翻訳|ingot
狭義の〈鋳物shaped casting〉のように直接製品の形状を得るのではなく,製錬された金属をのちに圧延,鍛造などの加工や再溶解を行う目的で,目的に適した大きさ,形状に鋳造した金属塊のこと。鋳塊ともいい,金属が鉄鋼の場合には鋼塊ともいう。近代の金属製錬においては,ほとんどの金属が鉱石から液体金属として取り出されるから,一度インゴットに鋳込まなければならない。インゴットは,製錬や凝固に起因するさまざまな不均一性を有している。すなわち,ミクロおよびマクロの偏析,非金属介在物の存在,収縮パイプ(収縮孔)やピンホールなどの欠陥,などである。これらの不均一性は,その後の加工や熱処理において,いくらかは除去できるが,すべて均一になることはなく,材料の機械的・化学的性質に大きな影響を与える。したがって,性質のよいインゴットをつくることは金属工業においてきわめて大きな意義をもっている。
インゴットの製造法は,鋳型(インゴット・ケース)に鋳込んで鋳型の数だけ同時に造塊する方法と,周囲だけで底のない鋳型に鋳込んで連続的に鋳造する連続鋳造の2方法が多く行われている。そのほか,真空処理により窒素,水素,酸素などの量をコントロールする各種の真空造塊法,一度鋳造したインゴットを電極として,溶融スラグの電気抵抗熱によって再溶解し,スラグ中を滴下させて順次凝固させるエレクトロスラグ溶解法(ESR法)などが特別な場合に行われる。連続鋳造は,非鉄金属では早くから行われてきたが,近年では鉄鋼にも普及し,1980年には日本の粗鋼生産量の60%以上が連続鋳造で生産されるようになった。
造塊法でつくる鉄鋼のインゴットには,製造上からキルド鋼killed steel,セミキルド鋼semi-killed steel,リムド鋼rimmed steel,キャップド鋼capped steelに分けられ,それぞれ溶鋼の脱酸形式が異なり,独特の凝固パターンを示している。製鋼法における重要な反応は,溶鉄に添加された酸素が溶鉄中の炭素と化合してガス(一酸化炭素)を生ずる反応である。溶鋼中に残存する酸素は,溶鋼を鋳型に注入後,インゴットの凝固面で引き続いてガスを発生し,インゴットの成分の不均一,収縮パイプやピンホールの生成などの欠陥が起こる。そのため,注入前に溶鋼中の酸素を除去し,ガス発生量を調節する必要があり,これを脱酸という。リムド鋼は脱酸の程度が弱く,気泡が発生して凝固前面が激しくかくはんされる。このため,凝固層は純度の高い外側(リム)がまず得られ,発泡の衰えとともに内部には合金元素が平均して濃縮し,偏析が生じている。リムド鋼は表面性状が良好であるため,圧延製品,とくに薄板に使用される。キルド鋼はケイ素,アルミニウムのような強い脱酸剤を使用し,十分脱酸した鋼種で,樹枝状晶(デンドライト)が発達し,マクロ偏析も大きなものになる。しかし,凝固の際の収縮のため,インゴット上部に収縮パイプを生じ,圧延時には上部を切り捨てて用いられる。キルド鋼は材質の均一性を要求する用途に最も広く使用される。セミキルド鋼は,キルド鋼とリムド鋼の中間程度の脱酸を行ったもので,凝固の進行にともなって若干の気泡を発生させ,収縮パイプを少なくしている。セミキルド鋼は一般構造用,造船用厚板などに使用される。キャップド鋼は,リムド鋼程度に脱酸された溶鋼を上の開いた鋳型に注入し,ふたをかぶせて内圧を働かせ,上部の鋼を凝固させたもので,表面性状はリムド鋼に似ており,薄板に多く使用される。近年,インゴットは連続鋳造法でつくられるようになり,連続鋳造に用いられる鋼はキルド鋼に限られるため,リムド鋼,セミキルド鋼,キャップド鋼はしだいに減少しつつある。
→製鉄・製鋼
執筆者:梅田 高照+宮下 芳雄
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[圧延工程]
金属材料は圧延によって,板,棒,線,形材,管などに加工されるが,その際に材料を加熱した状態で行う熱間圧延hot rollingと,加熱しないで行う冷間圧延cold rollingとがある。熱間圧延は大きな変形が可能であり,インゴットを分塊圧延したり,板材,形材の圧延に適しているが,仕上げ面が酸化される欠点がある。冷間圧延は小さな変形しかできないが,表面状態が良い加工ができるので,製品の仕上げに利用されることが多い。…
… 以上述べた各種製鋼法の特徴を表3に示すが,日本では特殊鋼メーカーはほとんど電気炉により,銑鋼一貫製鉄所は転炉が主体である(〈電気炉〉の項参照)。
【造塊】
各種の製鋼炉でつくられた溶鋼は,いったん取鍋に受け,ここで成分調整,脱酸,温度調節を行い,鋳型に流し込み鋼塊(インゴットという)とするが,連続鋳造機により鋳片を製造する。これらの工程を造塊という。…
※「インゴット」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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