タンタル

デジタル大辞泉 「タンタル」の意味・読み・例文・類語

タンタル(〈ドイツ〉Tantal)

バナジウム族元素の一。鋼灰色で展性・延性に富み、耐酸性がよい。化学工業用耐酸材・電子管材料などに利用。元素記号Ta 原子番号73。原子量180.9。

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精選版 日本国語大辞典 「タンタル」の意味・読み・例文・類語

タンタル

  1. 〘 名詞 〙 ( [ドイツ語] Tantal ギリシア神話のタンタロスにちなむ ) バナジウム族元素の一つ。元素記号 Ta 原子番号七三。原子量一八〇・九四七九。灰黒色、等軸晶系の金属。一八〇二年、スウェーデンのエーケベリが発見。タンタル石などの鉱物に含まれ、ニオブとともに産出。展性・延性に富み、耐酸性が強い。熱交換器・加熱器・冷却器などの化学工業用耐酸材、真空管材料、歯科・外科などの手術材料、合金元素などに用いられる。タングステンが用いられるまでは電球のフィラメントに使用された。〔稿本化学語彙(1900)〕

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化学辞典 第2版 「タンタル」の解説

タンタル
タンタル
tantalum

Ta.原子番号73の元素.電子配置[Xe]4f 145d36s2の周期表5族遷移金属元素(d-ブロック).原子量180.9479(1).質量数155~190の同位体が知られているが,安定同位体は180(0.012(2)%),181(99.988(2)%).1802年,スウェーデンの化学者,A.G. Ekebergがフィンランドおよびスウェーデン産の2種類の鉱物中に発見し,酸化物が酸に溶けないことからギリシア神話の“Tantalus”にちなんでタンタルと命名した.宇田川榕菴は天保8年(1837年)に出版した「舎密開宗」で,これを旦荅律母(タンタリュム)としている.ニオブと性質が類似していることから,両者が異なる元素であることを確認するまでにかなりの論争があった.
地殻中の存在度1.0 ppm.主要鉱石は,タンタル石(Fe,Mn)Ta2O6やマイクロ石(Na,Ca)2Ta2O6(O,OH,F)など.ニオブの鉱石コルンブ石,パイロクロアとともに産出する.資源的にいちじるしく偏在していて,オーストラリア,ブラジル,カナダが世界の埋蔵量のほぼ100% を占める.採掘採算性埋蔵量はオーストラリア4万t,カナダ3千 t,全埋蔵量ではオーストラリア8万t,ブラジル7万3千 t(2006年).わが国は全量を金属,半製品,製品の形でアメリカ,ドイツ,中国から輸入している.希少金属であるため,価格変動が激しい.アメリカでは戦略上重要鉱物として備蓄の対象で,わが国では要注視鉱種(資源エネルギー庁)とされている.製錬はアルカリ融解したのち,フッ化水素酸に溶かしてフルオロ錯塩の形で溶媒(イソブチル=メチル=ケトンなど)抽出する.単体はフッ化物K2TaF7マグネシウム,ナトリウムで還元するか,融解塩電解を行うことにより得られる.金属タンタルは銀色で,結晶系は等軸晶系体心立方格子.密度16.65 g cm-3(0 ℃).融点2996 ℃,沸点5425 ℃.原子半径0.143 nm.第一イオン化エネルギー714 kJ mol-1(7.40 eV).かなり硬い金属であるが展延性に富む.少量の不純物によりもろくなる.酸化数2~5の状態をとり,酸化数5がもっとも安定である.化学的にはきわめて抵抗力が大きく,塩酸,硝酸はもとより王水にも不溶.また,200 ℃ 以下の温度では,塩素,濃硫酸,強アルカリにも侵されない.ただし,フッ化水素酸,融解アルカリに可溶.また高温においては,フッ素,塩素,酸素,窒素,炭素とも直接反応する.水素に対して異常に大きい親和力を示し,加熱すると600 ℃ で自己の体積の740倍の水素を吸放し,もろい水素化物を生成する.
最大の用途は,タンタル粉末焼結体を正極とする大容量で高温・電圧サージに強い小型コンデンサー(キャパシター)で,パソコンCPU,携帯電話,自動車電装品,航空機,ミサイル,兵器システムなどで用いられる.耐熱,耐食,耐酸性にすぐれるので化学プラント用材料,航空機構造材やジェットエンジンに使われる超合金の成分,ハードディスク磁性層などに使われるスパッター材料,生体組織と反応しないので医療器具・人工骨・人工歯根材料として使われる.酸化タンタルTa2O5は,携帯電話などのノイズフィルターに使われるタンタル酸リチウムLiTaO3製造の原料および光学レンズ用添加材,炭化タンタル TaCは,切削工具に用いられる超硬合金用添加材に用いられる.[CAS 7440-25-7]

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改訂新版 世界大百科事典 「タンタル」の意味・わかりやすい解説

タンタル
tantalum

周期表第ⅤA族に属するバナジウム族元素の一つ。1802年スウェーデンのA.G.エーケベリーが,フィンランドのキミトおよびスウェーデンのイッテルビーで見いだされた新鉱石中から新元素として発見し,酸化物が過剰の酸にも溶けず塩として分離できなかったことから,たえず渇いているとして,地獄で飢えと渇きに苦しむギリシア神話のタンタロスにちなんで命名した。

広く存在するが,濃縮された鉱床は少ない。つねにニオブと共存し,鉱石が同じで,それらから取り出して分離する方法が問題になる。鉱石にはコロンバイトタンタライトなどがある。

