翻訳|Daphnis
ギリシア神話に出てくるシチリアの羊飼い。父はヘルメス、母はニンフで、彼は月桂樹(げっけいじゅ)(ダフネ)の森で生まれたので、「月桂樹の子」(ダフニス)と命名されたという。また月桂樹の森に生み捨てられたのを牧人たちが見つけ、ダフニスと名づけて牧人に育てあげたともいわれる。ダフニスは家畜の番をしながら好んで笛を吹いたり歌を歌ったが、牧歌は彼によって発明され、後世までシチリアに伝えられたという。またその美貌(びぼう)からダフニスはニンフたちに愛されたが、すべてすげなくあしらったり拒絶した。彼はあるニンフに愛を誓いながらそれに背いたため盲目にされ、悲しみのあまり崖(がけ)から身を投げて死んだ。テオクリトスによれば、女神アフロディテの怒りを受けて死に、神々やニンフ、野獣たちまでがその死を悲しんだという。ダフニスの伝説はステシコロス以来しばしば文学の対象とされたが、テオクリトスによって初めて牧歌が文学として完成されるとともに、彼はその作中人物として典型化され、牧歌と結び付いて後世に至るまで好んで用いられている。
[伊藤照夫]
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…以後この木はアポロンの聖木となり,彼が音楽,弓術,詩歌の神でもあったことから,竪琴と矢筒および詩人の額を飾る誉れの印となった。また,ダフネの名もこの木の呼名となり,たとえばヘルメスの息子で牧歌の創始者と伝えられるダフニスDaphnisのように,ゲッケイジュの森で生まれたことにちなむ人名にも転用された。このダフニスにも,エロスに挑んでニンフを熱愛する罰を受けた神話が語られている。…
…人間に対しては,庭園や牧場に花を咲かせ,家畜を見張り,狩りの獲物を提供し,泉の水を飲むか浴する者に予言の力を授けたり,病を治してやるなど,おおむね友好的である。しかしときには森の中を通る旅人を怖がらせたり,その姿を見た者にとりついて正気を失わせたり,またアルゴ船乗組員の美少年ヒュラスHylasを泉に引きこんだように,人をさらったり,シチリア島の羊飼いダフニスDaphnisを盲目にしたように,求愛に応じない者に報復するなどの害をなすこともあると信じられた。このため彼女たちは古くからギリシア各地で崇拝の対象となっており,しばしば泉や洞に供物がそなえられた。…
…片目一つ目【小田 亮】
[伝承と寓意]
西洋では,盲目になることは,通常は見ることを許されぬものを見た人や誓いを破った人に下される神罰と考えることが多かった。ギリシアの神話や伝説には,いっさいの立入りが許されないポセイドンの聖域に侵入したアルカディアの英雄アイピュトスAipytos,ほかの乙女とは恋をしないというニンフとの誓いを破ったダフニス等が盲目とされる話がある。これらの神話や伝説は,見ることが必ずしも知ることにつながらず,かえって傲慢や無知におちいり,罰を受ける結果になることを教えている。…
※「ダフニス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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