ベルナルダン・ド・サン・ピエールの小説。1788年刊。《自然の研究》(1784)の第4巻として発表。著者が以前滞在したインド洋上のフランス島(現,モーリシャス島)を舞台とした牧歌的純愛物語。美しい自然と善意の人びとのうちに,兄と妹のように育てられた少年ポールと少女ビルジニーはいつしか愛し合うが,少女はパリのおばに呼ばれ旅立つ。しかし文明社会になじもうとしないのに立腹したおばは,彼女を送り帰す。彼女の船は嵐のため島を目前に難破し,少女は波にのみ込まれてしまう。悲嘆に暮れた少年も,後を追うように亡くなる。18世紀後半のフランスでの主知的傾向を退け,〈人間の幸福が自然と美徳に従って生活することにある〉のを立証しようとしたこの小説は,読者に新鮮な感動を与えた。また,色彩感覚豊かな自然描写とともに,フランス文学へ異国趣味を導入した小説として,シャトーブリアン,ピエール・ロティらに及ぼした影響は大きい。
執筆者:中川 信
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
フランスの作家ベルナルダン・ド・サン・ピエールが『自然の研究』1787年版の最終巻に付け加えた小説。ポールとビルジニーは、フランス島(現在のモーリシャス島)で、社会のもたらす悪影響から免れて、貧しいが、けがれなく幸せな状態で育ち、子供のころから愛し合っている。金持ちで厳しい叔母によって教育のためにフランスへよばれたビルジニーは不幸になる。2年後、島へ戻る際、海岸で、ポールの見ているなか、船が難破して死に、ポールも悲しみから死ぬ。自然のなかにしか幸福はなく、社会のなかでは人間は不幸になるばかりという、自然と社会を対立させる考え方には、ルソーの強い影響がみられる。南海の島の自然や嵐(あらし)の描写は、それまでのフランス文学にはなかったもので、出版されると大成功を収め、現在まで読み継がれてきているベルナルダン・ド・サン・ピエールの唯一の作品である。
[原 好男]
『新庄嘉章訳『ポールとヴィルジニー』(角川文庫)』
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…作品の舞台がレスボス島になっていることから,レスボス島の出身と考えられている。牧人小説の祖として重要で,ベルナルダン・ド・サン・ピエールの小説《ポールとビルジニー》やM.ラベルの組曲《ダフニスとクロエ》など近代の文芸・音楽に与えた影響は大きい。【引地 正俊】。…
※「ポールとビルジニー」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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