消化薬,健胃薬,整腸薬等を包括し,広い意味で消化機能を助ける目的で使用される薬物群の総称。胸焼け,げっぷをはじめとして悪心,嘔吐,食欲不振,胃痛,腹痛,潰瘍,下痢,便秘等日常経験する多様な胃腸障害に用いられる薬物を含むので,薬効分類上次のように多くの種類に分けられる。(1)苦味・芳香健胃薬 昔から苦味は,舌の感覚を通じて反射的に中枢を刺激し,これが副交感神経を介して胃液その他の消化液の分泌を促進し消化管運動をうながすとされている。芳香性精油は,そのにおいの感覚の反射により,消化液の分泌,消化管運動を亢進させる。精油は,胃内や腸管内にたまったガスの排出を促進する作用もあり,胃や腸の膨満感を除く。これら苦味,芳香成分の多くは次のような薬用植物に含まれる。苦味配糖体を含む生薬(ゲンチアナ,千振,苦木),アルカロイドを含む苦味生薬(コロンボ,ホミカ),苦味と腸内殺菌作用を有する生薬(黄檗(おうばく),黄蓮(おうれん)),苦味と緩下作用を有する生薬(大黄,カスカラサグラダ),芳香性生薬(茴香(ういきよう),カミツレ,桂皮,肉荳蔲(にくずく),山椒,薄荷)。(2)酸剤 胃機能が低下した状態では胃液分泌が低下するのでこれを補う薬剤。塩酸リモナーデ,クエン酸,塩酸ベタインなど。(3)消化酵素剤 消化酵素の不足を補う薬剤。タンパク質,炭水化物,脂肪などそれぞれを分解する酵素を用いるが,薬物となりうる酵素は消化管内で安定で活性を保つものでなければならない。このような消化酵素が高等動物臓器,植物,微生物から抽出されている。高等動物の酵素(ペプシン,パンクレアチン,プロタミラーゼ),植物の酵素(ジアスターゼ,パパイン),微生物の酵素(アシダーゼ,サナクターゼ,タカジアスターゼ,ベルナーゼ,セルラーゼ)などのほか多数の製品が開発されている。なかにはヒトでは通常消化しないセルロースを消化する酵素を含むものもある。(4)副交感神経刺激薬 消化器の機能を支配する自律神経を刺激する薬物で,ネオスチグミン,ベサネコールなど。このほか中枢神経に作用して消化機能を改善するメトクロプラミドなどがある。(5)胃酸過多症(過酸症)に対する薬物 胃酸分泌の過剰は胸焼けや胃部不快感の原因となるとともに胃・十二指腸潰瘍の原因・悪化因子である。これに対しては次のような薬物がある。制酸薬(炭酸水素ナトリウム,水酸化アルミニウム,ケイ酸マグネシウム),ヒスタミンH2-受容体拮抗薬(シメチジン,ラニチジン),プロトンポンプ阻害薬(オメプラゾール,ランソプラゾール),副交感神経遮断薬(ピレンゼピン,アトロピン,ロートエキス)。(6)整腸薬 腸内の異常発酵や便秘,下痢などに対する薬物である。腸内殺菌薬,収斂(しゆうれん)薬,吸着薬,乳酸菌製剤などは下痢傾向に対する薬物であり,寒天,界面活性剤などが便秘に用いられる。強い下剤や止瀉(ししや)薬は通常胃腸薬の分類には含めない。ゲンノショウコや千振など民間薬のなかにも胃腸薬としての薬効がうたわれるものがあり,その薬効は科学的に研究されている。
執筆者:渡辺 和夫
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健胃消化剤、制酸剤、整腸剤、止瀉(ししゃ)剤(下痢止め)など胃や腸に作用する薬の一般名で、胃カタル、腸カタル、胃下垂、胃拡張、胃アトニー、消化不良などのほか、胸やけ、腹痛、下痢などの症状に用いる医薬品の総称。概して一般用医薬品で、家庭常備薬としてまた海外旅行者の必需品として用いられる。
おもなものをあげると、胃酸過多に用いる制酸剤(重曹、酸化マグネシウム、乾燥水酸化アルミニウムゲルなど)をはじめ、食べすぎや消化不良に用いる消化剤(ジアスターゼ、ペプシン、パンクレアチンのほか、微生物由来のアミラーゼ、プロテアーゼ、リパーゼ、セルラーゼなど)、食欲不振や消化不良時に胃の運動を促進し、胃液の分泌を亢進(こうしん)させる苦味剤(ゲンチアナ、センブリ、リュウタンなど)や芳香剤(ケイヒ、ウイキョウ、ハッカなど)、腹痛や下痢に用いる整腸剤(ベルベリン、アクリノール、タンナルビン、クレオソート、乳酸菌製剤など)がある。また最近では消化性潰瘍(かいよう)治療薬やロートエキスを配合したものも市販されている。胃腸薬の主流は健胃消化剤であり、制酸剤をベースに消化酵素を配合したものである。また乳酸菌製剤を主成分とした整腸剤も多い。最近の傾向として漢方処方をベースとした生薬のみからなる胃腸薬も繁用され、生薬と制酸剤、消化剤などを配合したものもある。漢方では安中散が有名である。
[幸保文治]
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