精選版 日本国語大辞典 「七不思議」の意味・読み・例文・類語
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ある特定の地域において不思議な現象として取り上げられる7種の事柄。一般に地名が冠せられて「何々の七不思議」と称される。広く知れ渡っているものに越後(えちご)(新潟県)の七不思議がある。『北越奇談』によると、「燃ゆる土、燃ゆる水、白兎(はくと)、海鳴り、胴(ほら)鳴り、火井(かせい)、無縫塔」があげられている。このうち燃ゆる土、燃ゆる水、火井は、それぞれ石炭、石油、天然ガスのことであり、海鳴り、胴鳴りとは天気の変わり目に遠くから聞こえてくる海潮音、怪奇な轟音(ごうおん)のことである。白兎は冬季に真白な体毛をもつ越後の兎(うさぎ)のことで、無縫塔とは奇岩の呼称である。これらはいずれも自然現象に関することであるが、科学的な説明の十分ではない当時において、これを怪異な現象とみなし七不思議と名づけて喧伝(けんでん)したものであろう。
信濃(しなの)(長野県)の諏訪(すわ)の七不思議も古くから伝えられているものである。『信濃奇勝録』によれば、「湖水神幸(こすいみわたり)、元旦蛙猟(がんたんのかえるがり)、五穀筒粥(ごこくつつがゆ)、高野鹿(こうやしか)の耳割(みみわれ)、御作田(みさくだ)、葛井清池(くずいのせいち)、宝殿点滴(ほうでんてんてき)」がある。これらは諏訪神社の祭祀(さいし)行事と深く関連するものである。人々の素朴な信仰心が、このような特異な神事に対して七不思議と称し崇(あが)めたのであろう。同様のことは仏教に関してもいえる。幸若舞(こうわかまい)の「敦盛(あつもり)」に天王寺の七不思議ということばが出てくるが、これは同寺の三水(さんすい)・四石(しせき)の七不思議についてのことである。三水とは「荒陵池水、亀井(かめい)、閼伽井(あかい)」をいい、四石とは「転法輪石、影向石(ようごうせき)、礼拝石、引導石」のことである。天王寺は聖徳太子の創建と伝えられているので、あるいは太子の奇跡にかかわったものであろうか。というのは、貴人・高僧にかかわる七不思議はほかにもある。越後に親鸞(しんらん)の七不思議というのがあり、秋田には弘法大師(こうぼうだいし)の七不思議がある。後者は由利(ゆり)郡鳥海(ちょうかい)町百宅(ももやけ)に伝えられるもので、百宅の七不思議とよんでいる。それには「大師の名づけた地名、虱(しらみ)のない猫、虫のつかない稲穂、先のとがらない田螺(つぶ)、水のない川、鳴かない一番鶏(どり)、寝泊まりした洞窟(どうくつ)」がある。これらはすべて弘法大師に関係したものであり、こうした七不思議ができる背景には弘法伝説の伝承があることはいうまでもないことである。人々の信仰心に支えられた神仏の奇特を説く七不思議が一方に存在したのである。
江戸にも民間説話を題材にした七不思議がある。有名な本所(ほんじょ)の七不思議、麻布(あざぶ)の七不思議がそれである。本所の七不思議には、「真夜中にどこからともなく聞こえてくる馬鹿囃子(ばかばやし)、追いかけるとどんどん向こうに行ってしまうという深夜の道の送り提灯(ちょうちん)、一ひらの落葉もないという松浦家の落葉なき椎(しい)の木、太鼓の音がするという火の見櫓(やぐら)の津軽家の太鼓、両国橋近くに生える片葉の芦(あし)、消えたことのない二八のそば屋の消えずの行灯(あんどん)、釣った魚を持ち帰ろうとすると置いてけと声がかかるおいてけ堀」がある。怪談仕立てに構成されてはいるが、妖怪(ようかい)変化の話であり、先行する伝説や世間話を再構成したものである。麻布の七不思議も同じような性質のものであり、そこには「善福寺の逆さ銀杏(いちょう)、六本木、かなめ石、釜(かま)なし横丁、狸穴(まみあな)の古洞、一本松、広尾ヶ原の送り囃子」があげられている。
