中国古代の字書。いま伝わる本は全19篇。著者,著作の年代,ともに未詳。ただし周公旦の著作といい,あるいは孔子の作といい,またあるいは孔子の弟子の作というのは,いずれもこの字書を重視し,できるだけ由緒正しいものに仕立てようというためであろう。《爾疋(じが)》とも書くが,いずれも〈爾〉は〈邇〉すなわち〈近〉,〈雅〉もしくは〈疋〉は〈正〉,全体として〈正しきに近づく〉意だとされ,もと《五経》をその正しい意味において読むための字書だとされた。しかし実際には《五経》に見える語は全体の3,4割にすぎないという。いずれにしてもかなり古い要素を含み,全体が今の形にととのえられたのも,かなり古い時代のことであろう。〈釈話〉〈釈言〉〈釈訓〉,以上最初の3篇はいわば〈ことば典〉として語の解釈,第4篇〈釈親〉以下が解釈を伴った分類語彙集である。〈ことば典〉の部分では〈AはBなり〉式の置き換え訓話が普通だが,〈こと典〉部分にはそのほかに語彙の単なる羅列があったり,〈BはAと謂(い)う〉という〈AはBなり〉と逆の形式が目だったりする。〈ことば典〉部分と〈こと典〉部分が,もともと別のものであったことを示すものかもしれない。
後代《広雅》をはじめ多くの雅の字を冠する同類の字書を生んだ。漢代すでにいくつかの注釈が作られたが,散逸して断片しかのこらず,完全なテキストは晋の郭璞(かくはく)の注したものだけである。宋の邢昺(けいへい)はこれに従って《爾雅義疏》11巻を作り,今日ではそれが《十三経注疏》の中に収められ〈経〉に準ずる扱いを受けている。後代の研究としては清の邵晋涵(しようしんかん)の《爾雅正義》,郝懿行(かくいこう)の《爾雅義疏》各20巻が名高い。いずれも郭璞の注にもとづく再注釈である。
執筆者:尾崎 雄二郎
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中国最古の字書。著者不明。秦(しん)・漢初のころに編纂(へんさん)されたらしく、前漢の武帝(在位前140~前87)の時代にはすでにあった。一種の意味別語彙(ごい)集、類義語字典であり、「釈詁(しゃくこ)」「釈親」「釈天」「釈草」「釈虫」など19の部門に分けて、漢字の意味を説明する。字形、字音には触れない。訓詁すなわち古典中の字句の意味解釈を集成したものと思われる。書名は「雅(タダ)シキニ爾(チカ)ヅク」、つまりこの書によって古典を正しく読解できる、との意味である。やがて儒学の経典に準ずる扱いを受け、唐・宋(そう)以後は十二経(十三経)の一つとされ、郭璞(かくはく)(276―324)の注釈とともに行われた。2世紀の『説文解字(せつもんかいじ)』を祖とする字形分類の字書、3世紀の『声類』を祖とする字音分類の字書(韻書)と並び、本書を祖とする字義分類の字書は字書の歴史上重要な一派をなす。
[平山久雄]
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… こうした広い意味での〈字書〉,また《四庫全書総目》での下位分類としての〈字書〉,いずれの場合でもことさらに〈字〉書という言い方で〈字〉を表面に出してくるのは,中国語の意味や音(おん)の単位が普通ただ一つの音節,いわゆる単音節によってあらわされ,それを形象化するのが一つ一つの文字つまり漢字であるため,〈字〉についてその意味,音を語ることが,すなわち中国語の意味や音の,少なくとも単位について語ることになるからである。主として意味を論ずる〈訓詁〉学書,たとえば《爾雅(じが)》《小爾雅》《方言》《釈名》《広雅》《埤雅(ひが)》《爾雅翼》《駢雅(べんが)》《通雅》など,また,すでに例をあげた〈字書〉類,次に詩文の押韻の基準を示すことをおもな目的とし,副次的にはある文字について訓詁を知りたいときもその音によって引ける構造になっている〈韻書〉類,たとえば《切韻》《広韻》《集韻》《礼部韻略》《古今韻会挙要》《洪武正韻》《佩文詩韻》《音韻闡微(せんび)》など,以上いずれもそうである。訓詁学
[親字と熟語]
しかし,中国語において意味や音の単位が単音節であるといっても,実際にはひじょうに古い時代から,単音節を二つ以上組み合わせたもの,つまり二つ以上の音節,したがって二つ以上の意味の単位を組み合わせて一つの合成された新しい意味をかたちづくるという現象が見られた。…
…最初の事典とされる大プリニウス(23ころ‐79)編の《博物誌》は,地理,人種,動物,植物,鉱物と分類されていた。漢代に成立したと思われる中国最初の類書《爾雅》は,親,宮,器,楽,天,地などと19分類されている。1674年に刊行されたフランスのモレリLouis Moreri(1643‐80)の《歴史大辞典Le grand dictionnaire historique》が項目をアルファベット順に配列し,以後その方法が普及した。…
…
[類書の起源]
類書の起源を何に求めるかについては議論のあるところであるが,筆者の考えによればまず第1は字書である。最古の字書で十三経の一つに数えられる《爾雅(じが)》においてすでに,類関係によって文字を区分する方法がとられており,親・宮・器・楽・天・地など19類に分けられるのであるが,後漢の劉熙(りゆうき)が著した《釈名》になると釈天・釈地に始まる27類がみごとに体系化されてくる。そして,こうした分類とその体系は後の類書に大きな影響を与えた。…
※「爾雅」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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