塩化カルシウム(読み)えんかかるしうむ(英語表記)calcium chloride

日本大百科全書(ニッポニカ) 「塩化カルシウム」の意味・わかりやすい解説

塩化カルシウム
えんかかるしうむ
calcium chloride

カルシウム塩素の化合物。塩カルとよばれることもある。天然にはハイドロフィライトKCaCl3、タキハイドライトCaMg2Cl6・12H2Oなどの鉱物として産出する。また海水中に約0.15%含まれている。工業的には、アンモニアソーダ法工程における蒸留塔廃液に水酸化カルシウムを加えることによって製造される。ほかに、石灰石炭酸カルシウム)に副生塩酸を作用させる方法も行われる。水溶液からの析出温度が29℃以下であると六水和物が生ずるが、29~45℃では四水和物が、45℃以上では二水和物が得られる。175℃で一水和物に、約300℃で無水物となる。無水物は斜方晶系の結晶、六水和物(17℃での比重1.68、融点29.92℃)は三方晶系の結晶で、構造はまったく異なる。無水物、各水和物とも無色で潮解性があり、水、エタノールエチルアルコール)によく溶ける。無水物はアセトン酢酸などにも溶ける。無水物と二水和物は各種物質の乾燥剤に用いられるが、アンモニアアルコールとは分子化合物をつくるので、これらに対しては不適当である。そのほかに高速道路凍結防止剤、製氷・冷菓製造用鹹水(かんすい)、豆腐凝固剤、土質改良剤、化学工業用原料、金属カルシウムの製造など多くの用途がある。

[鳥居泰男]

医薬用

日本薬局方には塩化カルシウムと塩化カルシウム注射液が収載されている。医療用には2%または3%の水溶液、および電解質補正用に0.5モルの水溶液が使われる。また、リンゲル液組成としても含まれている。骨格歯牙(しが)の強化、発育促進などを目的としてカルシウムの補給に使われるが、注射液は栄養剤としてよりも治療薬として臨床的に使われることが多い。すなわち、カルシウムの作用が血液凝固促進因子として、また筋収縮にも関係することから、低カルシウム血症性テタニーをはじめ、けいれん性素因や出血性素因のほか、じんま疹(しん)、湿疹、薬疹、瘙痒(そうよう)症などの皮膚疾患などに使われる。筋肉注射をすると局所壊死(えし)の危険があるため、静脈注射を行う。

[幸保文治]


塩化カルシウム(データノート)
えんかかるしうむでーたのーと

塩化カルシウム
  CaCl2
 式量  111.0
 融点  772℃
 沸点  >1600℃
 比重  2.15
 結晶系 斜方

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「塩化カルシウム」の意味・わかりやすい解説

塩化カルシウム
えんかカルシウム
calcium chloride

化学式 CaCl2 。アンモニアソーダ法の副産物として2水和物が多量に得られる。このほかに1,2,4,6水和物がある。無水和物は白色の粒状または塊状固体。比重 2.15,水,アルコールに易溶 (水には発熱して溶ける) 。非常に吸湿性が強い。融点 772℃,沸点 1600℃以上。市販品は Ca(OH)2 を不純物として含む。水溶液を濃縮すると,30℃以下では6水和物,30~40℃では4水和物,それ以上では2水和物が得られる。無水和物は乾燥剤,脱水剤として重要である。6水和物と砕いた氷を 1.44:1 の割合で混ぜると-54.9℃に達するので,寒剤として用いられる。カルシウム剤,利尿剤,止血薬などに利用される。

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