日本大百科全書(ニッポニカ) 「うわぐすり」の意味・わかりやすい解説
うわぐすり
glaze
正しくは釉(ゆう)といい、釉薬(ゆうやく)ともいう。陶磁器が液体やガスを吸収しないように、器物を覆ったり線をつけたりするために用いる不透性の、一般にガラス質の材料であり、また各種の装飾を保護するものである。釉はつねに熱の作用で素地の上に生成されるもので、熱を用いない場合にはラッカーまたはワニスという。
[素木洋一]
分類
釉にはいろいろな種類があり、種々の分類法が提案されているが、決定的なものはない。色釉は白色釉に顔料を加えてつくるが、釉の組成のみならず焼成条件によっても異なるので、完全な一覧表をつくることはできない。また、金属にガラス質の釉を焼き付けて被覆したものは、ほうろうといって、陶磁器の釉と区別している。
[素木洋一]
性質
釉は無色、着色、透明、不透明にかかわらず、共通して次の性質をもっている。(1)表地を、液体および気体に対し不透過にする。(2)素地を包み被覆の役目をし、素地の強度を増し美観を与える。(3)素地と表地を一体にする。
熱膨張率が素地の材料とほぼ等しく、その溶融点は素地材料より低いことが必要である。そうでないと、釉を用いたとき、素地に密着したガラス状の膜が生成しないからである。美術品にみられる罅釉(ひびぐすり)は、釉にひび割れの入ったもので、釉の熱膨張率が素地のそれよりも大きいときに発生する。しかし、こうなると施釉素地の強度は、無釉素地の強度よりもはるかに小さくなる。
[素木洋一]
沿革
うわぐすりの発明は中国と西アジアだけで行われた事績であり、他の地域や民族が行った施釉(せゆう)陶磁は、すべてこの2地域から直接間接に技術を受容したのであった。しかもこの2地域は高級な文明の発祥地として知られるとおり、製釉技法もまさしくこの高級文明の土壌のうえに開花したのである。西アジアでは最初にソーダガラスがつくられ、これを素焼の土器に施すことから施釉が始まったが、中国では窯を築いて高火度で土器を焼成している間に、燃料の灰が素地のケイ酸を溶かして自然釉をつくることに着想を得て、灰釉(かいゆう)が人為的に案出されるという経過の相違がある。今日では、焼物はケイ酸工業に属することからも知られるとおり、素地や釉中のケイ酸を溶かすために、溶媒材は各種各様の金属が使われるが、そこまで展開させたのもおおむね中国人と西アジア人であったことを忘れてはならない。
[矢部良明]