改訂新版 世界大百科事典 「セミラミス」の意味・わかりやすい解説
セミラミス
Semiramis
古代オリエントの伝説的な女王。シリアの女神デルケト(あるいはアタルガティス)の娘で,捨子として鳩に育てられた。牧人に発見されて代官オンネスの妻となり,やがて将軍に取りたてられた夫とともにアッシリア王ニノスNinosの東方遠征に従軍した。彼女の活躍によってバクトラが攻略されると,その勇気と美しさに心を奪われたニノスは彼女を求め,絶望したオンネスは自殺した。まもなくニノスも亡くなり,女王として君臨することになったセミラミスは,メソポタミアやイランの各地で都市や道路,地下水道などの巨大な建設事業に従事した。もっとも有名なものはバビロンの都市造営で,その城壁や城門(イシュタル門),空中庭園は古くから彼女の名をもって呼ばれてきた。のちエジプトを征服し,最後にインド遠征をおこなったが,戦いに敗れてバクトラに引き返し,息子のニニュアスに位を譲ったのち,神々の世界に去ったともいい,一説に鳩に変身したともいう。セミラミスの原型は,アッシリア王シャムシアダド5世(在位,前823-前811)の妃で,王の死後長いあいだ幼年の息子アダドニラリ3世の代りに執政をつづけたサンムラマトSammuramatと考えられる。
執筆者:佐藤 進
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報