翻訳|chain store
連鎖店と訳されることもある。国際チェーン・ストア協会の定義によれば、単一資本で11以上の店舗を直接経営・管理する小売業または飲食店の形態であるが、一般には、一つの企業が多店舗経営を行う形態をさしていう。この形態では、各店舗の経営は本部によって標準化され、集中的に管理される。仕入れは原則として本部が一括して行い、各店舗は販売に専念する。本部による一括仕入れによって個々の商品の仕入れ量は大きくなるため、仕入れ先に対して価格などについて交渉力(バイイング・パワー。購買力ともいう)が強くなる。各店舗ごとに仕入れる場合と比べて仕入れ原価は低くなり、同時に仕入れ経費も節減される。また生産者に対しては、チェーン・ストア独自の仕様による商品(プライベート・ブランド品)を一括発注し、生産させることができるので、販売商品の面でも他企業の店舗との差別化が図れる。
チェーン・ストア形態によって、各店舗は小規模で分散していても企業としては大規模化が可能となった。アメリカやイギリスなどでは19世紀後半からチェーン・ストアが発展し、日本でも1910年代(明治末期)から登場した。なかでも高島屋が1931年(昭和6)に始めた均一店チェーンは一時は106店にまで達したが、第二次世界大戦によってほとんどが消滅してしまった。日本でチェーン・ストアが本格的に発展したのは第二次世界大戦後の高度成長期(1960年代)で、主としてスーパーマーケットを経営する企業によってチェーン展開が急テンポで進んだ。日本チェーンストア協会加盟の企業数、店舗数は、1968年4月時点でそれぞれ73社、1066店であったが、2010年(平成22)7月時点では63社、7858店となった。企業数は合併や協会からの脱退で減少したが、店舗数の伸びは著しい。
チェーン・ストアの形態をとる企業にはスーパーマーケットがもっとも多いが、1990年代からは専門店のチェーン・ストアの伸びが著しい。とくに家電、婦人服・紳士服、カメラ、ホームセンター、飲食店などの専門店企業においてチェーン展開が目だっている。このほか、広告代理店やハウスクリーニングなどのサービス業でもチェーン展開が行われている。
チェーン・ストアと同様のメリットをねらった形態として、おもに問屋が中心になり小売店が集まってつくるボランタリー・チェーン、メーカーや販売業者が独立小売店を加盟店としてシェアの拡大を図るフランチャイズ・チェーンがある。一大勢力に成長したコンビニエンス・ストアは、フランチャイズ・チェーンの代表的な成功事例である。これらと区別するために、チェーン・ストアをレギュラー・チェーンとよぶことが多い。レギュラー・チェーン、ボランタリー・チェーンおよびフランチャイズ・チェーンの3形態をあわせると、2007年時点の小売年間販売額は全国小売販売額の約6割に達すると推計される。
[伊藤公一]
『渥美俊一著『21世紀のチェーンストア――チェーンストア経営の目的と現状』(2008・実務教育出版)』▽『林薫著『チェーンストアの常識』(2010・商業界)』▽『鈴木豊著『チェーンストアの知識』(日経文庫)』
19世紀末から20世紀初頭にかけてアメリカで発生し,1920年代に著しい発展を遂げた小売形態で,百貨店,スーパーマーケットとならぶ三大小売業革新の一つといわれている。連鎖店という訳語は今日ではあまり使われない。レギュラー・チェーンregular chainないしコーポレート・チェーンcorporate chainとボランタリー・チェーンvoluntary chain(VC)とに分けられるが,第2次大戦後にはフランチャイズ・チェーンfranchise chainないし契約チェーンと呼ばれる新しいチェーン・ストアも発展している。
レギュラー・チェーンは,強力な中央本部と多数の小売店舗を有する一企業体である。各小売店は資本的に中央本部に所有されるのみならず,経営的にも強い統制を受ける。中央本部の役割は,商品を大量に仕入れ,これを各店舗に配送するとともに,広告・宣伝さらには店舗デザインの統一など,あらゆる面で一企業体としての経営管理を行うことである。アメリカの場合には食品,衣料品,薬品,靴など,日本では家電製品,薬品,靴などの商品部門で発展している。