灰黒色の金属。空気中では安定。水とは反応せず,フッ化水素酸,融解アルカリには溶ける。酸に不溶であり,強酸とくに硫酸に対する耐食性が強く,150℃の発煙硫酸でないと溶けず,耐酸性は貴金属以上である。展延性があり,軟らかさは銅と同じ程度。膨張率が小さく,ガラスに封入することができる。水素の吸蔵力が大きく,暗赤色に加熱すると740容の水素を吸蔵する。

原料鉱石をアルカリ融解するなどして不純物を除き,ついでフッ化水素酸で処理してタンタルとニオブのフルオロ錯塩とし,溶媒抽出法などによってニオブと分離する。ついでフッ化水素酸,フッ化カリウムを加えてフルオロ錯塩K2TaF7とし,金属ナトリウムで還元するか,溶融塩電解する。粉末で得られた金属は,融点が高く,侵入型化合物をつくりやすいので,真空アーク溶解,電子ビーム溶解などによってインゴットとする。

金属タンタルは生産量の半数以上が電子工業に用いられ,とくにタンタル粉末を真空焼結して陽極とした電解コンデンサーは,小型化が可能で優れた電気特性,温度特性をもち,広く使われる。また耐食性が強いため化学装置用材料としてもよく用いられる。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「タンタル」の意味・わかりやすい解説

タンタル
たんたる
tantalum

周期表第5族に属し、バナジウム族元素の一つ。原子番号73、元素記号Ta。1802年スウェーデンのエーケベリがフィンランドおよびスウェーデンでみつけられた鉱石(タンタル石)の中から発見し、その反応が複雑で確認に苦労し、また、その酸化物が酸に侵されないところから、ギリシア神話のタンタロスにちなんで命名された。つねにニオブと共存する希元素である。鉱石からアルカリ融解でタンタル酸塩として抽出し、フルオリド錯塩に変えて分別結晶を行い、随伴するニオブと分離、融解塩の電解還元によって単体の金属を得る。白金に似た外観を呈し、展延性があり、耐力性、耐食性に富むが、展延性は不純物の混入によって著しく阻害される。水素の吸蔵力が大きく、暗赤色に加熱した状態で740倍の体積の水素ガスを吸蔵するが、これを真空中で加熱すると75%だけが放出され、残りはタンタルの水素化物となる。フッ化水素酸以外の酸に侵されないため、化学工業用耐酸材料に使われ、電子材料、合金材料などの用途もある。酸化数+Ⅴの化合物が一般に安定であるが、+Ⅳ、+Ⅲ、+Ⅱの化合物も知られている。Ta6Cl14・7H2Oのようなクラスター化合物、[(NH4)x(NH3)n](TaS2)のような層間化合物などの特殊な化合物もある。

[岩本振武]



タンタル(データノート)
たんたるでーたのーと

タンタル
 元素記号  Ta
 原子番号  73
 原子量   180.94788
 融点    2990℃
 沸点    5400℃
 比重    16.64(20℃)
 結晶系   立方
 元素存在度 宇宙 0.022(第83位)
          (Si106個当りの原子数)
       地殻 2ppm(第49位)
       海水 2×10-3μg/dm3

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「タンタル」の意味・わかりやすい解説

タンタル
tantalum

元素記号 Ta ,原子番号 73,原子量 180.9479。周期表5族に属する。常にニオブと共存し,主要鉱石はニオブ石,タンタル石である。地殻の平均含有量 2ppm,海水中の存在量 0.02 μg/l 。 1802年スウェーデンの化学者で鉱物学者の A.エケベリが発見。単体は灰色の展延性に富む硬い金属で,融点 2980℃,比重 16.64。線状に成形したときの抗張力は銅,ニッケル,白金などより大。耐食性に富み,高温ではよく水素を吸蔵する。空気中ではきわめて安定。フッ化水素酸以外の酸に不溶。したがって化学工業用耐酸性材料,熱交換器,ペン先,分銅,外科や歯科用の器材,真空管材料,整流器,レーダ用電子管材料などに広く使用されている。

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百科事典マイペディア 「タンタル」の意味・わかりやすい解説

タンタル

元素記号はTa。原子番号73,原子量180.94788。融点2985℃,沸点5510℃。金属元素の一つ。1802年エーケベリーが発見。外見は白金に似た金属で,耐熱・耐食性大。耐酸材料,歯科の医療器具材料などに使用。天然にはニオブと共存,存在量は少ない。

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世界大百科事典(旧版)内のタンタルの言及

【エーケベリー】より

…1795年ラボアジエの体系にもとづく新しい化学命名法を初めてスウェーデンに導入した。97年,発見されたばかりの新元素酸化物イットリアについて詳細な研究を匿名で発表,また1802年には新元素タンタルを発見した。これは前年に発見されたコロンビウム(ニオブ)と混同されたが,46年になって別の元素であることが確証された。…

【高融点金属材料】より

…融点の高い金属材料,とくにタングステン,タンタル,モリブデン,ニオブと,これらの合金をさすことが多い。元素を融点の順に並べてみると,タングステン(3387℃),レニウム(3180℃),タンタル(2996℃),オスミウム(2700℃),モリブデン(2610℃),ニオブ(2468℃),イリジウム(2447℃),ホウ素(2300℃),ルテニウム(2250℃),ハフニウム(2150℃)となる。…

※「タンタル」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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