イギリスの作家L・スターンの紀行文。1768年刊。肺患と闘いつつ執筆を続けた著者が、病を養うためもあって、1762年以来何度かフランスに旅をした間の見聞に材を求めた紀行の形式だが、各地の地理、歴史や自然の風物などにはほとんど触れず、行きずりの美女に心をときめかせたり、路傍のロバの死骸(しがい)に涙を注いだり、もっぱら著者自身の心の動きを叙することに終始している。四巻の予定が、著者死去のため二巻だけで終わり、原題名に掲げたイタリアのことは全然出てこない。惻々(そくそく)と人の心を動かす趣(おもむき)があり、独特の風格のゆえにフランスその他でも愛読された。
[朱牟田夏雄]
『松村達雄訳『センチメンタル・ジャーニー』(岩波文庫)』
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…その間《ヨリック説教集》(1760‐66)を世に出している。また《トリストラム・シャンディ》7巻によって示された大陸旅行記の好評に勢いを得て旅行記《センチメンタル・ジャーニー》(1768)を出版,センチメンタルなる語を流行させた。67年ロンドン滞在中,人妻エリザベス・ドレーパーとの恋の遊びにふけり,その感情の記録を残した。…
…18世紀の啓蒙主義に対抗して現れたルソーの立場はその典型的な例であり,悟性偏重に反抗する19世紀のドイツ・ロマン主義の活動や,実証主義の時代を経て19世紀末から20世紀にかけて現れた〈生の哲学〉に流れる基調もこれに含められる。【細井 雄介】 そもそも〈センチメンタル〉なる英語がひろく用いられるようになるきっかけは,18世紀のイギリスの作家L.スターンの《センチメンタル・ジャーニー》(1768)であった。それまでに流布していた旅行記と異なり,自然の風物や都市の景観には目もくれず,もっぱら人心のあわれ(センチメント)を描くことを主眼にしたこの作品は,18世紀前半を支配した新古典主義(ネオ・クラシシズム)の主知主義からぬけ出る姿勢を示していた。…
※「センチメンタルジャーニー」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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