日本大百科全書(ニッポニカ) 「タチアオイ」の意味・わかりやすい解説
タチアオイ
たちあおい / 立葵
蜀葵
hollyhock
[学] Alcea rosea L.
Althaea rosea Cav.
アオイ科(APG分類:アオイ科)の多年草。園芸的には英名のホリホックの名でよぶことが多い。全体に硬毛で覆われ、葉は心臓形。花穂は高さ2~3メートルに及び、花序は1メートルを超す。径約10センチメートルの花を腋生(えきせい)する。一重咲きと八重咲きがあり、花色は赤、藤桃、桃、淡黄、白色などがある。性質はじょうぶで、農家の庭先などに普通にみられ、花壇植えにもする。一年生の新種マジョレット、シルバーパフなどは早春に播種(はしゅ)すると、高さ1~1.5メートルになり、その年の夏に開花する。
[佐藤和規 2020年4月17日]
文化史
人類が利用したもっとも古い花の一つ。イラク北部のシャニダールの洞窟(どうくつ)でみいだされた5万年前のネアンデルタール人の埋葬骨といっしょに、タチアオイ属やヤグルマギク属(セントウレア)などの花粉が発見されている。中国でも最古の花卉(かき)で、紀元前2世紀に編纂(へんさん)された『爾雅(じが)』に名をみる。中国では戎葵(じゅうき)、蜀葵(しょくき)、胡葵(こき)とよばれ、唐代にボタンが台頭するまで、タチアオイは主要な花卉であった。段成式(だんせいしき)は『酉陽雑俎(ゆうようざっそ)』(860ころ)で、「ボタンは元和(806~820)の初めにはまだ少なかったが、今は戎葵と数をくらべるほどになった」(今村与志雄訳)と記述した。日本には平安時代までに渡来したようで、『新撰字鏡(しんせんじきょう)』(901ころ)の「加良保比(からほひ)」や『本草和名(ほんぞうわみょう)』(918ころ)の「加良阿布比(からあふひ)」はタチアオイであろう。江戸時代には品種が増え、『花壇地錦抄(かだんちきんしょう)』(1695)には、くれない、むらさき、うすずみ、雪白、そこ白、うすい色にて花のへり白し、などの花色があがり、八重咲きも記録されている。
[湯浅浩史 2020年4月17日]