セラミック顔料(読み)せらみっくがんりょう(英語表記)ceramic pigment

日本大百科全書(ニッポニカ) 「セラミック顔料」の意味・わかりやすい解説

セラミック顔料
せらみっくがんりょう
ceramic pigment

陶磁器の分野において、うわぐすり(釉(ゆう))の着色という目的で、陶磁器の技術と経験とにより発見・開発された顔料総称であり、一般の無機顔料とは無関係に育ってきた。陶磁器顔料ともいう。

 セラミック顔料は無機顔料に包括されるが、塗料、インキ絵の具、プラスチックに使用される一般の無機顔料とはまったく別の一群を形成している。その高い耐熱性と、釉に対する安定性をもつという点で、一般の無機顔料とは著しく異なる。

大塚 淳]

新しいセラミック顔料

新しいセラミック顔料は、釉の着色という技術から生み出されたものではなく、酸化物、複合酸化物、ケイ酸塩などの高温で安定な無色の化合物を、遷移元素のイオンなどの固溶により発色させるという方法で開発された。さらに、誕生したときから、これらの新しいセラミック顔料は、結晶化学の対象として、母格子とそれに固溶する遷移元素イオンという形で把握され、検討されてきた点で、ナポリ黄などの陶磁器固有のセラミック顔料と生い立ちを異にしている。しかし、陶磁器固有のセラミック顔料も、配合は複雑でも、実は単一の鉱物からできていることが、X線分析で明らかにされた。

 さらに最近、ジルコニア酸化ジルコニウム)ZrO2、二酸化ケイ素SiO2と、鉱化剤とからジルコンZrSiO4をつくる際、炭酸カドミウムCdCO3、硫化ナトリウムNa2S、セレンSeを配合し、ジルコンで硫化カドミウムCdSや硫セレン化カドミウムCd(SSe)をコーティングしたセラミック顔料が開発された。この顔料は、硫化カドミウム、硫セレン化カドミウムの耐熱性、釉に対する安定性をジルコンで強化し、これらをセラミック顔料として高温で色釉などに使用することをねらったもので、とくに硫セレン化カドミウムをコーティングしたものは、セラミック顔料中、赤の部分をカバーするものが現在ない点から、この部分を埋めるべく開発されたものである。

 新しく開発されたセラミック顔料は、黒を除く各色の部分で重要な位置を占めている。陶磁器固有のセラミック顔料であるナポリ黄、ビクトリアグリーンクロムスズピンクの場合、いずれも使用する釉の組成に厳しい制限がある。ナポリ黄は、鉛の多い低火度釉のみに使用。ビクトリアグリーン、クロムスズピンクは酸化マグネシウムMgO、酸化亜鉛ZnOを含む釉にはあわない。これに対し、新しいセラミック顔料は、個々につき、ある程度条件はあるが、種々のタイプの釉に使用でき、相互にはもちろん、他の系のセラミック顔料とも混合でき、その結果、希望の色調を出しうる点が大きな相違点である。

[大塚 淳]

セラミック顔料で出せる色調

黒ではスピネル系固溶体がその位置を独占している。黒の顔料は亜鉛釉に加えると発色が鈍くなる。このため、黒の顔料で成分として酸化亜鉛を含むものはない。

 灰色では酸化スズ系とジルコン系で占められているが、酸化スズが高価なため、Zr‐Si‐Co‐Ni系のものが主流となっている。コバルトニッケルの量により色調を調節する。

 黄の部分は、新しいセラミック顔料の出現でもっとも大きく変貌(へんぼう)した。それまではナポリ黄しかなく、鉛の多い低火度釉にしか使用できなかったが、プラセオジム黄、パナジウムジルコニウム黄、クロムチタン黄の出現で、高温で石灰亜鉛釉、石灰釉などに使用できるようになり、さらに他のセラミック顔料との混色で、種々の中間色が出せるようになった。Zr‐Y‐V系のものはジルコニアに酸化イットリウムY2O3を少量固溶させ、ジルコニアを単斜晶のまま、さらにバナジウムを固溶させ、淡いオレンジ色を出させる。Ti‐Cr‐Sb、Ti‐Cr‐W系はルチル型二酸化チタンを母格子とし、これにやはりルチル型のCrSbO4、三重ルチル型のCr2WO6が固溶したもので、タイルの素地に直接混ぜ(練り込み)、いわゆるボディーステインとして使用する。ナポリ黄は現在ではごく少量しか使用されていない。Zr‐Si‐Cd‐Sはジルコンで硫化カドミウムをコーティングしたもので、従来の種々の固溶現象を利用して調製されたセラミック顔料と異なり、まったく新しい発想で開発されたものである。その目的は、一般の無機顔料でみられる硫化カドミウムの黄の色調を、釉の着色で得ようという点にある。しかし、この色調は、プラセオジム黄とサーモンピンクとの混色で十分カバーできる。

