センブリ(英語表記)Ophelia japonica (Schult.) Griseb.(=Swertia japonica (Schult.) Makino)

改訂新版 世界大百科事典 「センブリ」の意味・わかりやすい解説

センブリ (千振)
Ophelia japonica (Schult.) Griseb.(=Swertia japonica (Schult.) Makino)

日当りのよい草地に生育するリンドウ科の一・二年草で,有名な薬用植物。高さ5~40cm,茎はしばしば分枝する。茎葉は対生で,線形から倒披針形,長さ1~4cm,1脈で無柄。8~11月に,茎および枝に頂生または腋生(えきせい)して,短花柄のある5数性の花をつける。萼は5深裂,花冠は白色か淡黄色で5深裂,裂片は広披針形で紫色の脈があり,基部に,2~3mmの毛状付属物のある2個の蜜(みつ)腺がある。果実は蒴果(さくか)で,種子は球形,平滑。北海道南部から南は屋久島まで広く分布し,さらに朝鮮半島から中国にもある。全草を日本で民間薬とし,当薬(とうやく)という。湯の中で1000回振り出してもまだ苦いのでセンブリ(千振)の和名がある。苦味配糖体スウェルチアマリンswertiamarin,フラボノイドを含み,苦味健胃薬として消化不良,食欲不振などの家庭薬の原料として用いる。センブリのアルコール抽出物は脱毛症に効果がある。

 センブリに似て花冠が青紫色のムラサキセンブリO.pseudochinensisHara)Toyokuniは,やはり苦味健胃薬として使用され,本州~九州,朝鮮半島,中国北部,アムール地方に分布する。イヌセンブリO.diluta(Turcz.)Ledeb.var.tosaensis(Makino)Toyokuniもセンブリに似ているが,薬効がやや劣るため,イヌの名をかぶせ,イヌセンブリという。

 属は違うが近縁植物として,北半球の高山や寒地に広く分布し,日本では南アルプスと八ヶ岳の高山帯にのみ産するヒメセンブリLomatogonium carinthiacum(Wulfen)Reichb.f.,日本では北海道に産するチシマセンブリFrasera tetrapetala(Pall.)Toyokuni,本州北・中部の高山帯に産する本種の小型亜種タカネセンブリssp.micrantha(Takeda)Toyokuniがあり,北海道および本州の高山にはミヤマアケボノソウSwertia perennis L.ssp.cuspidata(Maxim.)Haraが生育する。
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センブリ (千振/泥蜻蛉)
alderfly
orlfly

脈翅目センブリ科Sialidaeに属する昆虫の総称,またはそのうちの1種を指す。この仲間は中型で翅の開張20~40mm,全体に黒褐色ないし黒色を帯びる。極地を除き世界中に広く分布するが,小さな科で40種足らずが記録されているにすぎない。日本では11種が知られる。成虫は昼間水辺付近を飛翔(ひしよう)する。4~7月,山地の池沼や緩い流れの水辺の草むらに発生し,寿命は短く数日であるという。卵は微小で細長い円筒形,水草や水ぎわの岩石などに200~500粒の卵塊で産みつけられる。孵化(ふか)した幼虫は水中に落下し,水底の泥の中や石の下にすんで水生昆虫を捕食し,成熟すると岸辺に上がり,土中に卵形の小室をつくってその中でさなぎになる。1世代の発育日数は詳しくはわかっていないが,1年以上要するようである。センブリSialis sibiricaは本科の中では大型で翅の開張25~35mm。日本では北海道のみに産するが,ヨーロッパからシベリアサハリン千島列島に広く分布。成虫は5月中旬~7月中旬に発生する。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「センブリ」の意味・わかりやすい解説

センブリ(リンドウ科)
せんぶり / 千振
[学] Swertia japonica Makino

リンドウ科(APG分類:リンドウ科)の二年草。日本、朝鮮半島、中国に分布し、日当りのよい草地に生育する。発芽した年は小さな根生葉を車輪状に地面に平行に出すだけであるが、2年目になるとその中央から茎を出して高さ20~30センチメートルとなる。茎は四角形で暗紫色を帯びて分枝する。葉は対生し細長い線形、全縁で先はとがる。9~10月になると茎の先端に多数の花をつける。花冠は深く5裂し、ほとんど離弁花のようにみえる。裂片は披針(ひしん)形、白色で紫色の脈がある。裂片の内側基部には2個の蜜槽(みつそう)があり、その周辺に長い毛がある。毛の先端には数個の隆起がある。萼片(がくへん)は5個で線形。雄しべは5本、雌しべは1本。蒴果(さくか)は細長く、種子は多数。

 植物全体がきわめて苦いため、漢方では全草を乾燥して苦味健胃薬として、食欲不振、消化不良、胸やけの治療に用いる。臨床的には、苦味を口中で感ずることが必要とされる。苦味によって唾液(だえき)、胃液、胆汁の分泌が促進されるためである。漢方で用いられる千振(せんぶり)、当薬(とうやく)という名称は漢名でなく漢字名である。千回振り出してもなお苦いので千振といい、よい薬になるという意味で当薬とよぶが、中国ではこれを薬用に供したという記録はない。

