経営管理の一環として、財やサービスの生産に伴って発生する事務作業(情報の作成、収集、分類、記録、伝達、保管、修正、廃棄等)を効果的に遂行するための体系的措置。措置の内容は、経営管理の基本である計画plan、組織organization、統制controlのサイクルに即して体系化される。
まず事務計画は、必要な事務作業を洗い出し、それらを処理すべき時間的関連を計画化し、この計画を遂行するために必要な資源(人員、資金、機器等)を調達し配分することである。事務組織は、事務作業の分担関係と命令報告の経路を設定し、それらを効率的に機能させるために指揮監督の職務権限を明確化して、計画を現実に遂行させることである。事務統制は、事務組織が事務計画に即して所期の目標を達成しているかをチェックし、問題点があればそれを改善し、必要に応じて計画を修正することである。
視点を変えれば、事務管理には、実体的側面と計量的側面がある。前者は、事務処理の方法や機器、組織やシステムの実態のあり方を改善し革新することである。後者は、事務コスト、具体的には事務作業のための労務費や物品費等について、予算と実績を対比してコスト低減に努めることである。両者が補完して、事務の生産性向上が可能になる。
近代的事務管理は、20世紀初頭の科学的管理とともに始まった。科学的管理は、工場管理shop managementにインダストリアル・エンジニアリングindustrial engineering(IE)を適用することに主たる関心があったが、同じ発想を事務所に適用する形で事務(所)管理(オフィスマネジメントoffice management)が成立した。すなわち初期の事務管理は、生産・販売のような主要業務の補助活動と位置づけた事務作業の合理化が、その目的であった。第二次世界大戦後、事務は情報の視点で理解されるようになり、業務の補助活動を超えて経営者・管理者の意思決定に対する情報提供活動として位置づけられるようになった。これに情報技術information technology(IT)の急速な進歩が加わって、事務管理は業務活動と一体化した情報管理へと変貌(へんぼう)した。その理想は、情報の発生と活用の直結on lineおよび即時real time処理による、情報共有の活動体としてのオフィスオートメーションoffice automation(OA)であるとされるようになる。かくして事務管理という概念は、20世紀的な過去のものとしてほとんど使用されなくなっている。
なお、法律用語としての事務管理とは、法律上の義務がないにもかかわらず、他人のために物事を処理することである。たとえば、災害で破損した他人の家を頼まれないのに修理するなどであり、民法に規定(697条以下)がある。
[森本三男]
法律上の義務がないのに他人の事務を処理する行為。頼まれないのに不在者の家屋を修理したり、立替え払いをするのがこれにあたる。人は求められないのにあえて他人の事務に関与するならば、不法行為者として損害賠償義務を負うことになる。しかし、この原則を厳格に貫くならば、人は必要な場合にも他人の事務に関与しなくなるであろう。そこで、民法は、一定の要件のもとに、事務管理者の行為を適法なものとし、管理者と本人との間に一定の権利義務関係の発生を認めた。これが事務管理制度である。事務管理が開始されると、管理者は、管理開始の通知義務(699条)、管理継続の義務(700条)などを負い、本人は費用償還義務などを負う(そのほか委任に関する645条~647条の規定が、701条により準用される)。なお、管理者は、善良なる管理者の注意をもって管理することを要し、注意を欠くと債務不履行として損害賠償責任を負うが、本人の身体・名誉・財産に対する急迫の危害を免れしめるために事務の管理をなす場合(緊急事務管理)には、注意義務が軽減され、悪意または重大な過失がある場合のほかは損害賠償責任を負わない(698条)。
[淡路剛久]
法律上の義務がないのに,他人に属することがら(事務)を処理すること。そもそも他人の事務に,頼まれもせず,また義務を負っているわけでもないのにかってに干渉し,これを処理すると,場合によって不法行為として損害賠償義務を負わされる(民法709条)。しかし,例えば留守中の隣人のために新聞代の集金人に立替払いをするとか,海外滞在中の隣家の屋根を修理させるように,他人の事務の処理が,同人の明示または推知しうる意思に反せず,かつその他人の利益のためという意思で行われたときには,これを適法な行為とし,その他人と管理者間に適当な権利義務関係を生じさせることが,相互扶助の精神から望ましい。これを,民法上,事務管理という(697~702条)。
すなわち,ある人がいったん他人の事務の処理に着手した以上,同人(管理者)は,その性質上最も本人の利益に適するように誠実に処理する義務を負う。そのために,例えば,事務処理に着手したことをできるだけ早く本人に通知しなければならないし,また,その事務処理が本人の意思に反するか,本人にとって不利であることが明らかでない以上,その事務処理を継続するなどの義務を負わされる。他方,管理者は,その事務処理に要した費用の支払をその他人に請求することができる。
なお,例えば遺失物の拾得については遺失物法,水難の救護については水難救護法のように,他人の一定の事務の処理については特別法による特別の規制がある。
執筆者:好美 清光
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