 茶では、黒の場合と同様、スピネル系顔料が主要な位置を占めている。いずれも石灰亜鉛釉で鮮明な呈色をする。この部のスピネルがいずれも酸化亜鉛を含んでいるのは、このことと関連している。さらにZr‐Si‐PrとZr‐Si‐Feによる混色で、茶、橙(だいだい)の色調をカバーしている。

 緑も黄と同様、新しい顔料の出現で様相は一変した。それまでは黄緑のビクトリアグリーンと、反対に青に寄ったピーコックとがおもなもので、いずれも石灰釉で鮮明な呈色をする。したがって中間の緑そのものの色調は適当なものがなく、色の種類の乏しい部分であった。しかしプラセオジム黄などの黄とトルコ青との混色により、青緑から黄緑まで非常に広い範囲で緑の色調をカバーできるようになった。しかもこの緑は種々のタイプの釉に使用できる。Zr‐Si‐Pr‐V系の緑は、7種のうちの一つのような感を受けるが、そのカバーする範囲は非常に広い。Al‐Cr系およびCrはクロムグリーンで、ともに素地用に使われる。Co‐Crは青みの強い緑で高価である。

 青のCo‐Zn‐Al系スピネルは海碧(かいへき)あるいはマットブルーで、これは一般の無機顔料ではコバルトブルーとよばれている。これとは別に酸化亜鉛を含まない紺青がある。これは酸化コバルトにカオリンあるいはろう石を配合し、焼成して得られる。種々の釉で紫み青の呈色をする。海碧でスピネルが分解しない場合、赤みのない青の呈色となる。このほかCo‐Zn‐Si系の青があり、いずれも4配位Co2+の吸収を示す。紺青の色は酸化コバルトを釉に加えても得られるが、この場合、酸化コバルト中に混在する四酸化三コバルトCo3O4のため、色調が暗くなり、かつ発泡の原因となる。海碧、紺青はコバルトを2価の状態に保っておくという点にも意義のある顔料で、その点からするとCo‐Siも青の顔料である。この組成は2CoO・SiO2で、フォルステライトと同じ構造をもち、Co2+は6配位となり、粉末ではピンク色を示すが、釉では分解し、紫み青を示す。トルコ青は各種の釉に安定に使用でき、緑青色の呈色をする。

 ピンクではマンガンピンク(陶試紅)、スピネルピンク、クロムスズピンク、これにさらにコバルトの固溶したクロムスズライラック、ライラック、サーモンピンクがある。ファイアーレッドは、従来のセラミック顔料では赤の部分をカバーするものがなく、これを補うべく開発されたものである。すなわち、一般の無機顔料で代表的な赤であるカドミウムレッドをジルコンでコーティングしたものである。陶磁器をはじめ、広くセラミックスの分野での応用を目的としている。

[大塚 淳]

セラミック顔料の現状と将来

新しいセラミック顔料の登場により、広い範囲での混色が可能となり、その結果、タイルなどの色調はきわめて豊富なものとなった。しかし、赤橙(せきとう)~赤の顔料には、よいものがなく今後の開発が待たれる。

 セラミック顔料は、耐熱性、耐候性、耐薬品性に優れているため、一般の無機顔料が使用されている分野での利用が積極的に検討されている。しかし、その粉末の状態での色調は一般の無機顔料に比べ全般的に鈍く、また調製の際の焼成温度が高いため、粒が大きくなり、着色力が低くなる。また、これを粉砕し粒をより細かくしようとすると色が薄くなるものがある。これらの点がその利用の拡大を妨げている。一方、黒、茶、青のスピネル系顔料や、二酸化チタンを母格子とする褐色の顔料などでは、焼成温度を低くして粒の成長を抑えることにより、一般の無機顔料の分野での利用が拡大している。

[大塚 淳]

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