ボランタリー・チェーンは,同一業種ないし同一地域内の多数の独立小売店が相互に組合を結成したり(小売店主導型),卸売業者と契約を結んだり(卸売主導型),あるいは製造業者と特約を結ぶ(製造業者主導型)などして,チェーンを形成するものである。各店舗が独立の小売商であるため中央本部の統制が緩やかであるという点でレギュラー・チェーンと異なるが,共同仕入れ,共同広告・宣伝,共同施設の保有など,チェーン組織としての統一された経営のもとで大規模組織のメリットを追求しようとする点では同一である。アメリカのボランタリー・チェーンはレギュラー・チェーンに対抗して発展してきたという歴史をもち,とくに食料品部門に多いのに対し,日本の場合には中小の独立小売商が百貨店に対抗するため組織したという経緯がある。また食料品部門より化粧品,薬品,菓子などの部門に多いのも日本の特徴である。
フランチャイズ・チェーンは,商品の流通やサービスなどでフランチャイズ(特権)をもつ親企業(フランチャイザーfranchiser)がチェーンに参加する独立店(フランチャイジーfranchisee)を組織して形成されたものである。親企業は各独立店に商品およびサービスの一定地域内の独占販売権を与えるかわり,独立店側は親企業に対して特約料(ロイヤルティ)を支払うという契約によって成立する。アメリカから導入されたこのノウ・ハウは日本でも現在発展しており,とくにレストランなど外食産業で普及している。
チェーン・ストアとくにレギュラー・チェーンの場合の長所と短所は次の点である。第1に,各店舗は各地域に存在する小規模店であるので,それぞれの地域に応じた弾力的な経営を行いうるため,百貨店のような大規模店に対して有利である。第2に,商品の共同仕入れ,共同広告,共同施設の利用などで1店舗当りのコストを下げることにより,廉価販売が可能となる。第3に,標準化商品の販売が可能となるため,商品の回転率を高めることができる。しかしその反面の欠点としては,第1に多数の店舗を管理するために管理費が上昇する。第2に各店舗ごとに有能な管理者をそろえることが困難である。第3に大量仕入れのため標準化された商品しか販売できない。第4に店舗の散在のため固定資産が過度にふくれ上がり経費を圧迫する,などである。こうしたレギュラー・チェーンに対してボランタリー・チェーンの場合には,各店舗が独立の小売業者であるため各地域の実情に応じた個性的な仕入れを並行して行いうるという長所の反面,本部の統制がきかず店舗経営がばらばらになるという欠陥がある。他方フランチャイズ・チェーンの場合は,強力な中央統制力というレギュラー・チェーンのメリットを生かす一方,各独立店のもつ人材,資本,個性などを生かし両者を組み合わせたメリットを追求しようとしているが,親企業の統制が強大すぎる場合には加盟店の反発を誘発するという欠点がある。
→小売店
執筆者:鳥羽 欽一郎
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…正称はグレート・アトランティック・アンド・パシフィック・ティー会社The Great Atlantic and Pacific Tea Company Inc.。アメリカの世界有数の食料品・雑貨中心の小売企業,チェーン・ストア。本社ニュージャージー州モントベール。…
…たとえば最寄店は食料品,医薬品,日用雑貨のような日常生活の必需品の小売機能を担当し,買回り店は装飾品,家具,家電製品のように消費者がその品質や価格をそのたびごとに比較して購入する商品の小売機能を,専門店は貴金属,宝石,特殊な趣味品あるいは一部のスポーツ用品などのように品質の限定された高級品の小売機能を担当している。また店舗の営業形態によっても担当される小売機能は分化されており,百貨店は主として中級品から高級品にいたる幅の広い価格の商品をあらゆる種類にわたって販売するという小売機能を,大型スーパーは中級品を主体とした標準化商品を,ディスカウント・ストアは大量生産された低価格商品の量販という機能を,さらにスーパーマーケットは食料品を主体とした小売機能を,チェーン・ストアは商品部門を限定した各種商品の小売機能をというように,各地域,人々の所得,人口差に合わせた多様な店舗が展開されて,それぞれの小売機能を果たしている。 このような小売機能を補助しているのが,小売業者を除く広義の商的・物的流通機関が担当する流通機能である。…
※「チェーンストア」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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