七の数は聖なる数を示すことばであって、七不思議とは本来、自然界、神仏界における霊的な現象をさす意味があったように思われる。それが時代の流れのなかで信仰心が希薄になるにつれて、怪異な現象、不可解な事柄をもさすようになってきたと考えられる。
[野村純一]
古典古代の伝承で世界の七不思議といわれるのは、アレクサンドロス大王の東方遠征(前330ころ)以後ギリシア人旅行者にとって観光の対象となった著名な七つの建造物で、ビザンティウムのフィロン(前2世紀前半)に帰せられている著作『世界の七つの景観』De Septem Orbis Spectaculisなどに述べられている。(1)エジプトのカイロ郊外ギゼーの台地にあるクフ(ケオプス王)の大ピラミッド 紀元前2550年ごろ建てられ、七不思議のうち最大のものであり、現存する唯一のもの。(2)バビロンのセミラミスの庭園 「空中庭園」「釣り庭」ともいう。新バビロニア王朝ネブカドネザル2世(前600ころ)のとき築かれた庭園で、伝説では山国出身の王妃を楽しませるために壇状につくられ、上から水を流したという。(3)オリンピアのゼウス像 ギリシア本土オリンピアの神殿内に置かれていたゼウスの巨像で、彫像の名人フェイディアスの作と伝えられる。(4)エフェソスのアルテミス神殿 小アジアの町エフェソスに建てられていた壮麗な神殿で、大地母神を祖とする女神アルテミスが祀(まつ)られていた。(5)ハリカルナッソスのマウソロス陵墓 前350年ごろ、小アジアのペルシア人総督マウソロスの死に際し、王妃アルテミシアが建てさせた壮大な陵墓。(6)ロードスのコロッソス(大巨像) 前3世紀ごろ小アジア近くの小島ロードスに建てられた青銅製の巨像で、太陽神ヘリオスを表していた。(7)アレクサンドリアのファロス(灯台) プトレマイオス2世フィラデルフォス(前250ころ)によりアレクサンドリア港の入口近くの小島ファロスに建てられた灯台で、高くそびえる石造建造物の頂部で火を燃やす仕掛けがあり、レンズか鏡が使われたともいう。
なお、世界七不思議については諸説あり、中世以後のものでは、ローマの円形劇場、中国の万里の長城、イギリスのストーンヘンジ(巨石記念物)、イタリアのピサの斜塔、イスタンブールのアヤ・ソフィア寺院などを数えることもある。自然現象に関するものでは、チベットの氷の滝、アルジェリアの砂の海、死海の秘密、アラガラ山上の怪光、ハワイの火の湖(溶岩湖)、ノルウェーの夜の太陽、北アメリカの化石木の山があげられることもある。
[矢島文夫]
『レナード・コットレル著、矢島文夫訳『古代の不思議』(1962・紀伊國屋書店)』▽『関敬吾編『秘められた世界』(1969・毎日新聞社)』
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…またスエズ運河と地中海の接点であるポート・サイドと並ぶ大貿易港として注目されている。港は東港と西港に分かれており,その中間には古代の七不思議として有名なファロスの灯台跡やラース・アッティーン宮殿のある半島が地中海に突き出すような形をしている。東港は漁船や内航船が使用しており,地中海諸国を結んだり,遠くアメリカやアジアと結ぶ外国船は税関や出入国事務所のある西港を利用している。…
…これは6が完全数であることに由来するともいわれる。 7は奇跡,秘宝などを意味し,世界の七不思議,七色の虹など神秘的な数とされている。3と4を足した一種の完全性を意味することもあり,7層の天,1週の7日などものごとの基本単位を表している。…
※「七不思議」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社世界大百科事典 第2版について | 情報
[1864~1915]ドイツの精神医学者。クレペリンのもとで研究に従事。1906年、記憶障害に始まって認知機能が急速に低下し、発症から約10年で死亡に至った50代女性患者の症例を報告。クレペリンによっ...
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