して,黒鉱ないし黒鉱型鉱床は,島弧の酸性火山活動に伴う点が異なる。

 なお,黒鉱鉱床の鉱石は多くの種類の微細な鉱物が複雑に入り混じっているために,その処理が困難であった。かつては風化帯中の金,銀のみが採掘の対象となり,銅鉱として積極的に利用されるようになったのは,1900年の小坂製錬所における自溶法の成功後である。さらに亜鉛の分離が可能になったのは1931年であり,現在のような黒鉱鉱石の完全利用の技術は,1960年代になって初めて完成した。黒鉱鉱床におけるこのような経験が,現在の日本の複雑鉱処理の最先端技術を育てた。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の黒鉱鉱床の言及

【鉱床生成区】より

…中規模の例は,中国の南東部からタイ,ミャンマー,マレー半島にかけてみられるスズ,タングステンの鉱床生成区で,これはある特定の性質をもった花コウ岩質マグマの活動の産物である。日本では東北地方の日本海側から山陰地方にかけて分布する黒鉱鉱床が一つの鉱床区を形成している。これは新第三紀のデイサイト質マグマの海底火山活動が及んだ範囲に相当している。…

※「黒鉱鉱床」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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