 近似種のムラサキセンブリS. pseudochinensis Haraは花が紫色で、茎、花柄、萼片の縁などに細突起があり、蜜槽周辺の毛の表皮細胞には波状突起があるので区別できる。この種は日本、朝鮮半島、中国、アムール地方に分布し、全体に苦味があるのでセンブリと同様に用いる。中国ではこれを獐牙菜(しょうがさい)といい、清熱、健胃、利尿剤として、消化不良、胃炎、黄疸(おうだん)、肝炎、歯痛、口内炎の治療に用いる。イヌセンブリS. tosaensis Makino(S. diluta (Turcz.) Benth. et Hook.f. var. tosaensis (Makino) Hara)は萼裂片が広披針形で基部が細くなり、葉は倒披針形、純頭で、蜜槽の周辺の毛に波状隆起があり、花は白色なので区別できる。この種は苦味がないので日本では薬用に供されないが、中国では清熱、解毒剤として、咽喉(いんこう)炎、扁桃腺(へんとうせん)炎、結膜炎などの治療に用いている。インドではチレッタS. chirata (Roxburgh) Lyonsを、ヨーロッパではセンタウリウムCentaurium umbellatum Gilib.をセンブリと同様に用いる。

[長沢元夫 2021年5月21日]



センブリ(昆虫)
せんぶり / 千振
alderfly

昆虫綱脈翅(みゃくし)目広翅亜目センブリ科Sialidaeに属する昆虫の総称、またはそのなかの1種。この類は同じ広翅亜目のヘビトンボ科の昆虫に近縁であるが、ヘビトンボ類は概して体が大きいのに対し、センブリ類は小形のものばかりである。体長は10~25ミリメートル、はねの開張幅20~40ミリメートル。体はいずれも黒く、単眼がなく、脈翅目のなかではじょうぶなはねをもち、はねはいずれも薄墨色で、やや幅広くなっている。幼虫は水生で、池沼や緩やかな小流の泥底にすみ、7対の気管えらを腹部にもっている。成虫は春から夏にかけて出現し、雌は水草などに卵を産み付ける。世界から4属約40種が知られるのみで、日本からは7種が記録され、ヨーロッパ北部から北海道にまで分布するセンブリSialis sibiricaのほか、本州にみられるヤマトセンブリS. japonicaやネグロセンブリS. mitsuhashiiが代表種である。

[山崎柄根]

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百科事典マイペディア 「センブリ」の意味・わかりやすい解説

センブリ

リンドウ科の一〜二年草。北海道南西部〜九州,東アジアの日当りのよい山野にはえる。高さ10〜20cm,葉は線形で対生し,10〜11月,白色の花を開く。花冠は5深裂し,径2cm内外,裂片は披針形で基部には2個の腺がある。全草に強い苦味があり,苦味チンキ,センブリ散など苦味健胃剤の原料となる。
→関連項目胃腸薬健胃薬民間薬

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「センブリ」の意味・わかりやすい解説

センブリ(千振)
センブリ
Swertia japonica; swertia

リンドウ科の二年草。日本,朝鮮半島,中国北部に分布する。日当りのよい山野に多い。茎は高さ 10~30cmでよく分枝し,稜があって角張り,紫色を帯びる特徴がある。葉は長さ2~3cmの線形で,柄はなく対生する。秋に,茎の頂部に白色で紫の筋のある星形の5弁花を多数つける。全草に苦みがあり,開花期に全草を陰干しにしたものが生薬の当薬 (とうやく) で,粉末または煎じた汁を健胃剤として用いる。和名は煎じて千回振出してもなお苦いということに由来する。

センブリ
Sialidae; alderfly

ヘビトンボ目センブリ科に属する昆虫の総称。小型で翅の開張は 20~40mm。体は暗褐色のものが多い。触角は長く,細い糸状。単眼を欠き,翅はかなり幅広い。肢の 跗節の第4節は2葉状になっている。幼虫の腹部には7対の気管鰓と1本の尾糸がある。成虫は春に出現し,水辺の草むらなどにみられる。世界に数十種,日本に9種が知られる。 (→ヘビトンボ類 )  

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デジタル大辞泉プラス 「センブリ」の解説

センブリ

リンドウ科センブリ属の二年草。葉は健胃作用があり生薬として使用される。「トウヤク(当薬)」ともいう。

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世界大百科事典(旧版)内のセンブリの言及

【民間薬】より

…民間薬と漢方薬はこのように互いに交流があり,区別の判然としないものも多い。比較的区別の明確な薬物を強いてあげれば,ドクダミ,ゲンノショウコ,センブリなどで,これらは民間薬として広く用いられているが,漢方薬としてはあまり用いられない。一方,柴胡(さいこ),黄芩(おうごん),麻黄などは漢方薬として使用頻度が高いが,民間薬として用いることは少ない。…

※「センブリ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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